放課後のアポトーシス ①
テレビを食い入るように見つめ、制服のままソファーに寝そべりバリボリとお菓子を貪る美桜。
自堕落っ! クラスメイトの誰もが想像し得ない姿が今此処にある。
しかも、何故だか僕の部屋で……。
「ねぇ瞬、お願い。コーヒー淹れてくれない?」
「はいはい。ってか、自分の家みたいにくつろぎ過ぎだろ? で、さっきから何を真剣に見てんだよ」
なんだかよくわからない時代劇を日課のように帰っては観ていたが、それが終わるとチャンネルを一通り順に変え、ワイドショーに釘付けになっていた。
「ん? ニュース。何か、おかしな事件が起きたんだって」
「おかしな事件って?」
「昨日どっかの高校生が謎の死を遂げたみたいよ? こうなったら、私が名探偵になって解決しようかしら」
カウンターキッチンの奥からテレビの画面に視線を送る。そこにはブルーシートで隠された遺体と現場の河川敷が映し出されていた。
僕は眉をひそめて溜め息混じりに言葉を吐く。
「はあ……美桜が探偵だって? 迷う迷探偵の方じゃないのか? それに謎の死って、環境に適応出来ずに壊死したって事じゃなくって?」
「誰が迷探偵よっ! うん、何だか司会のおじさんが言うには殺人事件的な……。なんでも死体がかなり欠損していて、まるで食べられたみたいに……」
「食べられた? そいつは物騒な話だな……」
正しくは殺人なのか殺精子なのかわからないが死体を食べるなんて、どんなヤツの仕業なんだ? それに、そんなヤツ相手に僕たちが関わってどうにかなる問題でもないだろう。ここは警察に任せておくのが一番だ。
なんて言ってるうちにコーヒーが淹りましたよ……っと。
「やめとけって、危ない事には首を突っ込まないのが一番だよ」
「えー、逆に危ないじゃない……。きっと犯人は私たちの知らないうちに平然と紛れ込んでるのよ?」
寝そべったまま淹れたてのコーヒーカップを受け取ると、つまらなそうに返事をして気怠そうにリモコンを手にした。
「続いてのニュースです。昨夜、抜杉町に住む男性精子が自殺を図り、豆腐の角に頭をぶつけて意識不明になっているのを近くの住民が発見して、通報しま――プツッ」
右手でテレビの電源を切り、コーヒーを溢さず器用に身体をクルリと回転させ起き上がると、もう片方の手を口元に寄せひと口啜る。
「やっぱり、瞬の淹れたコーヒーが美味しいわ。ありがとう」
「どういたしまして」
軽く微笑むと、僕も熱いコーヒーを口に運んだ。
「チャッチャカチャカチャカ、チャッチャッ……」
突然鳴り出した、この訳のわからない着信音は美桜のもの。まるで自分の部屋のように、僕の机に置いてあるスマホが振動と共に光っている。
「ごめん瞬、取って」
手を伸ばす美桜に手渡す際、何気なくスマホの画面を確認すると雫からの着信だった。
「もしもし、雫どうしたの?」
「美桜すぐに学園まで来て! 大変な事になってるの……」
美術部の見学をしたいからと残っていた雫を置いて、僕と美桜は先に帰ってたのだが。雫の声のトーンからすると、どうやら学園で何か唯ならぬ事が起きてるようだ。
「わかったわ、すぐ行く。待ってて」
急いで靴を履くと、僕たちは学園へと向かった――。
◇
校門を抜けると既に人集りのある校庭、おそらく雫も其処にいるのだろう。
「美桜、瞬、こっちこっちーっ」
僕たちが気付くようピョンピョンと跳ね、手を振る雫を発見する。
放課後という事もあり、ある程度は既に帰宅してるものの、騒ぎを聞きつけ集まった生徒たちの視線は屋上へと向けられていた。
「何だい、あれは?」
見上げるとそこには、ひとりの男子生徒が立っていた。
屋上に設けられた柵を既に乗り越え、スレスレの所で脚をガクガク震わせながらも、今にも飛び降りそうな勢いだ。それを制止しようと生徒指導でもあるチョップが、校庭から屋上に向かい大声を出して説得に当たっていた。
「落ち着けっ! 早まるんじゃない。今からそっちに行って、お前の話を聞いてやる。とりあえず……とりあえず落ち着くんだーっ!」
「来るなーっ! 今から飛び降りてやる。僕の死に様を目に焼きつけとけ! ……この学園で……一番……なのは……トシヒロ……だ」
見たことない生徒だな。此処から見えるネクタイの色から三年生だと思われる。かなり冷静さを失ってるようだが、一体何があったと言うのだろう。
すると僕の横にスッと誰かが立つ気配を感じた。
「瞬くん、来てたのね? ……またこの女と一緒」
「あ、クリスちゃん……って、なんか言った?」
横に並んで立ったのは僕たちと同じく、この騒ぎを聞きつけたクリスだった。
ボソボソっと何か呟いたが、僕には何と言ったのか聞き取れない。
「いいえ、皆さんお揃いで仲がおよろしい事で……」
微かに眉をしかめる美桜と一瞬だけ目を合わせると、表情を隠すようにクリスはさやさやと風にそよぐ金色の前髪を手で押さえつける。
「学園内で生徒が飛び降りだなんて、そのような事はあってはならないわ。生徒会は勿論、自ら命を絶つ事など神がお許しにならないもの」
そう言って慈愛に満ちた円らな瞳で屋上を見上げると静かに目を閉じる。
白魚のようなか細い指を組み合わせ、天を仰いで祈りを捧げる姿は、今にも雲の切れ間から幾筋の神々しい光が降り注ぎそうなほど美しい。
心愛だよ。
みんな読んでくれてありがとう。
ほのぼのした退屈な話だと思ったら大間違いなんだからね?
これから、心愛やおにいちゃんの活躍を楽しみにしててね!
あぁ……心愛も早く人間になりたいな……。
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じゃあまた明日ねっ!




