黄金の夜明け
夜明け。
柔らかな光が大きな窓から静かに差し込み、スイートルームを金色に染めていく。アドリアンはまだ夢の霧に包まれたまま、ゆっくりと目を開けた。温もりを感じる。本来あるはずのない温もり——ソファは狭く、夜は長かったのだから。
そして、気づく。
メイランが、すぐ隣で眠っている。
近い距離にある穏やかな寝顔。静かで柔らかな呼吸。そして彼のシャツを掴む手は、まるで必死にしがみつくようだった。それは欲望ではない。失いたくないものを恐れる、本能だった。
眠りと覚醒の狭間で、彼女はかすかに呟く。
「……もう、あんなふうに死なないで……」
アドリアンは理解する。問いかける必要はない。あの夢を、また見たのだ。
眠っていてもなお、彼女の身体は緊張している。まるで彼を繋ぎ止めようとするかのように、消えてしまうのを拒むように。
だから彼は、ただ一つの行動を選ぶ。
彼女の腰に手を回すことも、過剰に触れることもない。ただ静かに腕を回し、確かな力で抱き寄せる。
ここにいる、と示すために。
やがて彼女はゆっくりと目を覚ます。瞬きを繰り返し、自分の状況を理解する——ソファの上、彼のすぐ隣。言い訳のできないほど近い距離。
それでも彼女は離れなかった。
代わりに、そっと彼の胸に手を当てる。
鼓動を確かめるために。
それだけで十分だった。そこにあるのは欲望ではない。ただ安堵だけ。
彼が、生きているという確信。
その瞬間、空気が変わる。
視線が重なる。
呼吸が深くなる。
二人の距離は、もはや一息分もない。
その小さな空間の中で、恐れは別のものへと変わっていく。
可能性へ。
そして、確信へ。
その朝、二人は部屋から出なかった。
扉は閉ざされたまま。朝食を告げに来た足音も、内側から漏れたわずかな音に気づいた瞬間、静かに止まり、去っていった。
誰も、踏み込もうとはしなかった。
室内では、時間はもはや意味を持たなかった。
メイランは彼を離さない。息が苦しくなるほどでも、力が尽きかけても、その手は彼の背にしがみつき続ける。ほんの一瞬でも気を抜けば、彼がまた消えてしまうのではないかと恐れるように。
それは支配ではない。
もっと古い——深い恐怖。
別の世界、紫の空の下で、彼女は彼が胸の中で消えていくのを感じた。燃え上がる世界の中、彼の亡骸を抱きしめていた。
その後、彼女は戦った。栄光のためでも、正義のためでもない。ただ怒りのために。
そして数年後、他人の血に染まりながら死んだ。あの瞬間を、最後まで乗り越えることなく。
最期の息で、彼女は願った。
先に倒れるのが、自分であればよかったと。
もしかすると天——あるいは見えない糸を操る何かが、彼女にもう一度の機会を与えたのかもしれない。
だからこそ、この朝、黄金に沈む薄明の中で、彼女はそれを手放すつもりはなかった。
彼が動くたび、彼女は再び彼を探す。
呼吸が変わるたび、そこにいることを確かめる。
部屋を満たしていたのは、単なる欲望ではない。
確信。
再確認。
この人生に刻み込むための衝動——彼の存在の重み、肌の温もり、掌の下で打つ鼓動を。
外では、邸宅が完璧な日常を続けていた。
内では、メイランが静かな戦いを繰り広げていた。
そして今度は——
彼女が亡骸を抱く側ではない。
彼が、彼女を抱いているのだ。




