第二十二話
「プレイアブルボス、弱体化します!」
会議室に育の声が響き渡る。それは普通であれば衝撃の事実。己の使うキャラが弱くなる。
それはゲーマーにとっては死活問題。
しかし我々はボスなのだ。
この場には困惑ではなく、むしろ、どこか納得した空気が流れた。
「あー、まーそーだよね」
フクロウが体を浮かし、空中で足を組んでいる。
「ちぃと強すぎたなぁ」
ツルも手を触りながらしみじみとそう言う。
「そうですよね本当に申し訳ないです……」
育は小さくなりしゅんとした。
「私の想像以上に皆様がお強すぎました。一応で基本ステータスをあげていたのですがかえってせっかくのスキルや武器が使えなくなってしまって……」
「第2形態とかもね」
私はそう呟きながらウィンドウを脇目で確認する。
『今回のボスいいっちゃいいけど強すぎ』『つまんない』
育の肩がさらに丸まる。
これみたら育もちっちゃくなるかー。
するとバンと机を叩き狼が立ち上がる
「俺は楽しかったぜ!!別にこのままでもいいだろ!!!」
「いい訳ないだろ」
サソリがそのしっぽで狼を軽く叩く。
「イッッッッタ」
「イベントの時そう感じたけどだからといって手を抜くのも難しかったからな」
そのサソリの言葉に育はもう座ってたら机で見えなくなるほど小さくなってしまった。
そんな育に話を続けたのは蛇だった。
「それで育。私たちはこれからどうなる?これからどうする?」
蛇の鋭い声が全員の注目を集める。
そうだ。これからのことを今日は聞きに来たんだもんね。
「はい。今日話すのは主に3つです。まずは弱体化についてですね」
育は手をパンパンと叩き、恒例となったプロジェクターを上から下ろした。
この光景に慣れてしまった自分がいる……
「基本的にステータスを大幅に削ります。現在の数値は主に他のNPCのボスから計算し、割り当てていました。それをプレイヤー、まあほぼ皆様のプレイヤー時のステータスを基準に構成することに致しました」
ほー。
なるほどね。外的には人型NPCぽいステータスになるかな?
「おい育、それだと俺みたいなのが弱くなりすぎるんじゃないのか」
そう言ったのはシャチだ。そういえばこいつの第1形態はシャチの姿だったっけ。
「あ、俺もじゃん」
狼、全くこいつは……
「そうだ。人型ならともかくモンスター時はそうは言ってられない。体がでかくなるだけで体力がないのならそれはただのでかい的だ。そいつらだけじゃない。俺たちも第2形態ではモンスターだ」
腕を組み、機嫌が悪そうな熊が初めて口を開いた。
しかし育は突然立ち上がり、目をキラキラと輝かせる。
「そこで!今回お伝えしたいこと1つ目です!」
プロジェクターに映る画面が代わり、盛大な画像が映し出された。
「この時点から!プレイアブルボスを【プレイヤーと一緒に強くなる?!新感覚成長型イベントボス】としてやっていこうと思います!」
パカパカパーンと音が鳴る。全員が言葉を発さず、ただ目を見開いている。
「つまり!プレイヤーを倒せば倒すほど強くなるレベルアップ方式を取り入れます!」
「れ、」
「「「「「「「「レベルアップ……?!」」」」」」」」
皆が育の予想外の言葉に呆気にとられた。
誰も理解が追いついていない顔をしている。
それでも育はまた言葉を紡ぐ。
「ステータスは皆様の実力、スキルの強さを考慮しこちらで調整致します。基本ステータスが低くても皆様ならば十分に複数のプレイヤーとやり合えるでしょう。ボスとしてやられることも、それが嫌であれば本気で戦い回避することも可能です」
「それに合わせ、リスポーン時間を5時間から2時間に短縮、フィールドに入場できる人数も調整できるように致しました!これだけすれば、きっと皆様に楽しんで頂けるはず……!」
息を切らし、育は肩で呼吸を始める。興奮している様子だった。これだけでも育が真剣に悩んで来たことがよくわかった。
私は下を向き、情報を整理する。
レベルアップ……。しっかり考えれば考えるほどよくできてんじゃない?これ、一見プレイヤーの来る人数が少ない私が不利に見えるけど、私はスキルが強い。
何より蜘蛛ちゃんが戦ってくれる。
プレイヤーと一緒に成長するボス……か。
これはこれは、なかなか想像が膨らむじゃない?
「ええ、それすごいけどレベル上げ大変そー……。毎回僕らのイベントって訳じゃないだろ」
フクロウが体をバタバタさせた。
育はこの言葉にも強く反応した。
「ああ!それはですね2つ目に伝えたいことでございます!これからの皆様の活動の場として、恒常イベントボスとしようかと考えておりまして」
「こうじょー?」
フクロウが不思議そうにそう聞く。
「はい!これからイベントがある度、皆様にもイベントボスとして出て頂こうと」
え、まじかそれって
「メインのイベントと一緒におまけとして出るってことかしら」
「おまけ……となりますね。しかしこれでかなりレベルアップの場が広がるのではないかと!ただこちらはイベントに出たいという方がいたりしたら、そちらを優先して頂きたいと考えております」
それが聞きたいこと?押し付けないのか。
「あー、俺はあんまり。イベントは出ておきたい」
シャチは少し残念そうにそう言った。
「そうですよね。大丈夫です!こちらの案は無理して通すものではないので」
えー。私としてはありだと思ったけどな。レベルアップ?の機会も多い訳じゃなさそうだし。何よりメインとは別でイベントボスやれるとか特別感が強すぎ。
するとすらっとした腕を上げ、蛇が口を開いた。
「私は別にやってもいいと思うけどね」
蛇はシャチの方を向く。
「はぁ?」
シャチが呆れた声を出した
「そういう問題じゃ……」
「シャチ、君はイベントボスとして出たいと思っていない?イベントに出れないからという理由抜きだと」
「あぁ?別に出たくねえわけじゃねえ。ただプレイヤーとしてイベントは全部参加しなくちゃいけないだけだ」
へぇ。意外と真面目なんだな。
「ふむ。ならば育、こういうのはどうだ。イベントに参加するのは一度に2人だけ。毎回交代交代で出るボスを変えるのは」
育はそれを聞き、ぴんと伸びた。
「ええなぁ。確かにそれならメインイベントも薄れんし、イベントに参加もできるわ」
ツルは背筋を伸ばした。
「だったら復活時間をこの時だけ5時間のままにすんのは?そしたらボスで出ててもその間に参加出来んじゃねーか?」
狼が勢いよく手を挙げた。
「うーん。狼のくせに……」
フクロウがボソッとつぶやく。それに反応した狼とふたりは取っ組み合いを始めた
そして誰も止めない。この会議はいつも通りだ。
私たちはそれを無視し、育に注目を集めた。
その時の顔はとても幸せそうな顔をしていた。
「あぁ、ありがとうございます。とても素敵な案です。今頂いた案、採用させてください」
「シャチは、それでいけそうなの?」
私はシャチに視線を向ける。
「それなら行けるかもしれん。俺だってボスやりてえし」
「ねー熊はいいの?」
話を聞いていたフクロウは狼を蹴り飛ばし、その勢いで熊に飛び乗った。
「離せって。俺はそれでいい」
フクロウを引か剥がそうとしながら少しイラついた声でそう言った。
「そうですね。では交代で2人ずつボスをして、1周回ったら皆様のイベントを致しましょう」
育の息遣いが荒い。
「決まりだな」
私はそう言った。みながピタリと動きを止める。それぞれが、これからの戦いを思い描いている。
これからの方向性が決まった瞬間だ。
「そ、そうと決まればスタッフに1度共有をして会議して、その後また……」
しっくりきた様子の育はまた興奮し始めた。
「わかったから育!一旦落ち着こう」
サソリが興奮気味の育の背中を撫でる。
「あ、すみません。サンドスコーピオン様」
「あ」
「え?」
ボス全員で顔を見合せた。
「なんで育だけクソ長い名前で呼んでんのー?」
「ちょいと不便やね」
「一度イベントを乗り越えた仲だろ」
「もう私たち仲間でしょ。育も私たちと同じように呼びなさい」
正直私たちが育より偉いわけないし……。
しかし、育は顔を上げた。
「はい」
みんなしばらくくすぐったそうにしていた。
こういう瞬間の時だけ、私たち友達みたい。
そんな雰囲気に終止符を打ったのは蛇だった。
「そういや、伝えたいこともう1個あったね。それは何?」
「ああ、ありましたね。では最後にお話しましょうか。
【単独イベント】について」
◇◇◇
ルナオンのとある場所にて
広間に多くの人数が集まる。
上から1人、頂点にあらわる。
「これで我々は集結しました。それでは会いに参りましょう。我らがてるてる様に……!」
騒ぎ立てる訳でもなく、感情を露わにするでもない。
ただ静かに、なにかに祈っていた。




