第五話
「こちらでございます」
そう声を発したのは運営の人間である育。
そして後ろには、1人の女性。
透き通るような白髪が静かに流れ、ウイッチハットからちらりと見える冷光を帯びた赤い瞳が闇を見据えている。
肩から裾へと広がる衣は蜘蛛の糸のように全身真っ白で滑らか。1歩動くたびに淡く輝きを放った。
身に纏うマーメイドドレスは体のラインを引き立たせ、深いスリットから見える色白い足が色香を漂わせる。
背には糸を紡ぐかのような装飾が伸び、まるで人と蜘蛛の境界を曖昧にしているかのようだ。
その立ち姿は、威厳と孤独をまとった“支配者”そのもの。
その美しい女性は——
そう、私。
私なのだ。
うーむ今でも信じられないな。
数時間前まで、雑魚モンスターを狩っていた人間だとはとても思えない。
せっかくだしちょっとそれっぽくしてみるか?
少し足を交え、体を捩じり、上目遣い。
自分では見えないが多分今いい感じでは?スタイルのいい美人になったら少しやってみたかったんだよな。
「てるてる様?」
そ、そうだ育ってやつがいたんだった。恥ずかし。
「なんでもないわ。早く連れて行きなさい」
「は、はい」
今私たちが向かっているのは、八人のボスの顔合わせだ。なんと驚くことに私が最後だったらしい。
育曰く、「だっててるてる様、スキルの存在忘れてたでしょう」と。
ぐうの音も出ないな。
そうして八人そろったので、これから顔合わせらしい。
八人の都合が、偶然私がボスになった日にぴったり合うだって?
これもまた育が
「元々皆様の予定は聞いてたんですけどね。
てるてる様、そこは全員いける日に来てくれました」
なんてこった。
そうこうして扉が現れた。
「もう皆さま先に座っておられます」
ふぅ——扉を前にし、体が勝手に背を向ける。
顔合わせがこんなすぐだなんて思ってもいなかった。
昔から新しい誰かと会うことは苦手だ。ボスになることより全然緊張する。
だがもう後戻りはできない。
だって育が「あなたを待っていたんだから早く」といわんばかりにこちらに圧をかけてくる。
そう私なら大丈夫。私はてるてる——
いや違う。今の私は
「ホワイトスパイダークイーン」
そう、私はボス。上に立つ存在。
「落ち着きましたか?」
育が顔を覗き込んでくる。
少しハッとしながらも、再び扉に向き直る。
「ええ。大丈夫よ」
私がそう言うと育はにこっと笑い、扉に手をかける。
「先ほども言いましたが、ご自身の情報を言うか言わないかは、ご自身でお決めくださいませ。
運営からは決して他言いたしません」
そうだな……私はてるてるだ。良くも悪くも有名なプレイヤーだし、一応黙っておこう。
それに正体を隠し続けるのも楽しそうだ。
「では、参りましょう」
育はそういうと、ゆっくり扉を開けていった。
真っ白な部屋に、色とりどりの光が差し込む。
慣れない照明に目を細めながら、私は一歩を踏み出した。
——次の瞬間、世界が広がる。
そこは、まるで星空を閉じ込めたかのような空間。
無数のプログラムやポリゴンが淡く光り、ゆらゆらと漂っている。
その中心に浮かぶのは、黒曜石のような光沢を持つ円卓。
八つの扉がそれを囲み、それぞれの前に豪奢な椅子が置かれている。
八つの扉に囲まれ、その席に鎮座する者たちが——
「よお。遅かったじゃん」
そのうちの一人。いかにも素行が悪そうな男がこちらに声をかける。
すまんかったな!
そういえば、
ボスの素体となるモンスターは、現実の生き物でゲームによくいるようなモンスターだと先程育から聞いた。
こいつには少しとがった耳がある。形的に、うーん…犬?
「まま。そうおっしゃらず」
悶々としていた私の代わりに返事をしてくれた育に心の中でお礼を言い、私は空いている席に座った。
皆がこちらを観察するように注視してくる。しかしその視線に敵意はない。
全員が座ったことを確認し、育は進行を始める。
「皆さま改めまして。 この度ルナオンひいてはVRMMO型ゲームに新しい風を巻き起こす新たな試みへのご協力、運営を代表して感謝申し上げます」
育は深く一礼。先程の様子からは考えられないほど落ち着いた口調だが、その言葉一つ一つに力がこもっている。
「今回こちらにそろいました八名が、今度行う一大イベント、プレイアブルボスイベントで、ボス役をやっていただきます」
念願叶ってといった様子の育。
私はさっき知ったばかりだけどね!
「では一度、自己紹介をしましょうか」
ん?自己紹介??
「ご自身のプレイヤー名までは言わなくて結構です。ぜひ、これからボスとして活動する際のお名前をお聞かせください。では、こちらから時計回りにお願いしましょうか。」
そうして人知れず困惑した私を置いて、育に指された人物が自己紹介を始めた
最初の奴は見た目好青年のようだ。
後ろに少し硬そうなしっぽが生えていて、先に針が見える。これはサソリか。
腰まで伸びる金髪をひとつに束ね、肩にサラリと流す。服はアラビアンっていうのか?しっぽみたいなのが黒に近い金、服の色もそれに近く、髪の色の差が綺麗。それらと系統の違う深い紫色の瞳が砂漠の夜を思わせた。
「こんにちは、はじめまして。俺はサソリからとったサンドスコーピオンだ。
うーん、なんかこの自己紹介照れるな。まあよろしく」
少し恥ずかしそうに頬をポリポリと掻き、席に着いた。
お、やっぱサソリか。人当たりもよさそうで、頼れる兄貴分?のような雰囲気にどこか隠せぬ傲慢さもある。
でも確かに。プレイヤー名を言わないということはボスとしての名前を名乗るってことだ。
なんてこった。私ホワイトスパイダークイーンですって言わないといけないの?
そして自己紹介は続く。
次は前髪で目が隠れてしまっている少し背の低い男性。目は見えていないが口はにやっと笑っており、いたずらをしそうな無邪気さを感じる。彼の軽い態度に合わず藍色の髪をしていた。身体的特徴がないから元の生き物が何かわからないな。
「やあ。自分、ほくろーをコピったナイト・ホクロウでーす。これからよろしくね」
そう見えない目でにっこり笑った。
ふ、フクロウか……わかんなかった。
続いては——ちょっとこの人陰気臭いな。髪は光に反射するほど輝く銀の髪。毛先には淡くライトグリーンが入っていた。そして獲物を定める金の瞳。人に絡みつく視線が、ねちっこい性格を表していた。暗い顔をしているが姿勢はしゃんとしており、その所作から丁寧な性格なのが伺える。
ああ、口から細い舌が見え隠れしている。こいつは蛇だな。
「よろしく。私は蛇と契約しミラージュヴァイパーになった。一緒に頑張ろう」
——言い方は思ったよりねちっこくはない。
だけど、何故だろう。あまり好んで近寄りたくない奴だ。
早く次に移ってもらいたいと思っていると、
次の奴が立ち上がった。
なんだか凄くいかつい男。だが、すごく物静かそうだ。とても真面目で頭が固い!って感じがする。
だが、こいつのそんな雰囲気は頭についてる可愛いあの耳で相殺されている。この耳の形的に……
「熊から力をもらった、エンバーグリズリーだ。よろしく頼む」
やっぱ熊か!
こいつ必要最低限のことしか言わなかったな。
そして見た目通り、その言葉と声から厳粛さがにじみ出ている。火山の如く溢れる潤朱色の赤。それに対し俺はここにいるぞと言わんばかりのガーネット色の瞳がそこにはあった。
やっぱ色々厳しい奴かも。
これから関わっていけるのか?
熊の奴が自己紹介を終えたあと、
その隣、またもやごついのが立ち上がった。
だけど隣の奴とちがって自信にあふれている。
見ていて、その自信に目がやられそうだ。こいつの生き物は何だ?
「俺は、シャチを下し、力を得た、タイダル・オルカだ。お前らも私に埋もれぬよう頑張るんだぞ」
そうにかっと笑い、どかっと座る。
くそう、なんだこいつ。上から目線が頭にくる。
深海の暗闇を思わせる至極色の髪、それに相反して瞳は空の水色を濃くしたようなものだった。
少しイラっときながらも視線をずらす。
次は、さっき最初に少し絡んできた奴だ。なんか不良みたいだけど大丈夫か?
「俺は狼!ブラッドウルフだ!よろしくな!」
右手の中指と人差し指を立て、額から大きく前に振る。
そして満足したのか座った。
明るさと快活さを思わせるアイビーの瞳と、近づいてきたものを礿きつくしてしまいそうなダークブラウン。
こいつ犬じゃなくて狼だったの?
なんだろう。失礼かもしれないが、そこはかとないばか臭を感じる…
そう考えていると
「次はうちやね」
そういったのは二人しかいない女性の一人だ。私とは違う系統の美人さん。熊と似たような寡黙さがあり、とてもクールに見える。光を通さぬ漆黒の髪、反対に星を閉じ込めたような銀の瞳が美しい。夜空を切り取ったような着物も相まってまるで童話に出てくる天女のようだ。
「鶴に選んでもろた幻翼のクロヅルいいます。どうぞよろしゅうな」
そういって静かに座った。
うわ、本当に綺麗な人だ……!
ぜひ仲良くなりたい。
みんなキャラ立ってて素敵だ……やっぱ考えてきたのかな!
うん。あれ?私、キャラとか考えてなくね?
はっ!
私、さっき、さっき知った!やばいやばい次私なんだけど!皆がこっち見ている!
急いで考えないと!!!




