開戦
周辺国への宣戦布告から六日後。明日、連合軍を構成する八つの国々が地図から消滅する事になる。
この六日間、相手方はかなり大変だったらしい。国民の三割が国を捨てたせいで、馬車などの交通機関や役所などの公共機関が麻痺し、都市部同士の連携も碌に取れていないとか。
特に酷いのが、魔物の被害だそう。元々根無草が多いい冒険者の七割以上が他国に活動の場を移した上に、魔大陸に落とした隕石はデロンド大陸の魔物にとっても衝撃的だったらしく、本来ならいないはずの場所に多種多様な魔物が現れ被害を増やした。
もう何もしなくても滅びそうだね、可哀想に。
「でも思ったより残った民衆が多いいなあ、てっきり半分くらいは出ていくのかと思ってたのに」
「そらまぁ、そう簡単に祖国は捨てられねぇだろ。寧ろ例の《《デモンストレーション》》が合ったとはいえ、三割も国を捨てたのが衝撃だぜ?俺は」
「んー、そんなもんかあ。・・・確かに、よく考えてみたら、私の偉業をリアルタイムで見てた人間なんてもう殆ど居ないもんね」
「そ、俺たち世代の、それも他国の人間からしたらお前の伝説なんてお伽話でしか無いからな。実際、魔大陸の件があるまで実在すら疑われてたんじゃねぇの?」
そう考えると隕石の一発二発じゃ足りなかったか、宣戦布告の時にもう一つくらい落としとくべきだったね。反省反省。・・・でも酷い奴らだなあ。自分達の、人類の恩人の実在を疑うなんて。
「まぁ、でも十分効果はあっただろ?・・・何せ、転生者が二人もこっちに寝返ったんだからな」
「まあ、そうだね。・・・亡命出来ずに死んじゃった子達の事を考えると、申し訳ない気持ちが湧き出てくる様な気もしないでも無いけど。戦力を削ぐという意味では目論見通りだ」
国民の三割、冒険者の七割が他国に亡命をした。その亡命先の国にはここ、フィーリア王国も含まれている。勿論、中にはこちらの情報を抜き取ろうとする間者も混じっていたらしいけど、そこは読心持ちのロミオ達S級冒険者や、宮廷魔導士が寝ずに検閲をして全員捉えたそうな。読心は弾く事で心を読ませない事はできても、偽の情報を掴ませる事は出来ないからね。・・・そして宣戦布告から四日後、つまりは一昨日。他国からの難民の中に、転生者、サツキちゃんのお友達が混じっていたらしい。
「これで向こうに残った転生者は多くても十八人、使徒とかいう連中もでてきはしたが・・・、まぁこっから負ける事はねぇだろうな」
「・・・だといいけどねえ」
この六日間で、計八人の転生者が亡命を企てるも生きてフィーリア王国に辿り着いたのは二名のみ。それに加えてクロリアス帝国で見せしめに一人殺されたらしい。これまでの転生者を含めれば、計十人分の心臓が例の心臓を喰らう者のおやつになっている訳だ。・・・少なくとも、メディアを追い詰めた時よりは強くなっているはずだね。
面倒くさいなあ・・・。
「失礼します!陛下の準備が整いました、ロミオ様、ガガンボ様、謁見の間へお越し下さい」
「相変わらず随分と待たせるねえ、ゴブリンの分際で」
「そう言うな、陛下だってこの一週間色々と手を回してたんだ。暴れれば良いだけの俺らと違って、終わった後の事も考えてな」
相変わらずゴブリンの事が大好きみたいだねえ。まあ、味方同士で疑い合うよりはマシか。
「諸君、よく集まってくれた。・・・いよいよ開戦が半日後に迫った、不安や、恐怖があるだろう。或いは興奮や、怒りを持つ者もいるか。だが皆落ち着き、私の言葉に耳を傾けて欲しい。慌てる必要はない、既に我らの勝利は確定しているのだから」
これまでと違い、私はゴブリン、メガロスの玉座の横に立っている。大方、こちらを見上げる者達に私が今回の戦争の象徴であると、英雄が参戦するから敗北はないと、そう印象つけたいのだろう、小賢しい奴め。
「何せ、我々には世界最強の英雄が、ついているのだからね?」
ほらね?・・・まあ、あながち間違いというわけでもないしわざわざ戦いに出向く者達を緊張させる必要はない、そもそも彼等の仕事は時間稼ぎでしかないんだもん。今回の戦争の目的は殲滅だ、そしてその大半をこの私が自らの手で実行する。彼等に戦うのはタルタロスに異常があった時、私が解決するまでのわずかな時間なのだから。
「・・・故に!神の意思を語り不遜にも我等を神敵と宣う連中に、自らの愚かさを教え込んでやるのだ!」
あー、暇だ。早く終わらないかなあ。
「・・・こんな所に居たのか、先生。どうした?そんな思い悩んだ様な顔をして、流石の英雄でも神々との戦争は恐ろしいかい?」
「誰に物を言っているんだよ、メガロス。・・・ただ、人類の愚かしさを嘆いていただけさ。あんな連中の為に、勝てないとわかっている戦争に赴く人類のね」
時刻は深夜、開戦まで後数分といった所。私は星見台の上で今から滅ぼす国々を見つめていた。遠見の魔法で見た限り、連合軍の戦力は宣戦布告前の六割程しか無い。彼等は何を思って私に挑んでくるのだろうか?・・・知りたくも無いけども。
「人とは、何かを信じなければ生きていけない生き物なのだよ。・・・我々が友や家族、そして先生を信じる様に、彼等もまた、神々を信じているのさ」
「・・・悲しい生き物だ」
「ハハハハハ!変なことを言う!先生もその悲しい人間の一人だろうに」
それもそうだね、確かに私も私を信じている。如何に全てを超越しようと、所詮私も人間でしか無いんだろうね。・・・それはそれとしてむかつくなこのゴブリン、笑うことは無いだろう。
「まぁ、あまり気負わず好きにやると良い。・・・それが貴方、救世の大英雄ガガンボだろう?」
「やめてくれる?そのしたり顔、殴りたくなるから」
「おお、怖い怖い」
・・・まあ、肩の力は抜けたか。どうやら私も緊張していたらしい、流石にこれ程の虐殺はした事がなかったからね。
「・・・それじゃあ助言どおり好きにやるとするかなあ。君はさっさと王宮内に逃げ込むといい、一国の王がこんな危険な所にあるべきじゃあ無い」
「ハハハハハ!やっぱり今日の先生は変だな、貴方の隣より安全な場所がこの世界にあるとでも?・・・けどまぁ、そろそろ戻るとしよう。サボり過ぎれば宰相に怒られてしまう。・・・先生、幸運を」
「だから君は、誰に物を言っているんだい」
高笑いしながら王宮内に戻って行くメガロスを見送る。全く、生意気に育っちゃってさ、誰に似たんだか。
「それじゃあ、始めようか。・・・いや、終わらせようか。のほうが良かったかな?うーん、まっ、どっちでもいいか」
周辺国に向かって空から降り注ぐ《《二十四》》の隕石を眺めながら一人ごちる。ごめんね。可哀想な人類、可哀想な転生者、そこに居ただけの動物達。
さあ、鏖殺だ。




