背中は預けた
あれから数週間、何件かの依頼を共にこなした。
いまだ衝突は絶えない。ゴルザンは口数も少なく、作戦会議はほぼ一方通行。
ラークの提案には「好きにしろ」の一言か、無言で返されるのが常だった。
それでも、戦場では妙なかみ合い方をする瞬間があった。
ゴルザンが斬り込むタイミングに、自然とラークの盾が追いつく。
ゴルザンはそれを「気のせいだ」と切り捨てたが、ラークは内心、ニヤついていた。
今回は、二人にとって“初めての分岐点”だった。
***
今日の依頼内容は、小さな集落周辺に出没する魔物の群れの駆除。
獣型の低級モンスターだが、数が多く、夜間にも動くため住民は眠れない日々が続いていた。
「今回は数が多い。俺が前でまとめて受けるから、背後は任せるぞ」
ラークが地図を指でなぞりながら言った。
「……わかった」
短く返すゴルザン。
「お? 今日は“邪魔するな”は無しか」
「言っても意味ねえし」
「それ、誉め言葉として受け取っていいんだな?」
ゴルザンは答えず、背中を向けて歩き出した。
森の奥、静寂の中に気配が蠢く。
ラークが踏み出し、盾を構える。
「来るぞ!」
茂みをかき分けて現れたのは、三匹の魔物。猿のように身軽で、目だけがやけに光っていた。
ラークが一体の攻撃を受け止めると同時に、後方から飛びかかってきたもう一体に向かって、ゴルザンの大剣が閃いた。
「ナイスカット!」
「しゃべってる暇があるなら、前見ろ」
「うるせぇ、ちゃんと見てる!」
応酬しながらも、動きは噛み合っていた。
ゴルザンの大剣が、二体目の魔物の足を断ち切る。転げたところへ、ラークがとどめを刺すように盾で押し潰した。
「ひとまず、二体。あと一匹、どこだ……」
ゴルザンが低くつぶやいた瞬間、木の上から気配が落ちてきた。三体目の魔物が、音もなく背後に降りてくる。
ラークが振り返るよりも早く、ゴルザンが背後に跳び、魔物の爪を大剣で弾いた。火花が散り、斬撃が枝を巻き込んで宙を裂く。
「おい、さっき“前見ろ”って言ってたやつが後ろ来てんじゃねえか」
「俺の前は広いんだよ」
言葉を返しながら、ゴルザンがもう一太刀を叩き込む。魔物が悲鳴を上げて倒れた。
息を整えながら、ラークがにやりと笑う。
「これで三体。やるじゃねぇか、バディさんよぉ」
「……手間かけさせんな」
「お互い様だっての」
三体目が倒れた直後、茂みの奥から新たな気配が現れる。
「まだいんのかよ……」
ゴルザンが無言で剣を構え直す。
互いに背を預けたまま、左右から迫る敵を順に処理していく。
無言のまま、呼吸とタイミングだけで攻防を繰り返す。
最後の一体をゴルザンが斬り伏せた時、ラークが軽く息をついた。
「お前、ちゃんと背中預けてたな」
「……今回は、そうするって決めた」
「へえ。言うようになったじゃねえか」
返事はなかったが、ゴルザンの剣を収める仕草に、どこか柔らかさがあった。
確かな変化が、そこにはあった。




