聖女の一団
ラウラは、参謀本部が要求した、軍の理念に沿った祝辞を読み上げる代わりに、静かに、しかし力強い言葉を述べた。
「私が養成した回復魔法士たちには、『聖女』として、敵味方関係なく治療にあたるように教育しました」
高官たちの間で、ざわめきが起こった。彼女は続けた。
「そして、私は、この軍を離れます」 「軍の方針が――命を救うという私の倫理に、軍が賛同してくれないのならば、私はここで、皆さんと袂を分かちます」
その場は、一瞬の静寂に包まれた。軍高官の一人が、激昂して立ち上がろうとする。しかし、その時、候補生の一人が、静かに一歩前に出た。
「ラウラ先生。我々は、先生の教えを忘れません。たとえ軍に在籍しようとも、我々は『聖女』として、命に敵味方の区別をつけません」 それに続き、他の候補生たちも、静かに一礼した。彼らの瞳は、ラウラから受け取った「生命倫理」の光を宿していた。
ラウラは、彼らの覚悟に頷き、壇上から降りた。ハインリッヒ院長は、複雑な面持ちで彼女を見つめ、シュミット医師は、諦念と安堵の混じったため息をついた。
「事前にこういうこともあり得ると参謀本部には話をしておいたが、本当にこのタイミングで宣言するとはな」とハインリッヒ院長とシュミット医師は顔を見合わせた。
ラウラは、そのまま軍服を脱ぎ捨て、私服に着替えた。彼女の才能は、もはや軍の論理だけでは繋ぎ止められない。
「私は、私設の魔法学校を開くわ。細々とでもね。真実の魔法と、命の倫理を教える、小さな学校を」
彼女の瞳は、軍の制約から解き放たれ、教育という新たな可能性を見据えていた。
ラウラは、軍の鋼鉄の匂いとは違う、穏やかな木の香りに満ちた故郷の家へと、旅の馬車に乗り込んだ。
彼女が去った後も、軍の回復魔法学校は存続したが、ラウラが育てた最初の十五名の回復魔法士たちは、戦場で、敵味方の区別なく治療に当たるという、静かな、しかし決定的な「反抗」を続けた。彼らは、軍の論理と、命の倫理の板挟みで苦しみながらも、ラウラの教えを胸に、戦場の現実と向き合い続けた。
やがて、軍は彼らを「聖女(あるいは聖人)の一団」と呼び、その存在を黙認せざるを得なくなった。彼らの行動は、ラウラという一人の回復魔法士が、軍という巨大な組織に残した、消しがたい足跡となった。
ラウラの物語は、ここで一旦幕を閉じる。彼女の旅は、軍の制約から解き放たれ、一人の教育者として、自らの倫理と才能を信じて進む、新たなステージへと続いたのであった。
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「最強なのに地味だと酷評された『聖魔法』。実は国を救う鍵でした ~全属性の伯爵令嬢は、王位を捨てた王子様と『王国の盾』になり幸せを掴み取る~」の連載も始めましたのでよろしかったらこちらもお読みいただければと思います。




