晴れた日の仕事帰り
ギルドの前を出ると、空は抜けるような鮮やかな青だった。
風は乾いていて、昨日までの雨が嘘みたいに遠い。
「いい天気だな。……おい、昼飯どうする?」
ラークが肩から盾をずらしつつ、隣のゴルザンに声をかけた。
「食わねえのか?」
「食うに決まってんだろ」
ゴルザンはちらりと横目を向け、その後は何も言わずに歩みを進める。
「お~、相変わらずな口調。だけど無視じゃないだけマシになったな。成長成長。」
「……」
「いや~、この半年お守りしてきた甲斐があったわ~」
ラークがおちゃらけた様子で肩を回す。
「……やめろ」
***
昼下がりの市場通りはにぎわっていた。
焼き鳥の香りや、スパイスのきいた煮込みの湯気。
ゴルザンの鼻がわずかに動いたのをラークは見逃さない。
「なあ、串焼きいこうぜ串焼き。あそこの、肉がデカいやつ」
「……ああ」
「おっ、肯定!? どうした、今日は雪でも降るのか?」
小さな屋台の前で、ラークは慣れた手つきで二人分の串を注文する。
ゴルザンは金を払おうとしたが、ラークが手で制した。
「ここは俺の奢り。お前、前の依頼でけっこう削れてただろ」
「平気だ」
「はいはい、ありがたく食えっての」
二人並んで屋台の縁に腰かける。肉汁のしたたる串焼きをかじりながら、しばらく無言が続いた。
ふと、ラークが口を開く。
「なあ、最近どうよ。俺とのバディ、慣れてきたか?」
「……別に、不便はない」
「それ、最高の褒め言葉と受け取っていいんだな?」
ゴルザンは無言で肉をかじる。
「まあ、俺は気に入ってるぜ。お前の剣、わかりやすくて好きだよ」
「……お前の盾も、信頼できる」
その一言に、ラークは串を止めた。
「……今、初めて聞いた気がする。その言い方」
「言う必要がなかっただけだ」
「うん、そういうとこも好きだわ。マジで」
串を食べ終え、二人はまた歩き出す。
帰り道の途中、ふとゴルザンが立ち止まり、果物屋の店先を見つめた。
「それ、好きなのか?」
「……子どもの頃、よく食ってた」
ラークは笑って、店主に銀貨を渡すと、果物を二つ手に取った。
「んじゃ、たまには“昔の味”ってやつを思い出すのも悪くねぇな」
受け取ったゴルザンは、小さくうなずいた。
何でもない、晴れた日の帰り道。
けれどその日常こそが、何よりも特別な時間だった。