第一話:最悪な出会い
女性用の下着、レディコミック、お菓子の山。
脈絡のないラインナップがバックヤードのテーブルの上に積まれている。
悠一が座るテーブルの反対側には、女子高の制服を着た少女が座っている。
少女は、反省した表情をしている。
だが、その表情とは裏腹に、妙に堂々としていた。
「……確認するけど、君が商品をバックに入れたんだよな?」
「はい、私がやりました。すみません。反省しております」
間髪入れずに頭を下げながら返事を返され、悠一は少し面食らった。
悠一は叔父の経営するこのデパートで、アルバイトをしている。
盗難対策の業務、万引きGメンの様な仕事だ。
業務中、確かにこの子がお菓子を万引きした所を、悠一自身が目撃した。
だから間違いない。
……間違いはないのだが。
(普通、万引きが見つかったら、キレるか、泣くかなんだけどなぁ)
目の前の少女は、そのどちらでもない。
「……あの?何もないなら帰りますよ?」
「まてまて、そのまま帰すわけないだろ」
「未成年を不用意にとどめるのは法律違反では?」
「万引きも法律違反だろうが……」
正論が効いたのか、少女がぐっと押し黙った。
悠一が改めて万引き犯に対しての質問リストへ目を落とす。
テンプレの質問を始めていく。
「まず、名前は?」
「神崎栞です。神様の神に、山に奇の崎、本に挟む栞です」
「なるほど、かんざきしおりさんだね。僕は日野 悠一、大学生だ」
手元の紙に名を書いて、少女に見せる。
「大学生が……なんで?」
「そう言うバイトなの」
「アルバイト……」
「……なんだ?」
「大学生なのに?」
「バイトに大学生は関係ないだろ……俺のことはいい」
しきりなおして質問を続ける。
「年齢は?」
「17です」
「17……というと、高校二年?」
「そうですが、関係ありますか?」
「書類に必要なの」
紙にメモをしていく。
「……次に、君のご両親のどちらかで良いから連絡先を教えて」
少女がスマホを操作し『母』の番号を出す。
「こちらです」
「素直だな……」
「かけても意味はありませんよ、どうせ出ませんから」
彼女の顔に、諦めたような表情が浮かぶ。
試しに『母』の番号にかける。2コールほどした後にブツリと切られた。
まぁ、仕方ないか。
今の時代、登録のない番号から連絡が来れば、切る人も珍しくない。
が、栞の携帯を借りて『母』に電話をしても同じだった。
「ほらね……」
栞が、自嘲するようにつぶやいた。
「……次は、職業なんだけど、高二って言ったよね?どこの学校?」
「学校は言いたくありません……」
「書類書くのに必要な事なんだけど」
「言ったら連絡しますよね?」
「場合によっては」
「い、嫌です……も、黙秘します、黙秘権です」
「黙秘権って……」
明らかな拒絶。
挙句に黙秘権なんて言い出し始める。
「君ホントに反省してる?」
「……反省してます。謝罪もしました。聞いてましたよね?」
焦りからの逆切れにしか見えない。
「……反省している様には見えないよ……警察よぶね」
「警察!?ちょっとまってください!」
栞が声を荒げる。
「私は反省しています。この通りです。警察だけはよしてください。お願いします」
「警察に怒られるのが怖いのか?」
「違います、警察なんて怖くありません」
そう言う栞の手はかすかに震えていた。
「じゃあ、何がそんなに嫌なんだ?」
「前科なんてついたら……」
「ついたら?」
「もう駄目です……」
「何が?」
「全部、壊れます……」
全部?壊れるとは何か……今までの感じから思い当たる。
「……親か?」
「っ!?」
栞の顔が変わる。
「……お願いします。本当に反省しているんです。お願いします、警察だけは……」
栞が、鞄を漁り財布を手に中身を取り出す。
どさと置かれたのは十枚を軽く超える一万円札。
とても学生が持ち歩く金額ではない。
「お金なら払います、これだけあれば足りますよね?
全て差し上げます。どうか警察だけは……」
「……このお金はどこで?」
「これで、欲しいものを買えと親がよこしてきた、お金です」
その場を微妙な空気が支配する。
「なるほど……わかった」
「分かっていただけましたか……」
栞の張りつめていた肩の力が少しだけ抜けた。
後ろのデスクに向かい内線をコールする。
「あぁ、叔父さん――じゃなかった、店長。警察呼んでもらえますか?」
ガタッと椅子を倒しながら栞が立ち上がった。
「そ、そんな、さっき貴方わかったっていったじゃない!」
「君の事情はわかった……だが、警察を呼ばないとは言ってない」
「ひ、卑怯者!」
彼女の悲鳴がバックルームに響き渡る。
力なく椅子に座る。
さっきまでの堂々とした態度は、嘘のように消えていた。
「……私……きっと捨てられる」




