武器
漆黒の刃が、私の真上へと振り下ろされた瞬間――。
「そこまでよ、暴れん坊さんたち」
天井の配管を蹴り抜いて舞い降りた影が、ユウシンの軌道へと割り込んだ。
着地の衝撃で床がひび割れ、砂塵が舞う。そこに立っていたのは、長髪を一つ結びにした冷徹な美貌の女性――私の先輩であり、テロ対策室のエース捜査官、ユウリだった。
「先輩……っ!」
私が血を拭いながら叫ぶと、ユウリは振り返りもせず、片手で愛用のコートの裾を翻した。
その右手には、青い光の回路が幾何学的に走る、禍々しくも美しい「拳銃型のアイブ」が握られていた。
『――WEAPON LINK: ACTIVE. 照準同期完了――』
無機質な電子音が響く。
ユウリの瞳には、暴走するユウシンの異様な姿が冷ややかに映し出されていった。
「ガアアアアッ!!」
理性を失ったユウシンが、マロンの超絶演算による軌道予測を頼りに、音速の踏み込みでユウリの懐へと肉薄する。高振動ブレードが容赦なくユウリの首を刎ね飛ばそうと閃いた。
だが――ユウリの身体は、それよりも遥かに速かった。
「遅い」
常人離れした動体視力と跳躍力で、ユウリはユウシンの斬撃を紙一重でスリップし、背後へと回り込む。
持ち主の極限の身体能力と、拳銃型アイブの「銃身」が完全に一体化している。それは銃を構えるというより、身体の一部として銃を振るうような神業的な体術だった。
バキュンッ!!
乾いた銃声と眩い閃光が、校舎の廊下を切り裂く。
放たれたエネルギー弾は、ユウシンの漆黒の装甲の「エネルギー循環の急所」を正確無比に撃ち抜いた。
「がっ……あ……!?」
直撃を受けたユウシンの身体が硬直し、その場に膝をつく。
マロンの超知能による演算も、ユウリ自身の予測不能な超人機動と、一瞬で急所を撃ち抜く圧倒的な戦闘センスの前には追いつかなかったのだ。
さらにユウリは、倒れ込むユウシンの動きを封じるため、一歩踏み込んで追撃の引き金を引く。
ダッ、パンッ!!
再び放たれた弾丸が、ユウシンの装甲の四肢の接続部を的確に撃ち抜き、暴走状態の強制解除コードを流し込んだ。
『――CRITICAL OVERLOAD. 共鳴状態を強制解除します――』
「ぐ……あ……ぁ……」
ユウシンの全身を包んでいた漆黒のスーツがガラス細工のようにパキパキと砕け散り、元の制服姿へと戻っていく。
肩の上で暴走していたマロンも、青い光のリングを消してコトンと床に落ちた。
静まり返った廊下に、ユウリのブーツの足音だけが響く。
彼女は煙を上げる拳銃型のアイブをクルリと指で回してホルスターに納めると、ぐったりと気絶したユウシンを見下ろし、冷ややかに息を吐いた。
「ふぅ……危ないところだったわね。……シズク、怪我はない?」
「は、はい……! 先輩、ありがとうございます……!」
圧倒的な強さと、どこか飄々としたクールさを併せ持つ先輩・ユウリの登場によって、最悪の暴走劇は辛うじて鎮められた。
しかし、黒い鍵を使った代償と、謎の黒い人形の存在――彼らの旅は、ここからさらに大きなうねりへと巻き込まれていくことになる……。




