表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/15

報酬と口論

 森を抜けて街道に戻る頃には、日はだいぶ傾いていた。

 湿った風が通り抜けるたび、血と泥の臭いがぶり返す。


 道の途中、ラークがふと立ち止まる。


「なあ」


 ゴルザンは振り返らない。


「今日の戦い、どう思った?」


「別に。終わった」


 淡々とした返答に、ラークの顔がぴくりと歪む。


「そうか。じゃあ、俺の腕に残ったこの爪跡は、何の意味もねぇってことか?」


 ゴルザンが足を止めた。ようやく振り返る。


「……あんたが勝手に前に出ただけだ」


「そうかい。お前が横からぶちかましてこなきゃ、俺は前に出る必要もなかったんだがな」


「俺のやり方で倒せると思った」


「わかってる。それが一番ムカつく。実力があるだけに、余計にな」


 しばらく無言が続いた。


 ラークは深いため息をついて、少しだけ声を落とす。


「お前の背中が見えないと、こっちは怖ぇんだよ。盾ってのはな、前を塞ぐもんだけど……背中も、守りたいって思う相手がいないと意味ねえんだ」


 ゴルザンの眉がわずかに動いた。


「……気をつける」


「よし、進歩だ」


 軽く笑ったラークに、ゴルザンは目を逸らして先を歩き出す。


 街に戻ると、ギルドの受付はちょうど夕方のラッシュに入っていた。

 冒険者たちの怒号と笑い声が飛び交う中、二人は報告を終え、報酬を受け取った。


「配分、五分五分でいいか?」


「……ああ」


 ゴルザンは短く答えて、袋をそのまま腰に下げ、無言で受付を後にした。


 それを見送った受付の女性が、ラークに小声で話しかける。


「ちょっと……その腕、大丈夫?」


 ラークは少し驚いたように自分の腕を見る。乾きかけた血と擦れた皮膚。


「あー……まあ、かすり傷だよ。盾がなきゃ、もっとひどかったけどな」


「ならよかったわ。あの……ゴルザン君、どうだった?」


「んー……骨が折れそう、かな」


「やっぱり……。でも、素材としては一級品でしょ? 上からも育ててほしいって言われてるのよ」


「……だろうな。ま、育て甲斐はある」


 ラークは傷の残る腕をさすりつつ、肩をすくめて笑う。


「よかったー。ラーク君に見捨てられたらどうしようかと。ギルマスもね、早くB級にしてあげたいらしいのよ。でも……ほら、ねえ?」


「たしかに力だけならB級に片足突っ込んでる。そんでもって、言うこと聞かねえ度合いもB級クラス」


 受付嬢が軽く吹き出す。


「言い得て妙ね」


「まあ……俺が放り出してたら、今頃あいつ、誰かと大喧嘩してたかもな。俺でよかっただろ?」


「んー自画自賛?」


「いや、自己犠牲って言ってほしいね。名誉の負傷と引き換えに、将来の逸材ゲットですよ」


「大げさな……でも、ありがたいわ。あの子、根は素直だから」


「そうか? 今んとこ“根だけ”しか見えてねぇぞ」


ラークはひと呼吸置いて、空を見上げる。


「……ま、盾の仕事ってのは、ぶつかりながら磨くもんだしな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ