第九話
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【??ボスイベント】当日
きらりと光を反射し、いくつもの攻撃が放たれる。
だがそれらはすべて、1人のプレイヤーに軽々と避けられた。
苛立ちが溢れ、目の前のやつを思わず睨みつける。
ああ、最悪だ、本当についてない。
なぜだ。このイベントには8体のボスがいる。
だが、現在1人だけログインしていないと言っても、他にもボスはいるだろ!
他のボスとも勝負をしてるって言うのに。
なのになぜ俺の方に来るんだ
てるてる!
【イベント前日】
1週間前、イベントが告知されたあの日。世界中はこの話題に興味を寄せた。あらゆる新しいを提供してきたルナオン、その新イベントである。
謳い文句は新しい挑戦。
【??ボスイベント】
??の中に入るのはなんなのか?告知の中いる8体の影はなんなのか。皆が興奮しこのイベントを心待ちにする。
まあ、私は知っているんだけどね。
だって私がそのボスなんだもん。
人知れず集まる8人の“ボス”。
それぞれが机を囲んで座っている。
こいつらが??ボス、皆が興味を寄せるものの正体だ。
今日は突然呼び出され、以前ボス達の顔合わせを行った部屋にいる。
ぴりぴりとした雰囲気が漂い、誰も口を開けない。
今の我々は仲間ではない、敵なんだ。
そんな所にひとつの声が響き渡る。
「皆様こんにちは!ついにもうすぐイベントですね!」
そう言ったのはこのゲームの運営の1人で今回のイベントを担当する育だ。
「もうここまで来たら仲良くとは言いません。ですが、運営一同皆様の働きに期待しておりますのでどうぞよろしくお願い致します。」
そうして一礼。
育もなかなか大変だな。こんなヤツらの機嫌をみなくてはいけないのだから。
悪いのは私とかだし。
「イベント中のシフトは送らせて頂きました。当日はこの通り動いていただいたら。」
そうして育は戻って行った。それだけなら皆を集めなくてもいいだろう。仲良くとは言わないといっておきながら、まだなにか奇跡でもおこらないか期待しているのだろうか。
安心しろ育。奇跡ではないが、何かは起こるさ。
「お前らには期待してない。せいぜい私の足をひっぱるな」
シャチか。皆の視線を集める。
「足を引っ張るって何かな。僕ら、関わり無いわけだし」
不機嫌そうにそう言ったのはフクロウだ。初めての顔合わせの時はもうちょっと軽い印象だったが今日はなんだか刺がある。
しかしそれは他もみんなそうだった。正直以前とは違い、警戒している。私が「ライバルだ」と言った後、何かあったのか?私がああいっただけでこうなるとは思えない。まあこんな雰囲気で私はうれしいが。
「私たちは仲間ではない、敵だ。
何を言いたいか分かるな」
蛇がそう言うと、皆が周囲を睨む。
優れたボスは私だ
とでもいいたげ。
この場はそれを証明するために今度のイベントで勝負をする内容を決める。言葉にせずとも皆は分かっている。
「どうやって白黒つけるんだい?プレイヤーを倒した数か?生き延びた時間か?」
サソリがそう言った。
「育に決めてもらおうじゃない?育の心を掴んだストーリーを生み出したやつが勝者だ」
私がそういった。周囲を確認し、決定を確信する。
皆、納得した表情だ。
よかったよかった。これが私の求めた形だから。
結局この会議で決まったのは勝負の内容だった。
すまんな育。
そうして解散していった。
「ふー疲れた」
私のエリアに戻ってきた。
あまりに張り詰めた空気は息を詰まらせる。
まあいいか。望んだ結果にはなったから。
ストーリーを生み出す事が我々の目的なのだからそのくらいいよねー
そう思いながら明日の準備をする。
言っても細かい確認だ。私のボスとしての役割もそうだが、もちろん他のやつを巻き込んだ特大ストーリーの準備も大切だ。
にやけ顔が正せない。アイツらがどんな顔をするか楽しみなんだ。その為ならこんな地道な作業も苦ではない。
用意周到に。
てるてるという存在は才能だけで頂点を走り抜けているとよく勘違いされる。しかしそれは嘘だ。
私ほど努力してプレイしている人間はいない。
私に必要なのは思考力。そして努力。
育が求めるストーリーを生み出すためにしっかりした下ごしらえをしなくては。
こういうことはこだわりたい性分でね。
【イベント当日】
だから、イベント初日は私だけログインしていない。
そう、初日にホワイトスパイダークイーンの時間はない。
今ここにいるのはプレイヤーてるてる。
「さあ、敵情調査だ」
私がやりたいことをするためにはみんなの情報が必要だ。そのためにプレイヤーとしてイベントに参加する。
私がライバルと言ったからか情報を仕入れられなかった。
みんなが情報共有してくれないからこんな手間が出てきたんだ全く。
そのせいでみんなのとこにてるてるが行くんだぞ!
「最初はどこに行こうかな」
そう言って私はマップを開く。
このイベントは普段のマップに8体専用のエリアが現れる。そこに入り、ボスの所に行って攻略する形だ。
ちなみに私のエリアへの入口はランダムで普段のエリア内に出現する。
そしてこのイベントの内容は
8体のボスを倒す
というシンプルなものだ。倒せば特別なアイテムや称号が与えられる。
しかし膨大なプレイヤー数を誇るルナオンで1度死んだら終わりというのは味気ない。
そのためボスは自由に何人でも攻略に参加できるようになっている。誰かが戦っていても割り込みができ、ボスもそれに対応できる強さがある。
そして倒されてしまっても5時間後に復活する仕組みだ。
ただし、ランダム出現の蜘蛛は運のいいプレイヤーしか攻略出来ない。
倒せると思えないけどね
私が今いるここは芸術の街【パリネリア】
フランスがモチーフらしい。このゲームは世界中のプレイヤーがいるからたまに他の国のイメージしたエリアがある。
なぜここにいるかと言うと前回ログアウトしたところだからだ。こんな端まで追いかけられた。アイツら……
まあいい、ここから1番近いところに行こう。
「ここから近いのは誰かなー」
マップからパリネリアの周辺を探す。
そうして見つけたエリアを人差し指で触る。
エリア名:灼鋼の断層
お、ここはサソリのフィールドだ。
「まずはこいつから」
狙いを決め、エリアを移動した私はフィールド内に入っていった。
――――
そうして冒頭
俺はサソリのサンドスコーピオン。
??ボスの一人で【灼鋼の断層】の主だ。
突然どっかの誰かが他のボスに喧嘩を売ったせいで全体の勝負が始まった。
俺としては勝負なんて面倒事はゴメンであったが、今回ばかりは腹が立った。
みんなが喧嘩に乗り気になってしまったのだから。
「あの時は酷かった……」
【初めてのボス顔合わせの日】
蜘蛛が去った後、気まずい雰囲気が漂っていた。
ライバル…ねぇ。正直、こんな初めてのことで心配事を増やしたくない。断っておくか。
「冗談だろう。こんな前代未聞のことなんだ。協力していくべきだ」
しかし、それではだめだった。他にも心を動かされたやつがいた。
「ははは!サソリよ。お前の方が冗談ではない。このような場で仲良しごっこか?なんとつまらん。俺は熊と蜘蛛、2人の意見を支持しお前らをライバル、敵と認識する」
シャチ……そらそうだ。こいつはそんなやつ。
「マジで言ってんの?育は仲良くしろって言ってたじゃん」
フクロウか、良かった。ライバル関係を否定したいのは俺だけではないようだ。
「そうやで。皆で協力するんが成功に繋がるはずや」
鶴もまたそういった。
しかし、
「そんなことをしてなんの意味があるんです?」
蛇がボソッとつぶやく。
「お前ら、何が不満か。仲良しごっこが楽しいのは弱いやつの考えじゃないか?我々はボス、頂点に立つ存在だ。自信がないなら消えろ」
シャチの言葉に虚をつかれた。思わず黙り込み頭の中で反芻する。
「弱いやつは嫌いだ。そのままでいるんだったら潰してやる」
そう言ってシャチは出ていった。
「弱い?俺が……」
シャチの言う通り……なのか?
いやそれは違う。誰かを頼る事もまた強さだ。
そう思った時だった。
「てるてるを潰すためにも」
——誰だ?
視線を泳がす。
ボソッと呟いたのは、蛇。
しかしそれに真っ先に反応したのはフクロウだった。
「今なんつった?てるてるを潰すだって?」
フクロウは蛇に掴みかかる。
「何をそこまで興奮するんだ。てるてるはプレイヤー全員の敵。そうだろう?」
蛇は心底不思議そうに言った。
俺もフクロウがなぜそこまで憤るかわからない。
ここにいるものはきっとなにかの中心にいるのではないか?実力と演出の才能がある奴らの集まりだ。
そういう奴は最低一度はてるてるにしてやられたことがあるはずだろう。
俺を含めて。
「そう、さっきまでここにいた全員思ってるさ。我こそてるてるを仕留めるものなりってね」
蛇はそういい、フクロウを突き飛ばし、この部屋を去っていった。
「お前らもそう思ってんのか?てるてる……を」
フクロウはこちらに振り返る。
「当たり前だろ。あの害悪プレイヤー。知らないものはいない。みんな一度は自分が倒したいと思うはずだ」
俺はそう返した。だが何故だろう、声が震える。
フクロウがとんでもない顔で睨んでくるからだろうか?
フクロウは怒りと呆れで頭を回し、何も見ずにそのまま去った。
残ったのは俺と鶴、そして寝ている狼。
こいつさっきから船を漕いでいて目障りだな。
せめてここだけでもと思ったが鶴が言った
「皆が協力せえへんのやったら意味があらへん。潰されてしもたらかなわんわ。うちも戦わへんといかんな。堪忍なサソリはん。うちも考え直したわ」
そう言って彼女も消えていった。
ぼーっと立ち尽くす。
すると突然狼が飛び起きた。
「なんだ?誰もいないじゃねーか!どうなった?」
とこちらを見る
「お前は俺たち、協力するのと敵対するのどっちがいい?」
狼は一度キョトンとするがすぐに声をだす。
「俺らのことだろ?そんなの敵対するさ。その方が面白い」
と言って出てった。
そうか、そうかい。
お前らがそんなんだったら俺だってやってやるよ
俺も、俺のやり方でな――
【イベント初日】
そうして決めてたのに
早速てるてるが来たんだが?
育が認めるストーリーを作らなくてはならないのに!!
このイベントは我々ボスが死んだとしても復活できるからデスを演出に盛り込んでもいい。
そのため俺の作戦はこう。
【プレイヤーと仲良くなろう!】作戦
プレイヤーにいっぱい話しかけて、俺というキャラクターに親近感を抱かせ、攻略後の人気を獲得する。
そうして親近感がありながらボスとしての威厳を見せつけ、攻略を高い挑戦として演出する。そして強いプレイヤーに劇的に倒される!
だったんだが!目の前のてるてるにストーリーもクソもなくやられそうだ。
サソリのしっぽを振り回す。
これは高い汎用性とリーチ、毒や威力の高い物理技が気軽に出せる。そうして攻撃しているのだが、てるてるほその隙間を軽々通り抜ける。
しっぽで風をおこし、周囲の砂埃を舞らせる。視界を悪くし、さらに猛追。
今度はしっかりと狙う。
何とか掠めることには成功したが大ダメージには繋がらなかった。
さらにてるてるはスキルを複数発動し、あらゆる属性の魔法が降り注いできた。
これはまずい。何とか避けるが全ては無理だった。 特に水と風の魔法はこの身を抉りとった。
さらにしっぽと片腕が防御で持っていかれた。
これがてるてる。このままでは何も出来ずにやられてしまう。他のプレイヤーもあまりの迫力に手も足も出せていない。
そんな中ふと思い出す。フクロウに言ったあの言葉
「当たり前だろ。あの害悪プレイヤー。知らないものはいない。みんな一度は自分が倒したいと思うはずだ」
そうだ。今目の前にいるのはてるてる。今こそ初の1デスを味わわせてやるんだ。
そうして俺は第2形態に移行した。周囲の土煙が体を覆い隠す。その塊はどんどん大きくなっていく。
霧散した時、プレイヤーどもは唖然とするだろう。
その迫力と神々しさに目を焼かれろ!
周囲に土煙の嵐が吹き荒れ、
皆が目を守るために腕で顔を伏せる
そうして現れたのは
黄金に輝く、本当のサソリ。光を淡く反射し、見るものの視線を奪う。
土煙が晴れた瞬間、周囲から悲鳴が上がった。
視線に入れても全ての姿を視線の中に収めることが出来ない、あまりに大きい黄金の巨体。
横の柱よりも長い八本の脚が地面を揺らし、
天を突く毒針が太陽を遮る。
プレイヤーたちが後ずさる中、
ただ一人、てるてるだけが——笑っていた。
てるてるの周囲に、魔法陣が展開される。
炎、氷、雷、風、土——あらゆる属性の攻撃が一斉に降り注ぐ。
余裕そうだな
だが意味は無い、そんな攻撃は通用しないぞ。
スキルを避けもせず堂々と受け、ダメージもなし。これこそボスという存在だ。
その様子を確認したてるてるは次の瞬間、にモーニングスターを取り出した。
——こいつ、もう物理に切り替えたのか!
それはさすがに避けないとまずい。物理系は攻撃が通ってしまうからな。
だがこの巨体でも軽々避けられる。
攻撃は簡単にかわしたり、こちらの攻撃で相殺する。
さあてるてるこれからどうする、どう動く。
お前を踏み潰し、ボスとしての格をあげるんだ。
そう思っていたのだが、てるてるは突然攻撃をやめた。
は?
てるてるは出現していたスキルの発射口を消し、武器であるモーニングスターをインベントリにしまう。
彼女はこちらを一瞥するとウィンドウを操作し、
フィールドから姿を消したのだ。
なぜ?なぜ急に
敵を見失った攻撃が宙に風とエフェクトをばら撒き散っていく。
無意識に体が震える
最後消える瞬間、ちらりと見えたてるてるはニヤリと笑っていた。
一体なぜだ
ここまで……ここまでやってやったのに!
どうしてだてるてる!!!!
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