背中に語る言葉
砂煙は、まだ残っていた。
崖崩れで前方と完全に分断された隊列。
向こう側からは、騎士団の声も聞こえない。
ここに残されたのは、ゴルザン、ラーク、エルナ、ブロック、そして令嬢のリシェ。
馬車は崩れた道に押され、傾いている。
「チッ、どこまで来やがる……!」
ゴルザンが息を荒くしながら、剣を構え直す。
傷だらけのバイターが呻きながら地を這い、周囲の木陰には、まだ数体の気配がある。
盾役のラークが先に突っ込んだことで、敵の攻撃は一時的に散った。
だが――。
「くそっ、全部来やがったな!」
ブロックが叫び、後方を守る。
その背後、馬車に寄り添うようにリシェが身を小さくしている。
エルナは肩で息をしながら、矢をもう一本つがえた。
――その時だった。
横から、一体のバイターが飛び出し、リシェへと一直線に突っ込む。
「やめろッ!」
ゴルザンが咄嗟に叫んだ。が、届かない――
次の瞬間、ラークが駆けていた。
盾を構え、一直線に突っ込む。
リシェの前に割って入り、バイターの爪を受け止め――、そのまま、背中に回り込んだもう一体の牙が、彼を斬り裂いた。
「……っ、かは……っ」
ラークの体が、傾いだ。
盾は裂け、血が地面を濡らしていく。
地面に崩れたラークに、すぐさまエルナが駆け寄っていく。
魔法の詠唱が始まり、小さな癒しの光が背中に灯るのが見えた。
ゴルザンが走る。斬る。怒鳴りながら、バイターを蹴散らしていく。
「ラーク!!」
地面に膝をつきながら、ラークが笑った。
「よお……間に合ったな、相棒……」
「しゃべるな! 今、止血を――!」
だが、もう間に合わないことは、ゴルザンにもわかっていた。
「……だめ。深すぎる。肺までいってる」
エルナの声は低く、冷静だった。
回復魔法は血を一瞬だけ止めただけで、致命傷そのものを癒すには至らない。
「……くっそ……」
ゴルザンが歯を食いしばりながら、襲い掛かってくる残党を次々に薙ぎ払う。
ラークは、仰向けのまま、かすかに目を開けた。
その手が、空を探るようにわずかに動く。
「ま、俺のほうが……ワンテンポ早かったけどな……」
呼吸は浅く、声も掠れていたが、どこか楽しげだった。
唇の端に、うっすら笑みが浮かんでいる。
「もうしゃべるな……」
ゴルザンが膝をつき、肩を支える。
「……背中……預けたままでも、よかったな……」
「……!」
「お前は……変わったな、ゴルザン……」
「もう……十分だよ、バディ……」
それを最後に、ラークの瞳から光が消えた。
力が、音もなく抜けていった。
ゴルザンは、何も言わなかった。
血に濡れた手を握りしめたまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
やがて、小さく、誰にも届かないほどの声で、呟く。
「……預かった」
その声は風に溶けて、消えていった。




