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第三十二話

時間が経つのはすごく早くて、楽しみにしていた例のイベントは今日になりました。


 ふふ。今日のために準備したんだ。

 ああ、だめだ興奮が収まらない。まだ時間はあるってのに。


「あー!いた!ちょっと何してんの、みんなあつまってんよー」


 背後から誰かの声が聞こえる。

 おや、もうかい。

 

 足を回すようにくるりと振り返る。

「ああ、いやあ悪いね。もういくよ」


 

でも――


 俺たちの晴れ舞台までもうすぐだ


 

◇◇◇


 何か急いでるわけではないのだけど、ただただ、目の前に広がる道をすたすたと歩いていく。


大都市の雑踏。

プレイヤーたちがイベントに向けて準備している。


「ねー、それで――いたっ」


おしゃべりをしていた女の人に肩をぶつける。


「はー?ちょっ、謝っ…………え」

 


 あ、あれ?気づかなかったわ。

 やっぱ無心で歩くといけないね。

 

 足を止め、体ごと振り返る。

 

「ああ、悪かったね」

 片眉を上げ、笑顔が顔に張り付く。しかしその目は、その考えを読める代物ではなかった。


「て、てるて……」

 ぶつかった彼女は、何が言いかけたが、いっしょにいた人に連れられ逃げていった。

 

 周囲からとげとげしい視線が刺さるが、痛くもないと言わんばかりにまた歩みを進める。

 そんなこと気にしている余裕が私にはなかった。


 だって今日は【??イベントボス】の日だから。

 

 うーん。一か月前の時は長く感じたのに、ここまでくるとあっという間に感じてしまう。

 緊張しているわけじゃないけど、なぜか少し早く来てしまった。

 

 イベントは9時からで、その前の最後の打ち合わせが8時から、それが終わって最後の調整。

 そして今の時刻は7時……。


 まあ、特段やることもないし、先行って待ってますか。


 ――


 

 プレボスの会議室、その高くまで広がる空とポリゴンの星はいつ見ても美しい。


その光景を見ようと会議室への扉を開く。


「あ、蜘蛛」


「お、おはよう」

 しかしそこにいたのはもうゆっくりとくつろいでいるほかのボスたちだった。


「あ、あなたたち……早いわね」

「はは、まあね」


 そこにいたのはサソリ、フクロウ、狼

 

最後にあったのは、一か月前の……模擬戦か?


 その前は結構集まってたのにこの顔たちを見るのは久しぶりだ。


 そう考えていると、次から次へと扉がガチャリと開く。


「え?」

「うおっ」


 入った時の顔は大体同じで、皆驚いたというようだ。


 そうして、プレボスは数日ぶりに全員がそろう。

 そして、これは集合の三十分前の話だ。


 

 次に扉が開いたのは


 ――

 7時55分

 「おはようございます!昨日はぐっすり眠れたでしょうか!」


 育がつるつるとした顔で入ってきた。


「もうすぐイベントですねぇ。私、今からでもワクワクしてきましたよ」


 にこにこと続けるが、この会議室はそのような雰囲気ではなかった。のだが、


「はーい最終確認だけしっかりやりましょうね」


 こいつ、私たちの扱いに慣れたな。


 育はウィンドウを少しいじると、また顔を上げ、優しく微笑んだ。

「と思いましたが、いまさら確認することはそんなにないですね。シフトに時間ぐらいでしょうか」

 

 こいつぅ~~この時間集合っていったの誰じゃあ!!


 まだイベント二回目なんだぞ。

 「冷たいなんて思わないでくださいな。いまさら長々話すほうが皆さまに必要のないことかと思いまして」


 それもそだ。


「ん、あーはは。その通りだね。いまさら緊張したって何にもならないよね」


 今まで黙っていたが最初に口を開いたのはサソリだった。


「いや、別に俺は緊張してねえけど?」

「どうだか」

「ああ?!」

 

「まあ、最後に”ボス”してから結構経つもんね」


「感覚忘れた言うんなら、うちもわかるわぁ」


 止まった時間が動き出す。絡まった糸がほどけていく。そんな感覚で、私たちは元の関係に戻っていった。

 

 同じ境遇の、近しい実力。

 性格は違えど、性質は同じ。


「我々がやることはただ一つ」

 ”イベントボスとしてプレイヤーを迎え撃つ”

 ただそれだけなんだ。


 育はまた満足そうにその様子を見ていた。

「冗談は置いといて」

 

 おい


 

 「この時間に集まっていただいたのは、遅刻してほしくないということと、イベント前に一度、全員で顔を合わせていただきたくて。このイベントを形作るのは皆さまなのだと、どうか忘れないでください」


 ……なんかさすがだな。

 私は足を組みなおし、皆の顔を確認した。


ほかのみんなもやる気に満ちた表情を浮かべていた。

 

 はは、確かに来てよかったかも。

 あまりに特殊なこの状況を共有できる人は少ない。

 だからこそ、この関係が心地いいのかな。

 


 「まあ今回のイベントも大丈夫だろ!」

 机をたたき手を伸ばして、狼が立ち上がった。


「イレギュラーとか起きない限りね!」

 


 

――

その後解散となり、皆自分の位置についた。

 私もゆっくりと玉座に腰掛ける。


 数十歩歩いただけで私の周りは静かになった。ここにいるのは私とサイドだけだ。


 

「じゃあ、サイド。やろうか」 


 それぞれの思惑は重なる。

 そんな中でカウントダウンが始まった。



 10


「サイドはイベントでなにやりたい?」


 9


「私としてはかわいいあなたに無理してほしくないわ」


 8

 7


「えープレイヤーぶっ倒したい?」

 

 6

 

「そうだねサイド」


 5

「私もよ」


 4

 3

 2

 1



【??ボスイベント】スタート!!!



 午前九時


 イベントが始まった。


 のに、私のフィールドは変わらず静か。


「私の戦いはすぐ始まらないからね。もうちょっとまって――」















 ?


 なんだ?


 いや

 

 な・ぜ・だ?

 なぜ、始まったばかりなのに。

 誰もダンジョンを通っていないのに。





 

 この部屋に、プレイヤーがいる?





 


 その瞬間だった。


 突然、何かが目の前に現れた。

 これは比喩ではなく、その言葉の通りで。


 ドガァァァン――


 玉座は粉々に砕け、パラパラと崩れていく。糸でできていたそれは周囲に霧散し、その原型を留めていなかった。


 そして私は、間一髪で避け、空中に避難。

 驚きの衝撃が大きく、心臓を抑える。

 


 そして、目を見開いてただ一点を見つめ続けた。



 

「あれ?おかしいな、なんでやれてないんだ?」


 私がいないと気づくと、そのプレイヤーは体をゆっくりと起こす。


 玉座を壊した棍棒を、糸くずを払いながら持ち上げる。


「ただのモンスターなのにな」


 その男は薄気味悪い顔でこちらを見た。


「お前は何だ?どこから入ってきた!!!!」

 胸を押さえながら片手で指をさす。声を荒げるが、その意思が届くことはなかった。

 

「いやだなぁ、女王様。そんなことより、楽しみましょうよ」


「はあ?」


「例えば……」

 そういうと、そいつはふっと姿を消した。


「こういうのとか」


 その声と共に、棍棒が脇腹に飛んできた。


「……!?」


 それをくらった私は派手にぶっ飛び、壁に激突。


 漫画でしか見たことないような穴をあけ、そこにうずくまった。


「あれぇ。やっぱおかしいな。これで結構削れるはずなのに、まだ結構残ってる……」



 この光景は前にも見たな……


 いや今はそれどころじゃない。なんだこいつは。

 どこから入ってきた?ダンジョンを通ったという通知はなかった。


 まるで、ここまですり抜けたみたいに――


 体をむくりと起こす。体から瓦礫の欠片がパラパラと落ちた。

 

 すり抜けた?いや違う、違うな。

 さっきあいつは突然消え、背後に現れた。

 

 そう、まるで瞬間移動みたいに。



 そんな可能性が頭によぎった途端、体が身震いを起こした。

 名を思い出すだけでアレルギー反応が起こる。


 昔、まだルナオンリリース一年ほどの時、運営が撲滅した、


 あの――


「お前、”ズル”してるな」

「ええ、なんのことかな」


 


 手を合わせ、離す。

 私は、一つのワイトークンを作った。

 

 壁の穴から出て、上からやつを見下ろす

 

 そしてあまりに侮蔑的な視線を送った。

 そこには一切の躊躇がない。



まず、瞬間移動とかはまだ、もしかしたら存在するスキルかもしれない。


だが


ダンジョンをすり抜け、ここまでやってこれるスキルは絶対にない。

 


 そうだな、うん。

 誠に残念なことだが、


 

 こいつは




 チーターだ。

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