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知らせ

 秋の風が吹き始めた頃、ラウラのもとに、いつものように実家から「今度の休みに帰っておいで」という知らせが届いた。しかし、その短い文面からは、ただの団欒ではない、何か緊迫した空気が滲んでいるように感じられた。

 何事だろうと不安を抱きながら家に帰ってきたラウラを、玄関で待ち構えていたのは、深刻な顔をしたフリードリヒ兄さんだった。

「作戦会議をするぞ」

 彼は、そう宣言すると、ラウラを応接間へと促した。

 フリードリヒは、周囲を窺うように、しかし、明確に核心を口にした。

「実はな、参謀本部で陸軍病院付属 回復魔法士学校を開校するという話が出てきた。これは、間違いなくラウラ、お前の報文の影響だ」

 彼は、軍の打ち出している表向きの目的を説明した。

「表向きは、回復魔法士を養成して、軍人やその家族、基地の周辺住民の医療の向上を図る。さらに、災害発生時にも救援部隊の中に回復魔法士を配属し、被災者の救助にあたらせる、ということになっている」

 ラウラは、その説明を聞きながら、一つの希望を抱いた。

(私の影響で、軍が正しい方向で魔法使いの力を使うのであれば、それは歓迎すべきことよね)

 しかし、彼女の心は、先日の会議で感じた軍の冷たい視線を覚えていた。ラウラは、自然と、フリードリヒ兄さんに問いかけていた。

「軍の本音は?」

 フリードリヒは、目を伏せるようにして答えた。

「本音は……戦争時に兵の損耗を減らし、戦闘継続能力を高める為だろうな」

 兄は、改めて、強い口調で妹に注意を促した。

「いいか、俺もお前も軍関係者だ。これから、この件について不用意な発言は許されない。下手な口は聞けないから、注意しろよ」

 そして、彼は核心的な情報を付け加えた。

「参謀本部は、ラウラ、お前を陸軍病院に呼び戻して、この回復魔法士養成にあたらせるそうだ」

 その言葉を聞いた瞬間、ラウラの胸の内で、すべての点が結びついた。最近、ハワード医師から、なぜか呼び出しが掛かっている。それは、この異動の辞令が、すでに研究所に届いているからに違いない。

 ラウラは、唇を噛みしめた。彼女の純粋な研究の成果は、巨大な軍のシステムという名の網に、しっかりと捕らえられてしまったのだ。彼女の、新たな、そして最も困難な闘いが、始まろうとしていた。

 フリードリヒの重々しい報告を聞いた後、父のハンスは、深く息を吐きながら、意外にも前向きな見解を示した。

「軍にしては、前向きないい話じゃないかと、私は思うよ」

 ハンスは、テーブルに置かれた湯呑をそっと持ち上げた。彼の言葉には、現実を見据えた、冷静な重みがあった。

「フリードリヒがいう軍の本音は、まあ、あるのだろう。だが、一般の魔法学校に回復魔術の専攻科を作っても、結局、同じことになると思うよ。ラウラがたまたま軍属だったから、軍が先に回復魔術士の養成機関を設立した、というだけの話だ」

 ハンスは、問題を構造として捉えていた。魔法が持つ「奇跡」の力が、社会全体から求められ始めた、という事実を。

「あとは、ラウラがそこで回復魔法士を養成したいと思うかどうかが重要だな」

 父の言葉は、娘の意志を何よりも尊重するものだった。

 その言葉に、クリスティーナ姉さんが、待ってましたとばかりに、目を輝かせた。

「ラウラが嫌だと思ったら、辞めちゃえばいいのよ! 土木建設局が、三顧の礼で迎え入れると思うわ」

 クリスティーナは、妹を抱きしめるように誘った。

「こっちに来れば、ラウラは回復魔法以外にも、バンバン魔法を使えるわよ。土木や建設の現場で、魔法の力が必要なところは山ほどあるもの」

 彼女の勧誘には、妹を軍の論理から遠ざけたいという、姉としての強い愛情が滲んでいた。

 フリードリヒ兄さんは、妹の焦りをなだめるように、穏やかな言葉をかけた。

「ひとまずは、軍の命令を聞いてみて、それから考えればいいよ。陸軍病院での仕事が、本当に君の望む道ではないと分かった時、その時に動いても遅くはない。今、ラウラが焦る必要はないと思うぞ」

 家族それぞれの言葉が、ラウラの胸に響いた。軍の論理、社会の構造、そして、家族の愛情。それらが複雑に絡み合いながら、ラウラという一人の魔法使いの運命を形作ろうとしていた。彼女が、その全ての重さを引き受け、どの道を選ぶのか。その決断は、彼女自身の心の中にある、人々を癒やしたいという、最も純粋な願いだけが導くことを、皆が知っていた。


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