太鼓の響き、南方への行軍
夜が深まるにつれ、工房は静かに空になっていった。
浮遊灯が一つずつ消えていく。
重たい静寂。
その時、ナラは職人のものではない足音を聞いた。
重い。
正確。
アドリアンの護衛の一人だった。
彼は革と布に包まれた物を抱えていた。
まるで噛みつくかのように慎重に。
「閣下」
彼は頭を下げた。
「ほぼ完成しました」
アドリアンは書類から目を上げた。
「閉めろ」
扉が閉まる。
ナラは眉をひそめた。
「何が完成したの?」
「気にすることじゃない」
それは当然、彼女を近づかせた。
護衛は包みを開いた。
それは大きくも豪華でもなかった。
だが、正確だった。
磨かれた木。
黒い金属。
精密な機構。
武器というより道具のようだった。
「普通のクロスボウじゃないわね」
「ええ」
護衛は言った。
「普通の使い方もしません」
アドリアンは装置を確認した。
「再装填は?」
「弓より速いです」
護衛は答えた。
「力も腕も必要ありません」
小さな金属弾が並んでいた。
「標準弾です」
護衛は言う。
「量産可能」
アドリアンは一度だけ頷いた。
「問題は?」
「設計を盗まれた場合です」
アドリアンはナラを見た。
「盗めない」
静かに言った。
「秩序と論理が足りない」
ナラは腕を組んだ。
「いつから秘密で武器を作ってるの?」
アドリアンは答えた。
「俺は平和が好きだ」
彼は静かに言う。
「だから戦争に備える」
護衛が聞いた。
「名前は?」
アドリアンは言った。
「ヴァルモント・ピースメーカー」
ナラは笑った。
「皮肉ね」
「違う」
アドリアンは言った。
「平和にするための武器だ」
その頃。
エルドリア北部。
太鼓が鳴り始めていた。
一つ。
二つ。
三つ。
そして数百。
部族たちは準備を終えていた。
戦化粧。
武器。
焚火。
征服軍ではない。
生存者の軍だ。
カエルは神殿から谷を見下ろしていた。
かつて村が散らばっていた場所に
今は軍勢が広がっている。
「我々は何世代も隠れてきた」
シャーマンが言った。
「なら歩く」
カエルは答えた。
谷へ降りた瞬間
太鼓は止んだ。
彼は槍を地面に突き刺した。
雷のような音。
部族長たちは誓いの品を置いた。
牙。
仮面。
黒曜石。
若い戦士が赤い縄を差し出す。
「子供たちの未来のため」
カエルはそれを槍に結びつけた。
太鼓が再び鳴る。
行軍が始まった。
斥候。
戦士。
職人。
子供。
それは軍ではなかった。
民族の誕生だった。
正午前、彼らは狭い谷へ到達した。
洞窟から石肌の怪物が現れる。
カエルは一人で前に出た。
槍を突き立てる。
「征服ではない」
彼は言った。
「死を止めるためだ」
怪物の長が地面を叩いた。
道が開いた。
運命だった。
夕暮れ。
軍は南へ進む。
火の蛇のような松明。
村人たちはそれを見た。
逃げる者。
戻る者。
カエルは振り返らない。
彼は知っていた。
栄光には血が伴う。
だがそれでも。
南へ進む一歩ごとに
エルドリアは新しい時代へ近づく。
人々が孤独に生きなくなる時代。
恐怖に共通の敵が生まれる時代。
そして太鼓は鳴り続けた。
歌となり。
伝説となり。
預言となる。
それは
人々が共に歩き始めた日。
そして
救世主が南方征服を始めた日だった。




