第七話
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「うわ、これもなかなかいいな」
そうつぶやきながら空を飛び、部屋全体を見下ろす1つの人影。真っ白な帽子にロングヘア、マーメイドドレス。
そして帽子からちらりと覗くゆらりと輝く赤い瞳。
ホワイトスパイダークイーンとしての私である。
ここは、私ホワイトスパイダークイーンのフィールド。
名前は沈糸の巣窟。例の蜘蛛のモンスターのダンジョンだ。
決して【白い選択肢】ではない。
今、ボスとしての体やステージの試運転を行っている最中なのだが、元の口調に戻っているのは私が設定を変更したからである。
実は蜘蛛の女王になってから口調が変わっていたのは、身バレ防止のためだったらしい。
ウィンドウで口調の調整ができるようになっている。
その設定に従いうっかり素が出ないよう
言葉が自動で修正されるから、なかなか楽だ。
女王様言葉への設定変更もできるが、気に入ってるのでなんと言われようとも絶対に変えません。
肩にはあの蜘蛛が乗っかっている。コピー対象のモンスターもどうやら私たちのサポートをしてくれるらしい。
あの時の迫力は凄かったが、今は可愛くて仕方ない。
せっかくだし名前をつけよう。
「サイド……」
ちょっとダサいか?まあ、私しか呼ばないし…
一応「私のもう一面」という意味のつもりだ。
なんだろう。どこかくすぐったい。
サイドにスキルの使い方を教わるように話しかけながら色々試している。
「この前は凄かった……な」
そうしみじみと思い出すのは、ボス達の初顔合わせ。クマの奴が1発かましたあと、気まずい雰囲気が続いた。
1度戻ってきた育がどれほど驚いたか。
その後はすぐに解散になった。
しかし、他の皆は平気そう。空気感を気にしてしまうのは私だけ?
確かにこれは私の悪い癖かも。
それは一旦置いといて、
解散後、あの行動に不満気な育からまた説明があった。
その説明とは主に2つ
「ホワイトスパイダークイーンとしてのイベントの立ち位置と、能力についてです」
え!1番気になるやつ!
先程の出来事などすぐに忘れ、育の言葉に耳を傾ける。
ゲーマーの身としては新しい力が気になるし、ボスとなる身としてはステージが気になる。
「ホワイトスパイダークイーン様、あなた様には先程の場所の1番奥。ダンジョンのラスボスをやっていただきます」
お、おお!なんだかそれっぽい!
私は目をさらにきらきらさせる。
「ダンジョンの入り口は他のボスとは違い、低確率でランダム。そのためプレイヤーと出会う機会は減ってしまいます。しかし、その分ボス部屋までの道をあなた様自身、ご自由にカスタマイズできるのです!」
なんてこった、夢が広がるな。
「何より!」
そう言うと育は伺うように周りを見渡し、私の耳に口を近づけ、
「以前言った通り、てるてる様が逃げて振り回すやり方でなく
待ち構え、挑戦者をまつ。上から見下ろし、自分は動かず振り回す。その戦い方を提案できます」
と言った。
育、お前わかってるじゃないか!!
「嫌いじゃないわ」
口ではこうだが、目からはワクワクが溢れ出している。
育も私のその反応に満足そうだ。
「ご納得いただけたようで嬉しいです!気に入らなければまた一からプログラムを組まなくてはいけませんでしたから」
ん?
「私に大丈夫か聞いてないのに、もう作っていたの?」
育はこちらを向いてニヤッとする。
「私、実は相手の好みを察するのが得意でして」
なるほど、人の好みを察せる。
このゲームの一大イベントを任せられるわけだ。
「能力ですが、モンスターの蜘蛛が使用していたスキルに加え、いくつかのスキル、特性等をウィンドウに表示させています。もしさらに何かご要望があればこちらで検討し、可能であれば追加します」
そして今に至る。
ステージを私好みにいじれるらしいし、プレイヤーでは使えないような強いスキルの数々。
やっているだけでとても楽しい。イベントの中でどんな風に動こうか。
そう思いながら、髪を靡かせ、空をびゅんびゅん飛び回る。
このドレスは足を動かしにくいから空を飛んで移動することを考えた。初めての戦い方だが、今のところ悪くない。
手に持つのは、
あまりに禍々しく美しい、白銀の鎌。
【シルヴェイン】
華やかな装飾が施され、その全てが持ち主の邪魔をしない。重さはないが、少し振るだけで風がすべてを粉々にして逃げていく。
試しに使ってみたが、
力を入れて振るだけで、跡形もなくbotのプレイヤーを消し去った。
とても手に馴染む。
この感覚はてるてるの時の【ヘムビート】を握った時のようだ。
「次はスキルを試そう!」
そう決め、私は1度鎌を下ろす。
手を前に出し、スキルを使用。
手から1本の糸がぴょんと飛び出る。
これが蜘蛛のモンスターの代名詞とも呼べる蜘蛛糸か。
手を掲げ、一瞬にして大量の糸を出す。その様子はまるで銀色の噴水だ。広がった糸は、手足のように自在に動く。
気づけば私は糸であるものを作っていた。
プレイヤーを迎えるのに必要な、ボスの玉座。
真っ白で上品。決して主張は激しくないのに、見ていて目を奪われる。
私もなかなかセンスがいいねぇ。
1度玉座を置き、またスキルを試す。
次はあの時のサイドが使っていた物を試そう。
糸で作った刃スキル
ステージ中に糸を張り巡らせるスキル
そしてボスの定番、ため技攻撃
【アルビノ・ウィーヴ】
があったっけな
手に力を込め、糸を集める。
そうして手の先に現れたのは鋭い刃。私はそれを壁に向け放った。
それは風のごとく空を走り抜け、岩肌に深く刺さった。
戦っている時は辛かったが、打つ側になったらなかなか気持ちがいい。
うーむ、だが狙いが難しいな。複数の糸を正確に操るには指だとなぜか不安定だ。
少ないならまだいいが、大量の糸を使用する時はとにかく力が必要になる。
生み出すのに全力でコントロールに気を割けない。
まあ、実践して考えよう。
早速ウィンドウでボタンを押しbotを生成する
その瞬間、botは動き出し、私に向かって攻撃を仕掛ける。
なるほど、剣に、盾、弓と杖か。
まあよくあるパーティーだ。
最初に走り込んできたのは剣を持つやつ。
剣先が迫る。
——だが遅い。
体が勝手に動いて、攻撃を避けていた。
ふわりと浮く感覚。空中に飛び上がった私を、地上の四人が見上げている。
体が軽い。てるてるの時とは違う、この浮遊感。
慣れないはずなのに、まるで生まれた時からこうだったみたいに自然だ。
すると、剣は素早く引っ込んだ。
その間に弓と杖が構え、そこを剣と盾が守る。
剣が下がって遠距離攻撃のサポートに回る判断ね
その間弓と杖が同時に構え、無数の矢と氷刃が空間を埋めた。
狙いがなかなか正確。私でなければ何発か当たっていただろう。
よし、そろそろやるか。
私は手に持つ鎌を握りしめ、1振り。右手で持ったそれを左上から右下にかけて振り下ろす。
その瞬間、目の前にあった複数の矢や、体より大きい氷の刃が消えた。
連携が完成している。
ここまでできるパーティーなら番犬ケルベロスも倒せるだろう。
この攻撃を簡単にいなした。これがどれほどすごいことか。
私は鎌をしまい、スキルを使うことにした。
手から溢れ出る糸の刃が四方八方に霧散していく。
そっちじゃないのに!
このままでは使い物にならない。狙いを安定させるにはどうしたらいいだろう……。
その時、肩にいたサイドがこちらをつつく。
「サイド?」
するとサイドは足から糸をくるくると巻き、MPを込めた。途端その糸のあみ玉は光を帯び力を宿した。
これは以前戦った時にもしていたやつか?
まるで『こうやるんだよ、わかんないの?』とでも言うように呆れている
「……ああ、そういうこと」
手ではなく何かを媒体にして力をコントロールする
魔法で杖を使うのと一緒か……
そして私はサイドの真似をし、糸を巻き、MPを込めた。するとサイドと同じように光を帯び力を宿した。
これはスキルではないらしい。名前の表示がない。
「今度、蜘蛛の糸とかまだ決まってないやつと一緒に名前をつけよう」
そう考えながら鎌をしまった瞬間、チャンスだと思ったのか、弓と杖の攻撃を強める。私が下に逃げるように攻撃をしているようだ。剣が戦闘に加われるように。
私は、糸で刃をつくる
白い糸が刃となって放たれる。
触れたものは、切断される前に消えた。
飛んできた矢や魔法を相殺し、それを上回る攻撃があのパーティーに降り注ぐ。
早速サイドのアドバイス通りに糸玉を使ってみたが、
全然違う!!!体に負担はないし、何よりコントロールがやりやすい!!
楽しくなり笑顔でスキルを打ちまくってしまった。
はは。楽しいが……これ私がプレイヤーだったら絶対ムカつくな。
かなりの量であったが、こいつらは何とか生きているようだ。
正直これがプレイヤーでないのが残念だ。
もし人であれば今頃とても面白い反応をするだろう。
だが今はテスト。そんなことはしなくていい。
ボスの定番ため技攻撃
【アルビノ・ウィーヴ】
超強力な光線を一直線に放つ
その使用時、私は一切動けなくなるが問題は無い。
私には蜘蛛のモンスターがいるんだ。
彼らは向かう攻撃を次々叩き落とす。
周りには多くの蜘蛛が私を守るように取り囲んでいた。
サイドはこちらを向き、自慢げにニヤッとする。
可愛い!
何とかため攻撃を止めようと剣が突っ込んでくるがもう遅い。
私は光る玉をbotに向け、可愛いサイドに見せつけるように放った。
一瞬で伸びた光線はbotを飲み込み、そしてbotもろともそこにあったものが何も無くなった。
まとめると
鎌は威力がすごく、糸で作る刃のスキルは使い勝手がいい。
ボスの定番ため攻撃
【アルビノ・ウィーヴ】は動けなくなるが蜘蛛が守ってくれる。しかし、上位勢ともなれば蜘蛛の邪魔も通用しないだろう。
ステージ中に糸を張り巡らせるスキルは今回使わなかったから、またステージを作る時に試してみよう
まあ、今のところはこんな感じかな。
育への要望は、あるとしても
【スキルの使用時もっとエフェクトを増やして、かっこよくして欲しい】
ぐらい。
ちょっと私としてはもっと派手にして欲しい。
はたして、このスキルたちを使うことはできるだろうか。
いや、そんなこと今考えても仕方ないか。
今日は一旦ここまでにしよう。他にも色々やりたいことはあるが、帰りが遅くなったからゲームを早く切り上げなくては。
次は第2形態もやりたいな!
さあて、他の奴らはどんな風になっているのか……
気になりはするが考えないことにする。
お互い、どんな風にイベントを飾るか聞かないことになった。
これを提案したのは私だ。
それがどういう意味かわかるだろうか?
実はあの後私は、クマの行動を利用した。
育に呼ばれてから部屋を去る際、私はこういったのだ。
「なれ合いはしない。確かにそうかもしれないわね。こうなった以上、私たちはライバルよ。自分の情報を渡すなんて馬鹿な真似はしないわ。
また会いましょう。」
実はこう言ってましたー!てへ!
あの時の育の顔と言ったら。馬鹿なのはあなたですとでも言いたそうだった!
その後、他のボスも色々あって私に同意の意を示し、互いの情報は交換しないことになった。
まさにバラバラ。
皆、1番になろうと目をメラメラ燃やしているらしい。
笑いが止まらない。
1番とはなんだ?プレイヤーを倒した数か?プレイヤーからの人気か?
初めての試みで何があるか分からない。そんな中何を基準にすると言うんだ。私はそんなことまで言っていない。
が、そんなことは関係ない。
プレイヤーだけを相手にするなんてつまらなかったんだ!
これで他のボスの奴らを邪魔できる!
ちなみにアイデアはもうある。
私だってクマがあんな行動しなかったらこんなことしなかっただろう。
ある意味あいつのおかげだ!
私に利用されたとも知らず、孤高を気取っているのがおかしくて仕方ない。
ふふ。さあどうしてやろうか。まあまだ時間はあるんだ。他のやつは気にせず、私は私のことに集中しよう!
イベントの成功?
こう言う行動も面白いだろう!
手に持つ鎌をドンと床に突き立て、仁王立ちをする。その顔は素敵な悪事を思いついた、小悪党の顔だ。
そう。私は天性の悪役。
悪巧みをするぐらいがちょうどいいのさ。
あ、サイドを怖がらせてしまった。
ごめんね。嫌いにならないで!




