絶望の連鎖⑥ ― 沈黙が肯定の証
◇◇◇
【燃灰の聖域】
真っ黒な火山灰が空気にまじる。今にも噴火しそうな火山がぶくぶくと呻き声をあげている。
禍々しく地獄に似たフィールド
それでも、上を向けば俺を嘲笑うかのように太陽が輝く。
……。
対して俺は傍の岩にドカンと座り、ぼーっと上と下で真逆な景色を眺める。
足元に落ちた手のひらサイズの小岩を足で転がしひょいと真上に上げ、この手でつかみ取る。
俺は、しばらくその石を見つめた。
そう。刻刻と時間は過ぎる。
もうイベントの時間では?
と今すぐにでも耳に聞こえてきそうだ。
俺は目をぐるりと回す。
簡単な話、
早くフィールド来すぎた
俺は石を真上に放る。
石は宙を飛び、手のひらにもどる。
手癖のように繰り返されるそれは、まさにこの姿ではやってはいけないことだろう。
だって、プレイヤーの時の癖だから。
パシっ
落ちてきた石を横から掴み取る。
前回も来たな。俺のユニオンのメンバー。
今回も、やはり来るだろうか。
はっ。面白い
石をまた真上に投げた。今度は高く。
落下してくるそれを見上げながら、逆の手で武器――【カラミティ・アッシュ】をにぎる。
落ちゆく石に数本の線がきらめく。
それが引かれた頃には石ころは粉々になっている。
武器を地面に突き刺し、
手のひらに乗った石だった欠片を握りつぶす。
あいつらには手心を加えてやろう。
やられてやるつもりはないがな
っと、そろそろ時間か
と時計を見るが。
「……」
もうちょっと会議室でのんびりしても良かったのかもしれない。
いや、こことあまり変わらないか。
俺は今度は頭を回した。
――
数分後
【??ボスイベント】開始!!
はっ。
ガタンと体がビクつくいた感覚がした。
え?今何時?
別に寝ていた訳では無いが、時間だけ確認させてくれ。
「……」
開かれたウィンドウを機嫌悪く睨みつける。
もう来るじゃん
ドドドド……
ドドドドドド
プレイヤーが
「こんにちわーーーー!!!!」
ドガドガとやかましく足音を鳴らして、そいつは来た。
「久しぶりだ!エンバーグリズリー!」
……?
少しメッシュの入った黒い髪と、動きやすさに特化した装備。何よりその挑戦的な瞳が記憶に残る。
「……お前、確か」
もしかしてロックろっく?
「もう!ろくったら勝手に先走りすぎです!」
「もうちょっと私たちの事気にしてほしんだけど?」
「ようやっと追いついた……」
そしてその仲間たちが続々と中に入ってくる。
ロックろっくはそっちの方に戻って行った。
「いやあ悪い悪い。ちょっと急ぎすぎた」
少し装備を変えたか?髪の毛の色も変わっている。
正直、声を聞かなかったら誰かわからなかった。
ぽりぽりと困ったように頭を搔いているあいつを見ると――
色々思い出して無性に腹が立つ。
ロックろっくはこちらに向き直る。
今度は仲間四人仲良く一列となって、俺と対峙するように。
「エンバーグリズリー、俺は……俺たちは強くなったぞ。もう一度、手合わせ願いたい」
なにか吹っ切れたのか少し、明るくなったようだ。
お前は強くなっても俺は弱くなったんだがな。
俺はまた剣を握る。
「ようやく、己の力で戦うのだな」
力む体からオーラが解き放たれる。
緑を燃やす火山の噴火のごとく、心臓を掴むボスの威圧。
しかし……
自信に溢れたその表情。
俺は下を向きながら、無意識に口角をあげた。
ゆっくりと剣を引き抜く。
出てくる剣先からは真っ黒な火山灰がぼろぼろとこぼれ落ちた。
顔を整え、前を向く。見据えるは四人の獲物だ。
さあ。強くなったお前とやらを見せてみろ
「行くぞ」
強く踏み込み地面に亀裂が走る。
両手で剣を握り、後ろで構える。
もう誰にも止められない。
はずだった。
「待ってください!」
……?!
どこからか声がした。
前のめりであった俺の体は体勢を崩す。
勝負の邪魔をされた?
そんなんじゃない!!!
崩したのに足が地面につかない。
「体が……動かない」
なんだ?バグか?
今どうなっているんだ。
「なんだお前!!」
遠くからロックろっくの声が聞こえる。
ピントが合わない。しかし、その人影を俺の瞳は捉えた。
誰かが割り込んだのか?だからってこんなことになるのは――
「ほんとに僕はダメなやつだな……まさか遅刻するなんて。しかも僕より早く来たのがよりにもよってロックろっくとか」
そんな独り言ボソボソと。そしてスタスタという足音が近づいてくる。
少し早歩きで、そいつは俺の目の前までやってきた。
渋い抹茶色の髪を流し、俺の顔を覗き込む。装備はそこまで良くない。おまけのおまけでありそうな、シンプルな格好。
なのになんだ?なんでこんなにも気持ち悪い?
「おい!聞いているのか?何やってるんだ!!」
するとロックろっくが向こうから大声で言い放つ。
目の前のプレイヤーはビクッと体が跳ねあげ
身を縮こませた。
眉をこれでもかと下げ、指をいじいじといじくっている。
しかし、何も喋らない。
「おい!聞いているのか――」
何も喋らない、その代わりに
こいつは手を上げた。
すると俺はふっとなにかの圧力が消える。崩した体勢から体が動くようになり、何とか地面に着地する。
胸を撫で下ろしたのも束の間であった。
「……え」
ロックろっく達は目を見開いた。
なぜなら、美しい青空は今全く見えない。
空を覆い尽くす常識を超えた、
大量の武器がこちらを向いていた。
「……ち」
思わず舌打ちが出る。この身を縛る何かがなくても、俺は動けない。
こんなにも煩わしいと、思ったことは無い。
「……うす」
舌打ちが聞こえたのか、少し会釈してきた。
こいつ……!
「だめ!ろく危ないよ!!」
女の、制止の声?
ガキンッ
しかし次の瞬間目の前で火花が散る。
ロックろっくが剣を握り、こいつに斬りかかっていた。
しかし、相手はどこからか現れた剣を盾にする。
宙に浮いている剣を。
ロックろっくは敵意を滲ませ、睨みつける。剣を交えたまま口を開いた。
「お前……これチートだな?」
それは叫ぶように、鼓膜を破りたいと言わんばかりに強かった。
……チー、ト?
俺は困惑したまま、その場を動けない。
目の前で起こっているのに理解できない。
それが本当なら……いや、本当としか考えられない。だってこんなにも非常識な力スキル、存在しないだろう。
何よりこいつは、
沈黙
しているのだから。
すると、
「……!」
いきなりロックろっくは後退する。
目の敵意は宿したまま、しかし顔は少し強ばったように見える。
奴の顔は見えない
「ふぅ。良かった良かった」
奴はそういうとこちらに振り返った。
と思ったらどんどん近づいてくる。
「これで二人で話せそうだ」
なん……だと?
「聞きたいことがあったんですよ。エンバーグリズリーさん」
俺は目を見開き、近づいてくる奴に一歩も動けないでいた。
ああ、俺はなんて情けない。
こんなんじゃ彼女に顔向けできない。
「無言はいけませんよ」
と、ニコリと笑う。
その顔に剣をぶっ刺したい。
だが、それが出来ない――
あの武器たちの先は俺に向いているから……!
「だって無言は肯定じゃないですか!」




