01.一日目
委員長視点のサイドストーリーです。
リョウ君は登場しませんし、読まなくても本編のストーリーには特に絡みません。
●一日目
デルナという街のホテル――宿屋でこれを書いている。
私たちのクラスは「異世界転移」とやらに巻き込まれてしまったらしい。
正直、まだこの状況が信じられない。夢だと信じたい。
それでも、整理はしておこうと思う。
最初、教室が大きく揺れた。一回だけ、何かに突き上げられたような衝撃だった。
すぐに窓の景色が変わったのを、私は見ていた。みんなが騒ぎ始めたのは少し遅れてからだった。
こんな状況で真っ先に大騒ぎしそうな蓮川くんが、ずっと青い顔で大人しくしていたのも印象的だった。たぶん、最初に出ていかなかったメンバーのほとんどが彼の異変に気付いていて、そのおかげで助かったんだと、私は勝手に思っている。
第一陣が外に出ていったあと、蓮川くん、菊池くん、佐藤くんがよくわからない話をし始めた。異世界にやって来た、とかいう話だ。
私はちょうどその時、自分の目の異変に気付いた。
最初に見えたのは、その時に視界に収まっていた蓮川くんの情報だった。身長とか体重とか血液型とか、この時に「権能」も見えていたはずだ。蓮川くんの【魔王】を見て吹き出して、あかりに「どうしたの?」って聞かれたから。
意識を向ければ自分を視ることもできた。私の権能は【神眼】。全てを見通し暴く能力。これがいわゆる「チート能力」とかいうものだと、蓮川くんたちの会話でなんとなく察した。
第二陣――紫波さんやあかりたちが飛び出していったのはこの頃だったと思う。
外から大きな悲鳴が聞こえてきたから。誰の声かわからないくらいの。
蓮川くんと菊池くん、それに佐藤くんが必死にみんなを引き止めていたのが印象的だった。本当に、私が生きてるのは彼らのおかげ。感謝している。
その後のことは、あんまり思い出したくない。
でも、できるかぎり書こうと思う。
第三陣は、蓮川くんが義経くんに引きずられるように出て行って、私たちがそれを追うような流れだった。菊池くんと佐藤くんはまだ危険だと主張していたけど、私もいい加減に外の情報が知りたかった。
酷い有様だった。私は怪物の姿を見てないけど、その場の惨状だけで失禁しそうになった。
怪物は、紫波さんと神崎くん、それと稲見さんが退治してくれたらしい。
でもその直後に、神崎くんはおかしくなった。
彼は自分が選ばれた人間だと主張していた。あとで聞いた話だと、平松くんの手足を権能で削り取って、楽しそうに笑っていたらしい。
三島くんが神崎くんに掴みかかって、胴体を消し飛ばされたところは、私も見ていた。
あの時、神崎くんはなんと言ったんだったか……「大人しく僕に従え」だっただろうか?
言った途端に、紫波さんが彼の頭を吹き飛ばした。本当に一瞬の出来事。
みんなじっと紫波さんを見ていた。私は彼のことをよく知っているつもりだったから、なんとか庇おうとあれこれ考えていたけど、彼は「何か文句があるのか?」という一言だけで場を片付けてくれた。
第四陣――菊池くんたちは、この時にはすでに出てきていた。それで、教室に戻れないと知ったんだったか。
それと、あかりが死んでいた。
犯人はすぐ分かったけど、まだみんなには伝えてない。あかりはショック死したことになってる。一人だけ綺麗な身体のまま死んでいた。そこだけは、少しうらやましいと思ってしまった。
蓮川くんや菊池くんの誘導で、みんなすぐ移動を開始したけど、まとまりはよかった。反抗心を沸かす元気もなかったのかも。
ひとまず森の岩陰にまとまって、この「異世界転移」という馬鹿げた状況の説明を、蓮川くん、菊池くん、佐藤くんが中心になって行った。そのあと、私が権能の説明をした。
いい機会だから、ここにみんなの権能を記しておく。
・赤川智春【友愛】
知性体の敵対心を削ぐ能力。人でも動物でも魔物(?)でも、彼女に親愛の情を持って接するようになる……らしい。テレパシーのようなことも可能らしいので、チハルにはあとで検証に付き合ってもらうつもりだ。
・稲見鳴子【電撃】
電気を自由自在に操る能力。怪物相手にも活躍したらしい。いま、みんなの電子機器の充電で大忙しだ。いまは稲見さんも渋々応じているけど、彼女に負担が集中するのは良いことじゃない。なんとかしないと。
・霧島優美【神眼】
私。まだ使いこなせていないけど、千里眼のような能力。視界に映る全ての存在の正体を暴く、というのが大まかな説明だけど。透視や遠視のほかに、情報を引き出す能力がある。相手が人間だと、個人情報や略歴が意識するだけ見える。ただ、心の中までは読めないみたい。心拍数とか身体の状態をモニタリングして、推察することはできるようだけど。要検証。
・尚武紀子【念力】
たぶんいちばんすごい能力。尚武さんは意識した物体を、いくつでも自由自在に、無制限に動かすことができる。テレキネシスとかサイコキネシス、とかいうやつだろうか? 蓮川くんが言うには、間違いなく「最強」の能力らしい。この街に滞在を許されたのも、彼女の能力で「お願い」した結果だ。何十人もの異世界人をまとめて宙に浮かべていた。
・高橋緋美子【炎身】
全身または身体の一部を炎に変える能力。使うと服が全部燃えて裸になる。ミコらしい能力。不謹慎だけど笑ってしまう。ただ、強力で危険なのは間違いない。当分はあまり彼女をからかわないようにしよう。義経くんにも厳重に注意しておいた。
・田村美咲【華神】
花を咲かせる能力、という説明。詳細はよくわからない。田村さんは教室の外に出てからずっと正気を失ったままで、誰の呼びかけにも応えてくれないからだ。眼は開いているけど、何も見てない感じ。親友の尚武さんがずっと付き添っている。心配だ。
・鶴来ハルカ【?】
彼女には私の力……いや、みんなの力が一切及ばないので、推察するしかない。
たぶん「すべての権能をキャンセルする」能力だ。彼女が触れていると能力が発動できない。彼女を能力の影響下に置くこともできない。これも蓮川くんに言わせれば「最強」とのことだけど、最強っていくつあるんだろう?
・鳴沢詩織【浄化】
ものすごく便利な能力。単純に、詩織が念じたものを「清潔」にする能力だ。さっきも、薄汚かったこの宿屋を一変させてしまった。菊池くんはそれをダシに、店主に宿代の割引を持ちかけて承諾させてしまった。その際、詩織と菊池くんの掛け合いがまるで夫婦のようだったのが少し気になる。このふたり、いつの間に仲良くなったんだろう?
・光丸有沙【錬成】
イメージ通りの物体を錬成する。という説明。いまのところできることが非常に限定的だ。光丸さんは服しか錬成できない。ただし完成度は高い。とうぶん衣類には困らないだろう。もちろん下着にも。女子としてこれは非常にありがたい。
・天野ゆりあ【再生】
天野さんはどんな怪我や病気でも触れるだけで治せるらしい。いまは行方知れずだが、私の【神眼】によれば生きているのは間違いない。天野さんの能力は非常に有用だ。一刻も早く合流したい。
・菊池秀虎【統率】
彼については迷いがある。私の胸中だけにしまっておくべきか。
菊池くんの権能は、クラス全員の体力と精神力を倍増する能力だ。みんながこの異常な状況でパニックにならないのも、あの山道を平然と下ってこれたのも、この能力のおかげだろう。
あと、鶴来さんはたぶん、これの恩恵を受けていない。彼女自身の権能のせいだ。今日もひどく辛そうだった。鶴来さんの体調には充分に気を配らなければ、と蓮川くんたちと話した。
・紫波雄人【神拳】
私の【神眼】で見ると「徒手空拳による攻撃が、対象の防御力と防御特性を無視する」との説明。まったくピンとこないけど、紫波さんは自分の権能を把握しているみたいだった。とにかく、壊そうと思えばなんでも壊せる能力なんだそうだ。
みんなはまだ彼を怖がってるみたいだけど、私は逆に安心している。紫波さんはこの力で、私たちを守ってくれるはずだ。神崎くんを……倒した時みたいに。
・武田義経【神速】
紫波さんと三人で「神シリーズだな」なんて言って盛り上がった。
義経くんの能力もすごい。【神眼】による説明は「体感時間を極限まで遅くし、相対的な速力を上げる」とある。義経くんによれば、息を止めている間ずっと、周りの時間を止め続ける能力らしい。
どこまでも悪用できそうだけど、義経くんの人格は信用できる。親友の蓮川くんも一緒だから、うまく使ってくれるだろう。
・蓮川清彦【魔王】
みんなの前で発表した時、大爆笑されていた。すでに義経くんは「魔王」って呼んでる。でもその前は「おい」とか「このバカ」とかだったから、少しマシになったのかも?
それはさておき、蓮川くんの権能は「魔力を統率し、自由自在に操る」能力らしい。蓮川くんによると、魔力というのは彼にしか見えない妙な力の流れで、それをあれこれいじると色んなことができそう、とのこと。今のところ何の役に立つかわからない能力だけど、菊池くんや佐藤くんは興奮していた。きっとすごい能力なのだろう。
・穂村一輝【不死】
天野さんと同じく、彼も行方不明だ。でも生きている。
そして権能は「絶対に死なない」能力。どんな手段を用いても、彼を殺すことはできない――と、少なくとも私の【神眼】は告げている。体力もあるし、頭も切れる、もともと頼りになる男子だ。一刻も早く合流したい。
・藤堂久志【転移】
彼も行方不明。権能は「イメージした場所に瞬間移動する」能力。もしかしたら、すでに自分だけ元の世界に帰還しているかもしれない、と蓮川くんが言っていた。別にそれでもいいと思う。ただ、もしここに戻ってくることが可能なら、元の世界から役立つものを持ってきて欲しい。
・佐藤英二【支配】
彼の権能は「あらゆる知性体を支配し、思いのままに操る能力」だった。
恐ろしい能力だ。私は彼の能力について、みんなの前では説明しなかった。みんなが彼を警戒し、阻害するようになると、絶対に悪い結果を生むと思ったからだ。
だから、山中でさり気なく佐藤くんだけに明かした。クラスメートに対しては絶対使わないように、と。佐藤くんは快諾してくれた。大人しくて良識的な人だ。きっと悪いことには使わないはずだ。
その後、みんなには「チハルの上位互換みたいな能力」で、「クラスメートには効果がない」と説明した。
・萩原香菜【死眼】
一番恐ろしい権能だ。視界に入った生き物を、念じるだけで殺してしまう能力。
佐藤くんと同じ理由で、これもみんなの前では説明しなかった。これから、鶴来さんを伴って説明するつもりだ。
鶴来さんは保険だ。あかりを殺したのは明らかに萩原さんで、それも事故に近い。彼女が自分の権能を制御できるとは思えない。
工藤あかりは、一番仲の良い友だちだった。
彼女の死に、思うところはある。でも、萩原さんがあかりを目の敵にしていた経緯は一通り知っているし、それが単なる逆恨みじゃないことも理解している。
誰にだって、誰かに死んで欲しいと思うことくらいはあるだろう。私にだってある。それだけで罪に問われるのはおかしい。
そろそろふたりが訪ねてくる時間だ。いったん筆を置く。
●一日目 追記
萩原さんとの対談は、半分は成功、半分は大失敗だった。
萩原さんはショックを受けていたようだけど、私の説明に納得してくれた。
もし誰かに殺意を憶えたら目を閉じて欲しい、というお願いも素直に聞いてくれた。「私だって殺人鬼になりたいわけじゃない」とも言っていた。
問題は同席した鶴来さんだった。
二人きりになった途端、彼女は私にこう言ったのだ。
「萩原香菜は今すぐ殺すべき」
私は自分の耳を疑った。鶴来さんの声をまともに聞くのは今日が初めてだったけど、大人しくて無害な女子だと思いこんでいた。こんな苛烈なことを言う人だったとは。
「別にあなたの許可は要らない。私が一人でやる」
という鶴来さんを、しばらく必死に説得した。そんなことをして、クラスに悪い雰囲気が蔓延し、みんなが疑心暗鬼に陥ることを、私は何よりも危惧していた。
結局、私は鶴来さんを説得できず、激昂して大声を張り上げてしまった。
それを菊池くんたちに聞かれてしまった。
やってきたのは菊池くんと蓮川くん、そして義経くんだった。
もう誤魔化しの利かない状況で、さっき誰にも明かさないと誓ったばかりの萩原さんの権能を、三人に説明した。
蓮川くんと義経くんは、鶴来さんに賛成のようだった。
個人の善悪を超越した問題だと、蓮川くんは言っていた。義経くんは神崎くんの例を上げ、これ以上犠牲が出る前に何とかするべきだと主張した。
彼らを冷静に説得したのは菊池くんだった。
私のように激昂したりせず、終始落ち着いて話をしていた。蓮川くんも同じだった。ふたりは随分長いこと、ああでもない、こうでもないと言いながらも、感情に任せて言い合うことはなく、私にはちょっとわからないような次元の話も交えて、丁寧な議論を重ねた。やっぱりこういう時、男の子は頼りなると思った。
その結果。萩原さんには一度だけ猶予が与えられることになった。
つまり、萩原さんがあと一人でも誰かを殺したら――その時は、義経くんが萩原さんを殺す。
鶴来さんもそれで納得してくれた。
私はほっとした。萩原さんは大丈夫。きっと、そんなことにはならないはずだ。
ただ、彼女の権能をみんなにどう説明したものか。
それだけがなお気がかりだ。
今日はもう遅い。また明日、菊池くんや蓮川くんに相談しよう。
最後に、今日亡くなってしまったみんなの冥福を祈ろうと思う。
以下、敬称略。
大島友香、工藤あかり、桧山楓、森田こより、吉川美維奈、
東慎之介、伊藤篤憲、神崎太陽、金城在波、田原孝志郎、平松真司、三島澄人。
どうかみんな安からかに。




