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第一話 目覚め

それはとある日の昼下がり。


曇天の空が広がり、遠くの方に光る一筋が見える時のこと。豪勢な屋敷の敷地を幼い少女が乳母らしき女性と手をつなぎながら歩いている。少女の服装はその年の貴族の子供が着るにしては質素であったがよく見ると全体に細かな刺繍が施された上品で洗礼された服だった。白を基調としたその服は少女の鉄紺色の髪の毛が引き立ち、アクセントのリボンは少女の瞳の色と同じ薄青色をしている。

少女は興奮した様子で乳母をせかしながら礼拝堂らしき建物に入っていった。幼い少女が喜々として礼拝堂に入っていくのはどこか異質に感じる。 先程、幼い少女と言ったがどちらかというと幼女と表した方が適切なように感じる子供である。

簡素で人が集まることを意図して造られていない礼拝堂には祭壇以外何もなく、祭壇の後方にはこの世の神である女神フェイティニーを模したと思われるステンドガラスが広がっていた。雷鳴がとどろく中、先程の少女が祭壇の前まで来て乳母の真似をしながら祈りを捧げる。その瞬間、礼拝堂へ雷が落ち、揺れた。ステンドグラスが女神フェイティニーを浮かび上がらせる様に光る。

先程まで祈りを捧げるためにうつむいていた少女がハッと顔をあげる。見開かれた薄青色の瞳が水色に変わり、肩にかかるくらいの鉄紺色の髪の毛は銀髪に変化した。 聖女誕生の瞬間になる。


これが私、ミュリエル・ロビンソンの行動の原点である天啓を受けた日の記憶である。




私は今、窮地に立たされています。実は王城へお茶会に参加するために登城をしているのですが、とある高貴なお方、私の婚約者になる第一王子のジョインソン殿下とまったく会話がはずみません!仲良くならないといけないのですが、やっと陛下とお会いする予定だった殿下としては、いきなり知らない令嬢と二人きりになって気に入らないようです。今は父さまに国王陛下から私と殿下が婚約するというむねを伝えられているのですが、私達にはそのことを伝えられていないので待っていろという父さまの言葉に従う以外何も出来ないのです。

今後の計画のことを考えても、出来れば仲良くしたいのですが。こんな印象最悪な出会いでも幼い今は仲よくならないといけないのです。たとえ、大きくなった時殿下がその事実を覚えていて下さらなかったとしても、わたしの使命のために。


ここまで話して、おかしいと思った方もいるでしょう。なぜ父さまも知らされていない、婚約のことを娘の私が事前に知っているのか。なぜ殿下に忘れられると確信しているのか。


それは二年前、三歳の時のこと。とある出来事により私は今の、子供らしからぬ思考状態になった。その時の衝撃といったらもの凄いものだった。落雷によって光ったステンドグラスを見たとき頭の中に二つの映像が流れてきた。一つは私自身が自業自得で断罪され、修道院に入る映像。もう一つはこの世界ではないどこかで先ほど見た映像をゲームとしてプレイしている、一般女性の記憶らしき映像。

一つ目の衝撃は今の、ミュリエルとしての私の未来のなさについてだった。

その女性の記憶では私は悪役令嬢で、聖女であるヒロインを婚約者である第一王子を奪われたという嫉妬の念や、ヒロインが自分よりも格下の男爵家の娘だったことによる変なプライドからヒロインに対していじめや嫌がらせをしていた。私が出てきたゲームは俗に言う乙女ゲームというモノで、複数人の攻略対象から一人を選んで恋愛をするという物だったが、私はどのルートでも、いうなればバットエンドやトゥルーエンドでも断罪され修道院行きになっていた。そのゲームの攻略用掲示板で言われていたので確定なのだろう。 ここで重要になるのは断罪されること自体ではなく、断罪理由の自分の信仰心の否定である。

幼いながらも女神様の従順な信徒である私は、自分が女神様の使者である聖女を害す未来しかないなど、信じられなかった。我がロビンソン公爵家は貴族からは公爵家としての責任義務が、領民からは不信感が常に纏わりついている。それは一人娘である私にも圧し掛かっており、私の周りには乳母たち以外信じられる人がいない。

そんな私が唯一心から信じられた、信じることを許された、女神様を裏切るような未来しか許されないのか。そんな絶望感が衝撃として伝わった。

そうなった原因である女性の記憶にはゲーム以外にもこの世界にはない色々な知識が溢れていた。政治や経済についてや、新しい発想の商品、教育について、この世界では解明されていない問題についても。その大量の知識が一気に私の、三歳児の中に流れたのだ。混乱による衝撃が二つ目だ。


そんな中無情にも私の瞳と髪の色が変わっていく。隣にいる乳母の驚愕の声に振り向くとき、自身と共に動く銀色の髪の毛が目に映った。 聖女や神官など女神様に近い人物は体の色素が白に近い色になると言われている。

理解した、理解してしまった。私の髪色が変化したのだ、先程見えた銀髪は、元は鉄紺色の私の髪の毛。それはすなわち、私が聖女であることを意味する。どうしよう、どうすればいい?混乱した中でも口が動いた。


「せいじょに、なりたく、ない…!」


理解が追い付いていない中の言葉だ、恐らく本心だった。普段から女神様を崇拝し、令嬢らしくあまり感情を出さない私の言葉に乳母は驚いただろうに何も言わなかった。私を抱き上げ腕の中に隠すように包み屋敷へ戻っていった。願いが女神様に届いたのだろう、その間に髪の色はもとに近い色に戻っていた。


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