表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/15

盾を継ぐ者

 ギルドの倉庫の奥。

 冒険者たちの装備が眠る一角に、ひときわ目立つ木箱があった。


 中には、壊れかけた盾。

 血が染み、金具がゆるみ、皮革の端が焦げていた。


 誰も手をつけなかった。

 それは、誰にも“持つ資格がない”と、暗黙の了解があるようだった。


 


 ある日、ゴルザンがそこを訪れた。


 何も言わず、ただまっすぐ箱の前に立ち、壊れた盾を見下ろした。


 しばらくして、そっと手を伸ばす。

 埃を払うでもなく、慎重に――それでいて確かな手つきで、布をめくった。


 金具がわずかに鳴った。


 


「……やっぱ、重いな」


 


 思わず、そう呟いた。

 でも、以前のように投げ出すような声音ではなかった。


 


 後ろから、ギルド職員の足音が近づいてきた。

 書類を抱えた男が、遠慮がちに声をかける。


「ゴルザン君。話があるんだが……少しいいか?」


「……ああ」


 


 通されたのは、ギルドの奥にある相談室だった。

 机の上には、数枚の任地リスト。

 地方支部の応援要請、常駐職員の推薦依頼、そして――ひとつだけ、違う種類の紙がある。


「君に、ある支部から常駐任務の打診が来ている。現地での冒険者対応や、補佐業務も含む。

 実地経験がある者で、信頼できる人物を、と――指名でな」


「誰から?」


「ラーク=ジャッカロウ……彼の、推薦扱いだ」


 


 息が止まりそうになった。


 そんなこと、聞いていなかった。

 けれど、それが彼らしいとも思った。

 面と向かって言われていたら、たぶん断っていた。


 


 紙に書かれた任地名を、ゴルザンは黙って読んだ。

 見たことも聞いたこともない、地方の片田舎だった。


「すぐに決めなくてもいい。……ただ、君がこの先どうするかは、考えておいてくれ」


 


 頷き、部屋を出る。

 手には、あの壊れた盾がある。


 人目を避けるように、そっと背中にそれを背負った。


 


 ――似合っていないのはわかっている。


 柄も形も、自分には合わない。

 でも、それでも。


 


 誰かの背中に立つこと。

 誰かの前に立つこと。

 それが、あの人が命をかけて見せてくれた“盾の在り方”だった。


 


 ギルドの出入り口に差し込む夕日が、盾の金属を淡く照らす。

 ひときわ長い影が、床を静かに伸びていく。


 


 ゴルザンは、振り返らなかった。


 もう、見送ってくれる背中はない。


 それでも――


 


「……行くか」


 


 その一歩は、誰の指示でもなかった。

 ただ、自分の意思で踏み出したものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ