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第3話:侯爵家次男との小さな協力

店の扉を閉めると、セドリックは慎重に一歩踏み入れた。庭の薬草の香りが二人を包む。

「なるほど……ここが噂の薬草店か」

彼の声は冷静だが、どこか興味深げだった。前世では、婚約破棄した後の彼と顔を合わせることはなかった。今、同じ空間で会話をしていることが、不思議な感覚だ。


「今日は、疫病の報せで……領民が次々と咳や発熱に倒れているそうです」

セドリックは短く状況を説明する。侯爵家次男として実務を任されている彼が、困窮する領民を助けるために私に相談に来たのだ。


「分かりました。すぐに有効な処方を考えます」

私は店の棚から薬草を取り出し、セドリックに手渡す。タイム、エキナセア、カモミール……手元で揃えた薬草は、前世の知識で応用した組み合わせだ。


「手伝ってもらえるか?」

セドリックは少し緊張したように聞く。

「もちろん。二人で作れば、より多くの人を助けられます」


こうして、初めての“協力作業”が始まった。熱湯を沸かし、薬草を刻み、効能を考えながら混ぜる。

ミラも横でサポートし、秩序だって作業が進む。セドリックは少しぎこちない手つきだったが、真剣そのものだった。


「……こうして人を助ける薬を作るのは、悪役令嬢だった頃には想像できなかっただろうな」

私が笑うと、セドリックは微かに口角を上げる。

「確かにな。でも、意外と……頼りになるな、お前」


小さな作業の中で、信頼が芽生えていく感覚。誰かの役に立つために動く喜びは、侯爵家のしきたりや噂よりも、ずっと強い。


しかし、店の外で小さなトラブルが発生する。

「うわっ……!」

ミラが慌てた声を上げる。庭の片隅に置いていた薬草の一部が、風で棚から落ちてしまったのだ。幸い大事には至らなかったが、瓶の一部が割れ、香りが立ち上る。


「大丈夫、落ち着いて」

セドリックは手際よく割れた瓶を片付け、破片をまとめる。以前の冷徹な印象とは違い、手早く動く姿に、思わず目を見張った。


「やはり、実務家だな」

私は微笑む。小さなトラブルも、共同作業で乗り越えると、逆に絆が深まる。


夕方、処方した薬を領民に届けると、感謝の声が絶えなかった。疲労で倒れそうな母親も、咳に苦しむ子供も、少しずつ笑顔を取り戻していく。

「今日一日で、少しでも助けられた……」

胸の奥が、満たされる感覚。これが、私が望んだ生き方――薬師として、人を支える生活なのだ。


帰り道、セドリックは無言で立ち去ろうとしたが、ふと振り返る。

「……また必要があれば、頼るぞ」

私は小さく頷いた。言葉は少ないが、信頼が伝わる。これから、この小さな薬草店で、私とセドリックの物語も少しずつ動き出す――そう予感した。

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