133/163
氷の支配と崩れる均衡
美蘭は火の国へと戻った。
勝利の最終調整のために。
大統領執務室は冷たく静まり返っていた。
月光が大理石の床に淡く落ちる。
アドリアンは立っていた。
鉄道網の地図を握りしめながら。
扉が音もなく開く。
アストリッドが入る。
黒いスーツ。
疲労と苛立ち。
そして、別戦線での勝利の匂い。
「話す気になったのか?」
振り返らず、彼は言った。
「鉄道の話じゃない」
彼女は近づく。
「次の資金についてよ」
アドリアンが振り返る。
氷のような瞳。
もう、かつての彼ではない。
「審査中だ。君の成果は――期待外れだ」
その一言で空気が変わる。
アストリッドの鼓動が乱れる。
怒りではない。
別の何か。
「私は完璧よ」
彼女は手を伸ばす。
いつものやり方。
だが――
止められる。
手首を掴まれる。
逃げられない。
「もう通用しない」
低く、近く。
「ルールは変わった」
力関係が逆転する。
完全に。
彼の支配。
彼女の揺らぎ。
部屋の空気が張り詰める。
静かな戦い。
言葉よりも深い支配。
窓の外。
ヴァルモントの光が霧の中で揺れている。
都市はまだ眠っている。
だが――
本当の戦争は、すでに始まっていた。




