第29話 これから(最終話)
「お疲れさまーでっす!」
久しぶりに練習室に来たユウヤは、日中の明るい室内だというのに目の瞳孔がバキバキに開いていた。
ユウヤは真っ直ぐにこちらを見つめていたが、顔は無表情で頬はこけ、僕もアダムもリュウもナオトも全員が、ユウヤの変わりように声が出なかった。
だが、世話役の僕がここは何とか場をおさめなければと、静かにそして深く息を吸う。
「ユウヤさん、あの——」
話し始めた僕の隣から素早く腕が伸び、そして、その瞬間ユウヤが吹っ飛んでいった。
「…お前何してんだよ!!」
怒鳴り声をあげたのはアダムで、どうやらユウヤを殴り飛ばしたらしい。アダムは、殴った方であろう拳を撫でている。
「いーったあーーーー!!」
殴られた頬を抑えて床をゴロゴロと転がるユウヤに、アダムはまだ怒りがおさまらないのか、ユウヤの側に行き胸ぐらを勢いよく掴む。
「…入院しろ。お前自身のために。それからU-4の未来のためにも」
ユウヤは急に押し黙り、瞬きをせずじっとアダムを見つめるが、言われたことを理解しているのかは分からなかった。
リュウ、ナオトも何も言わず、アダムとユウヤを見守っていて、僕は一言も口を挟めなかった。いや、挟む余地がなかったというのが正しいのか。
このときばかりは、僕は世話役ということ以上に、自分の転生者という立場に気持ちが沈んだのだった。
◇◇◇
今日は、U-4が初ツアーで様々な場所を転々と回っている。ファンは変わらず熱心にU-4を応援し、嬉しいことにU-4は曲を出すたびに、ランキング1位を取る、正真正銘のトップアイドルとして立場を確立した。
世話役の僕も、ステージに立つU-4の姿が眩しくて、特性がありながらも、それを感じさせないU-4の頑張る姿が誇らしかった。
それで、結局あの後、どうなったかという報告だけしておこうと思う。あの後、ユウヤは入院して、今現在のU-4のツアーも実はユウヤ抜きの3人でまわっている。
表向きは心身疲労ということにしてあるが、実際はピンクスポット、いわゆる薬物みたいなものへの依存断ち切り、そしてリハビリもかねてだ。
もちろん、入院と共にユウヤはラビーとの縁も切れ、面会謝絶となったため連絡手段も自然と途絶えた。
そして当たり前だが、U-4も世話役の僕でさえも、ユウヤとの面会はできていない。あのとき以来。
「早くー!持ってきてー!」
開始時間をステージ袖で待機するナオトが、後ろを振り返り、客席に聞こえない程度に声を張る。
「あっ…はい、わかりました…」
持ってきたジャケットを広げ、ナオトが着やすいように持っているのは、AAZのルカだ。
「今度は言われる前に、準備よろしくね〜」
「あ…はい…」
事務所移籍してきたAAZだったが、人気は下降気味で曲もヒットせず、そしてメンバーの一般人への暴行事件も勃発し、活動休止となった。
今は、残りのAAZのメンバーと、もちろんルカもU-4のツアーに同行する舞台スタッフとして働いている。
自信満々で上から目線だったルカだが、今や自分の将来の不安からか、暗い陰気なキャラになっている。
「なんや、あいつら。もっとハキハキしてほしいわ-まあ、薬物はあかんけどなー」
「…リュウ、それ笑えない…」
AAZが去ったあとに、こっそりそう言うリュウは、薄い手袋を手にはめながらアダムにウィンクする。
「まあな。せやけど、まああのラビーって子も、世話役降りたみたいやし、ユウヤにもU-4にも、もう接触はないやろ。雑誌に写真載せるようなことも、もうしない言うてたんやろ?ハルト」
「はい。ユウヤさんの私的な写真を使って、ナオトさんのときのような雑誌に載せることは、もうしないと、うちの事務所と誓約を交わしました」
結局、ナオトの騒動もラビーが関わっていたことが分かり、流石の事務所の社長も呆れてラビーとは個人的な関係に手を切った。そして、ラビー自身もどういうわけか世話役をやめ、姿をくらませてしまった。
「さー、もうすぐ始まるでー!ハルト、ステージに出た後は、頼んだで!」
「ハルち〜ん!今日もうちらの頑張る姿、よう見ててな〜!あ、惚れたらダメだからね」
「…U-4は、まだまだこれから大きくなる」
「はい!」
(終)




