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第二十話


ああ、疲れが洗い流されていく。

 ぷかぷかと雲に包まれているかのような穏やかさ。


 そんな中景色が変わり、いろんな光景が目に入る


 最初はブラッドウルフ。彼は気配を悟られず、位置が分かったから倒せた


 次はタイダル・オルカ。彼は一番長い戦闘だった。仲間と息を合わせ、何とか倒せた。


 あ、幻翼のクロヅル……。彼女との戦いでは失態ばかり犯してしまった。だからこそ俺一人で倒したんだ。


 次は...うっ、ミラージュヴァイパー。彼は苦手だ。奴の自滅で倒せたが、彼の言葉と最後の笑顔は頭にこびりつく。


 その次はサンドスコーピオンだったな。前の戦いでの悩みを聞いてくれた。いい奴だったけど強かったな。ラーナのファインプレーで勝てたっけ。


 んでナイト・ホクロウか。あいつとの戦いが一番面倒だった。なんだよ『だるまさんがころんだ』って、おだてたら乗ってくれてよかったけど。エドのコントロールでシャンデリアを落として勝ったんだ。



 そして最後は……エンバーグリズリー。彼が一番怖かった。倒せる気がしないと思わせる気迫。一撃一撃が重くて、攻撃も通りにくい。のんの必殺技で勝ちにつなげることができた。


 大変だったけど


 「……」


 楽しかったな


 「……く」


これでイベントランク一位か、思ったよりかかったな


 「……ろく!」


あれ?何か忘れてる気が


 「ろく!ろくってば!!」


 「はっ!」

 俺を呼ぶ声に目を覚ます。


 なんだ?夢を見ていたのか?

 声を上げたのはラーナだった。


 「やばいよろく。もうこんな時間なんだって!」

 そういって見せられた時計を見て俺の眠気が吹き飛ぶ

 「20時……?」

 

 「ラーナ、ろくは起きましたか?早く準備を。エド!しゃんとしなさい!」

 

 そういってのんとエドが歩いてくる。

 「このままではホワイトスパイダークイーンを攻略できません!!!」


 「な……」


 忘れていた。俺はあの蜘蛛の女王を倒すためにも戦ってきたんだった。


 てかえ?20時?イベントは21時までなんだぞ!!!

 エンバーグリズリーを倒したときの空はもっと明るかった。


 寝過ごしたんだ。パーティーみんなで。


 俺はすぐさま飛び起き装備を整え、

 すぐさま出発した。


 「ねー、ろく早く!ダンジョンってどこにあんの?その蜘蛛の印ってのでわかるんでしょ?」

 みんなで走りながらラーナが声を荒げる。

 

「それが……」

 わかるといっても方向しかわからない。

 今いるのは北の果て。どこまで進んでも同じ方向しか刺さない。


 「南の町へ一個ずつ飛んでいきましょう」


 のんはウィンドウを開きここから一番近い南の町、【ランドリー】にカーソルを合わせる。

 ロード画面を経て、町が現れるが


「まだ南だ」

「では次に…!」


 しかしその後いくら南に進もうとも、その表示が変わることがない、ずっと南


 「これ、やばくね……」

 

時計を確認。現在20時30分

 かなり……やばい


刻一刻と終わりが迫る。

 全員が焦る。このままでは彼女の顔を見ることさえできない


印が示す方向が変わったのは

春の都市ラランティス



 「ここから東だ!」

 さっきとは打って変わり方向がどんどん変わる。

 どんどん近づいていく。


 

 

 そうしてダンジョンの入り口を見つけたのは



 20時55分



「よ、ようやく見つけた……。」


 俺たちは疲れた足取りでダンジョンに踏み入る。

 しかし、俺たちに疲れなど頭になかった。ただのこり最後のボスを倒さなきゃということしか。


 ホワイトスパイダークイーン。お前を倒して、イベントランキング一位に……!


「遅い」


 え?ここは?


 ダンジョンの道中ではない。ボス部屋の玉座……?

 目の前には足を組み、頬杖をついてこちらを見ている

 ホワイトスパイダークイーンがいた。


「まさか最後の時間を睡眠に溶かすとは。やる気があると思っていたが期待外れだ」


 手すりに指をとんとんと鳴らしながら、彼女の冷たい視線を向けた。

 それが深く、深く胸に突き刺さった。

 俺は無意識に顔を下げ、目だけ彼女をとらえる。


 彼女は立ち上がり近づいてくる。


「私は結構楽しみにしてたんだが……。いやもういいか」


 心臓がドクンと体全体を震わせる。

 期待を失うことが一番怖い


 いやいや俺は彼女に何を欲するんだ。

 あたまがぐるぐるする中、近づいてくるこの人から目が離せない


 一歩一歩


 ミラージュヴァイパーの時とは何かが違う震え。


 ついに目の前で

 ホワイトスパイダークイーンは足を止め、鎌を取り出す。


 

「はぁはぁ……」

 息が止まらない。怖い、怖い……!


 彼女は俺の首の前に鎌を置く

 一瞬の静寂が流れる。


 そして


「次は寝坊しないのよ」

 そう一言つぶやくと体を一回転し、全員の首を刈り取った。

 彼女は笑っていなかった。

 その瞬間、俺の手の甲から白い光が消えた。


  ◇◇◇



 次があればいいわね。おバカなロックろっく。

 さすがに次も同じ待遇は約束しないわ、強いあなたでも。遅れたことでは無い。大事なチャンスを寝坊でなんて……ねえ?


 ”私”は結構忙しいのよ。

 次は他ボス全員を相手にしなきゃならないんだから。

 


私はもう一度玉座に座る。




 

午後21時

 【??ボスイベント】終了


 ◇◇◇


五日にわたったイベント【??ボスイベント】が終わりを迎えた。


 いやあ。いろいろあったけどやっぱ疲れたね。

 来訪者の少ないホワイトスパイダークイーンの私でこうなんだから他はもっと疲れてるよね。


「はは」


 もう次に気持ちを切り替えなくては。メインディッシュを食べられないこと、もう気にするな。本気を出さないことには慣れているのだし。

 

 気を引き締めろ

 ここからが本番だ。他のボスの相手をこれからしなくてはならない。

 これからあるのはイベント後の報告会だ。


「…………」

 

 みんな気にしてるかなぁ、そんな気にしてないかなぁ。

 怖いなぁ。


 「頑張るかぁ……」


 情けない声がボス部屋に響く。それに反応したサイドが心配してやってきた


「ありがとうサイド」


 サイドを膝の上に乗せ、ゆっくりなでる。

 穏やかな時間だな。

 そうゆっくりしてると


「そんな悩むなら余計なことをしなければよかったのですよ」


 後ろから、声が聞こえてくる。育だ。

「お迎えに参りました、ホワイトスパイダークイーン様」


 時間か


「そう。じゃあ行きましょう」


 育が出した扉に足を入れる。

 あ、育忘れてた。イベント中の私を見てたのかな。やべ~


 まいいか


 育は今どんな顔してるか……少し怖いな。



 ――


【会議室】の扉の前


「早くしてくださいませんか?もう皆さん居てらっしゃいます!」

 育の声色が段々低くなる。

 

 だってだって……。


「私が開けます」

 と言って、育が前に乗り出すのを止める。


「自分でやるわ」

 そこはさすがにねぇ…

 私自身で開けなくちゃ。


「行くわよ」


 そうして私はようやくその扉を開けた



 

 久方ぶりの会議室。

 明るい光が目に痛い

 ここにはイベントが始まってから、一回も行ってなかった。

 やられてないから。


 そしてテーブルにつくこれまた久しぶりのボスたち

 あれ~みんな顔が険しいね。どおしたのかな。


 なんて心の中で茶番をしながら、体中に突き刺さる視線に耐え席に着く。

 やっぱ怒ってっか~……


 育が前に出てくる

「皆様、そろいましたね」


 育が周囲を見渡し、続ける。

「イベント、お疲れさまでした!」


 ぱんぱかぱーんと紙吹雪が落ちてくる

 光に反射し、とてもきれいだ


「いやあ、良かった!特に大きなトラブルもなく終えることができて!評判は上々。上もこのイベントを続ける方針でいくと言っています!」


 お、マジ?まだこの姿とお別れしなくていいのか。


「協力していただいた皆様のおかげです!ありがとうございました!」


 育は嬉しそうにお辞儀をする。

 しかし、それに反応する者はいなかった。

 皆が皆、違うことを考えていた。


 

「本当にありがとうございました。今回のイベントは初めての試み。それを言い訳にするつもりではございませんが、皆様にはご不便をおかけしました。主に能力値とかですね」

 育は悲しそうな顔をしている。



「皆様がそれぞれのイベントでより良いストーリーを生み出せるか、勝負をなさっていたことは知っています。しかし、皆様が生み出して頂いた物語は、確かにプレイヤーの心に残りました。」

 

 育……

 私好き勝手しすぎたか?


「長くなりましたね……。皆様お疲れでしょうし、私はここで失礼させていただきます」

 そうして、育は姿を消した。


 しばらくその場はしんと静まり返る。

 だが私は「ふう」と心の中で深呼吸。

 

 くる



 

「それで?われらが蜘蛛の女王様は説明なされるのだろうか?」

 一人最初に声を上げる。

 そういったのはシャチか


「ロックろっく送ってきたのお前だろ?」

 オオカミ


「どうしてそないなことしたん?」

 ツル


「不可解だなぁ。あいつの手の甲にあった奴はどうしたんだ?ずりーぞ!」

 フクロウ

 

「私たちの邪魔が目的だったかな?」

 蛇

 

「俺も教えてほしいな。どうして彼にさせた?」

 サソリ



「俺の邪魔をしたのはなぜだ?」

 え、熊お前も?圧がすごいな




 みんなギャーギャー言ってますわ。育の感動話のあとですけれども。

 そんな気にすること?

 

 まあ説明しますか

 

「それはもちろん、楽しいから」


 私がそういうと、

 そらもうどっかーんと。

 言葉の量が一気に増えました。


「もーぐちぐちぐちぐちうるさいわよ!これが私の演出なの!」

 それでも収まらない。


 こいつら……

 

「ストップ!!」

 私の声が響く。やっと静かになった。

 しかし皆口は閉じたが、目はまだ言葉を発する勢いだった。

 

 こいつは次何を言うんだとばかりに

 こちらを警戒した

 

 全くこいつらは……


「いいかしら……」

 と、言いかけてやめる

 

 私はウィンドウを開き、口調の設定をオフにする。

 そこまで言うなら、私の言葉で伝えようじゃないか


 手を前に出し、顔を傾けにやりと笑う。

「でもあなたたち、楽しかったでしょ?」


 皆ピシャーンと雷が落ちてきたような衝撃が走る。

 とても、とても驚いた顔をしていた。


「その顔は図星?わかりやすいな」

 私はくすくすと笑いながら自分の席に座る。


「これからは仲良くしようじゃん?私たち8人しかいない同士なんだから」

 肘をつき、手を重ねる。私の顔は他と違う、人に見せる悪い顔だった。


 


 誰かがふっと笑う


 すると何か吹っ切れたようにみんな笑い出した。

「そうか…それが君の本性か。負けたよ!確かに彼との戦闘は楽しかった!」


「せやねぇ。やりたいこともできたなぁ」


サソリ、ツルがそう言う

  

 その返しに 

 「あらそう?それはよかった。彼は私に本気を出させてくれなかったからうらやましいよ」

それにまたどっと笑いが起こった。


 正直、消化不良かと言われたらそうだけど、私がやりたいことできそうになかったんだよな。

 

私はまたウィンドウを開き口調設定をオンにした。

 もういいだろう。

 

 しかし、一人の男が横入りしてきた。

「俺は許さんぞ」


 ん?熊か


「あんたは楽しめなかったかしら?」


「いや楽しんだからこそ邪魔されたのが許せない。俺にはやらないといけないこともあったんだ。絶対やり返す。」


 とんでもない形相。淡々と怒りを滲ませこちらをにらむが、

 もう怖くない

 

「あらそう?待ってるわ」


「な?」

 あれ、そういわれるのは想定外だったかな?



「よう熊。こいつに仕返しするなら俺も混ぜてくれよ」

 熊の肩をがしっとつかんだのはオオカミ。お前勇気あるな。


 

 そんなオオカミが熊に背負い投げされてる横で、フクロウが不服そうに座っている


「フクロウはなんであんな不満そうなんだ?」

 私の疑問を耳に聞き入れた、サソリが飛んできた


「気になるかい?実は」

 

「え?ちょちょっと!」

その会話を聞いたフクロウは思わず席から立ち上がる。

 

「てるてるが途中で帰ったのが悲しかったんだってさ!」


「え?てるてる?」

 まさかここでその名前を聞くことになるなんて

 

 

「サソリ君?」


「すみません」


 サソリがフクロウに詰められてる間に、その会話を聞いたほかの奴が集まってきた


「そういやてるてる序盤に来てたな。少し攻撃をしただけで帰っていった」


「え?シャチも?実は俺も」

「うちもや」

「私も」

 

 そうして私以外の全員が名乗りを上げた。

 正直、なんでそんな覚えてんの?


 いちプレイヤーじゃん


 「そうなのか。実は私も」


 乗っかとこう。てるてるの私ならワンちゃんある。

 いやそれより話題をそらそう


「それでなんでフクロウが落ち込むわけ?」


「それはこいつてるてるのファンらしい!」

 え?


「サソリ君?」

「すみません」


 サソリがまた詰められるが長く続かなかった。なぜなら、他がフクロウを詰めはじめたからだ。


「なぜ?なぜてるてるが?」

「いやあの」


「不思議やな。てるてる好きな方がおるなんて」

 

「てるてるが好きだと?正気なのか?なんで好きなんだ!!!」

 さらには奥で縮こまっていた熊も出てきた


 

「言わないし!!!」

 フクロウはあわあわして、声を張り上げる。


 「絶対、絶対に笑うもん」

 フクロウは机の中に隠れてしまった。


「まあいいじゃない。私もてるてる好きよ。そう一気に聞かないであげなさい」

 私は救い舟を出し、机の下にいるフクロウに手を差し出す。

 

ふてくされながらもフクロウは出てきた

「へぇ……蜘蛛もてるてる好きなんだ。どこら辺が?」


 「言ったら、あんたもいってくれるのか?」


 フクロウは一瞬悩んだが、頷いた。

「てるてるを好きな人って周りにいなかったから」


「そう。私がてるてるを好きなのは私にない自由を持ってるから。そんな彼女がいるから私も自由になれるの」

 これは一言一句嘘ではない。


 私の、てるてる。


「そか。僕もそんなとこ好き」

フクロウはまた一瞬止まったが決心をつけた。


「僕、元王道ユニオンのリーダーなんだけど」


 「「「「「え?」」」」」


 私とオオカミ以外全員固まる

 王道ユニオン?どっかで聞いたな?


「そこをてるてるにつぶされて僕やられちゃったんだけど、その直前のてるてるが素敵すぎて」


「ハマっちゃった!」


 「「「「「えーーー!!!!!」」」」」


 5人の叫びが鼓膜を直に揺さぶる


「う、うるさ」


 私は思わず耳をふさぐ。


「王道ユニオンといえば!」

「ユニオン制度導入当時からつぶされるまで!」

「このルナオンを支配した最強のユニオン!」

「今でも伝説として語り継がれ!」

「ユニオンの理想形といわれる!」


「「「「「あの???」」」」」


「そこまで褒められると照れちゃうな」


「まじかあああ」



 うーん王道ユニオン……

 

 あ!私が昔ぶっ倒したやつか?

 結構前に出てきた夢のユニオン、あれ王道ユニオンって名前だった気がする。


 マジかこんな巡り合わせってあんのか

 5人がフクロウを取り囲みもみくちゃにしている。


 みんな好きなんだなぁ。別に悪いことしたなんて思ってないけど。

 

 そんな様子を頬ずえを着きながら見守る。そんな私と一緒にちょこんと狼も座っていた。


「あれ狼、お前はいいの?」


「んー?俺最近始めたばっかだからわかんねー」

あーね、納得。

 また視線をわちゃわちゃしているところに戻す。


「どうして!ユニオンをつぶした張本人のファンになっとるんや!」

「そうだよ!あんな極悪非道のてるてるを!」


 ひどい言われようだ。


「それでも!それでも僕はてるてるが好きなの!」


 その光景は、てるてるでは知りえなかった。

 みんなの言葉が妙に耳に残った。


 しかし、その自然と笑顔が溢れている。

 いい雰囲気だ。友達でもなく険悪でもなく、ただただ高め合うライバル。


 

 みんなは思わないだろう。その真横にいるのがてるてるだと。


 ついでに言えば……



 時間が経ち、ようやく解散になる。私はログアウトボタンを押した。



 軽かった体に重力が乗る。


 私はゆっくりゴーグルを外し、教科書がのる机に置く



 そしてベットに横になり

 眠りについた


 ◇◇◇

 【翌日】


 背中まである黒髪が風に揺られる。

 紺のブレザーに柄のあるスカート、黒のスクバを肩にかける


「あ!凛おはよー!」

「凛!やほー!」

「尾川、おはよう」


 学校中いろんな人から挨拶が飛んでくる。


 しっかり返さなくては。

 そう、しっかり笑顔で。


 風に揺られる髪を抑えて私の、全力の笑顔で!

 「おはようございます!」


 

 

尾川 凛 17歳

 

一体だれが想像できるだろうか

 日本で大人気のゲーム

 【ルナリス・オンライン】で悪役プレイの頂点に立つ最強のプレイヤーてるてるの正体が


 こんな平凡な女子高生だったなんて

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