四十三話 レッカの一族
俺たちは馬車から降り、巨大な門の前に立つ。
「ここがエリアレッドですか」
「そうだ。まずは俺が挨拶に出る」
ヒジリさんが門に近づく。すると、中から一人の男が現れた。あれは確か……
「今は親族揃って立て込んでいる。部外者はお立ち去り願いたい」
「ジン? 久しぶりだな」
「お前はカウンターをカウンターした奇妙な魔導士……」
ダミニの時もそうだったが、俺はそう覚えられているのか。ジンは前と変わらず、薄目で無愛想だ。
「俺も家族と言ってもいいはずだが。いや、絶縁されたと言うならそれまでだが」
「ジン。通せ。彼はエンブの夫、ヒジリ兄さんだ。それと、娘のアカリさんだね」
奥からもう一人、糸目の男が出てきた。ジン同様槍を背負っている。
「ショウ。しばらく顔を出せずにすまない」
「気にしないでください。それよりうちの父に話があるんでしょう。いつもの場所にみんな揃ってます」
ショウさんは和やかに言った。
「助かる。通らせてもらう」
ヒジリさんも続く。俺たちはその後をついて歩く。
「何故お前がいる? 無色」
ジンが横目で話しかけてくる。
「俺もブラッドを倒しに来たんだ」
「ブラッドは我らがレッカ家の宿敵。血に塗れた不死の亡霊は俺たちの怒りの炎で灰燼と化してくれる。お前には関係のない話だ」
「……」
何やら壮大な言葉が並べられているな。確かに、ブラッドの強さを見れば「血に塗れた不死の亡霊」という言葉が大げさではないことは分かるんだが……何か引っかかるというか。
「何だその目は。一度俺の不死鳥の炎を味わわせないと分からないか?」
何だろう。そういう年ごろなのだろうか。
「ジン。無用なことをするな。今はみんなピリピリしているんだ」
ショウさんがたしなめる。
「父上。ヒジリさんやアカリ女史は分かりますが、この男は……」
「今は家の事を気にしている場合かしら……」
アカリがポツリと言う。
「アカリさんの言う通りだ。ブラッドを倒すためなら我々は手段を選ばないよ」
ショウさんがそう言うのと共に、俺たちは他の家族たちがそろっている大部屋にたどり着いた。
「ヒジリの倅も来たか。これで本当に揃ったな。長女のことは残念じゃった」
家族の中で最年長に見えるお爺さんが話す。長女というのはエンブさんのことだろうか。
「はい……それに、また親類がブラッドにやられたと聞きました」
「そうじゃ。もう儂もこれで終わりにしようと思っておる」
ヒジリさんの言葉にお爺さんも頷く。
「ということは今日、本当にやるのですね……?」
赤黒い髪を長く伸ばした高身長の女性が続く。
「そうじゃ。儂らの世代で奴との因縁を終わらせる」
「戦いたくないな……」
対照的に背の低い女性が縮こまる。
「クオン。これが過ぎればしばらく戦わなくてよいのだぞ?」
長髪の女性がクオンの肩を掴み、正面から諭すように言う。
「姉様。私はもう、生きた心地が……」
「諦めるのが早いぞ! 修練の日々を思い出すんだ!」
姉と呼ばれた長髪の彼女は、クオンの肩を激しく揺さぶる。クオンはあうあうと声をハウリングさせていた。
「ブラッドを倒すために、みんなを集めたんですね」
それをよそ目に、ヒジリさんがお爺さんに話しかけた。
「そうじゃ。主もよく来てくれた」
「ブラッド本人に直々に呼ばれたものですので」
「うむ。共に一族の無念を晴らそうぞ」
お爺さんは背負っていた槍を手に取る。
「そのつもりです。父上。いえ、マスター・ガイさん」
ヒジリさんもガイと呼ばれたお爺さんを真っすぐに見る。彼が赤のマスターか。
◇
「ジン、その右腕の包帯は何なんだ?」
俺は何気なく聞いてみる。ジンにはあまりよくみられていない様だったけれど、これから学園の入学試験でも会うだろうし、少しは距離を縮めておいても損はないだろう。
「これは俺の中の怒りの炎を抑えるための枷だ。これがなければ俺は不死鳥に意識を乗っ取られてしまう。俺の中に棲む強大な魔物は俺自身でも抑えられないんだ」
ジンは右腕をさする。いかにも男子中学生が大喜びしそうな話だ。かく言う俺もそう言った黒歴史の一つや二つあるのだが。
「そうなのか。俺の白鷺とは大違いだな」
「呼んだピヨ?」
俺の肩に白鷺が現れる。
「呼んでないよ。戻ろうか」
俺は笑顔で促す。
「嫌ピヨ。因みに不死鳥は僕の友達ピヨ。物凄くかっこつけピヨ」
白鷺は構わず続ける。昔から自信家なところはあったが、話すとこうも面倒くさいとは。それとピヨが鼻につく。
「中二病ってことか」
「そうピヨ。それを言ったらめちゃくちゃ怒られるピヨ。もう怖くて魔界に帰れないピヨ」
「ならどうして言っちゃったんだ!」
とんだドジだなこやつは。一周回って可愛いかもしれないな。いや、無いか。
「いらないことを喋っちゃう癖だピヨ。トオル、助けて欲しいピヨ」
「うーん無理かな。とっとと戻るピヨ」
しまった。ピヨピヨうるさいせいで間違えた。
「トオルは畜生ピヨ」
畜生はお前だろ、と言おうと思ったがそのときには白鷺は消えていた。魔界で焼き鳥になっていないといいが。
「魔獣と仲がいいのか。羨ましい限りだ」
ジンは珍しく柔らかい口調だ。
「そんなにいいことでもないよ」
俺たちの距離を少し縮めてくれたことについては感謝しておこう。白鷺。お前の死は無駄にしない。
そういえば、アカリはどこに行ったのだろう。
◇
レッカ家の女性たちは集まって、お互い久しぶりの再開を喜んでいた。
「アカリかぁ。大きくなったなぁ!」
ガイの次女、リンがアカリの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「お久しぶりです。リンさん。エキスパートになられたのですね」
頭をなでられて少し赤面しているアカリが答える。
「そうなんだよぉ。頑張ったんだ。褒めて褒めて」
「私は駄目でしたけどね……」
リンの明るいオーラをクオンの暗いオーラが相殺する。
「いじけるなってクオン。お前だって学園を卒業できたんだ。それでも十分凄いだろう」
リンは今度はクオンの頭を撫でる。
「そうですよクオンさん。私からすれば、学園を卒業できただけでも尊敬できますよ。普通は入れないんですから!」
「ありがとうございます。でも私、そんなこと言われたら調子乗っちゃいますよ……」
クオンが俯きがちに言う。
「私は調子に乗ったクオンも好きだぞ!」
「あれはほとんど私じゃないですよぅ。というか、次の日の筋肉痛が……」
「それって、契約してる魔獣のことですか?」
「そう。レッカ家はみんな強力な魔獣と契約してるんだ。習わしみたいな感じでね。あたしは自由に引き出せるんだけど、クオンはまだ扱いきれなくて意識をのまれちゃうんだ」
リンが右腕を見せる。そこには炎を纏った馬のような生き物の姿が黒く残されていた。
「私が未熟なせいで……」
「クオン。あなたは強いのよ。もっと自信を持ちなさい!」
リンは遂にクオンを抱きしめる。
「はい。姉様……」
クオンも抵抗せずにいた。そんな時。
「報告いたします!!」
一人の男が慌ただしく部屋に入ってきた。
「何じゃ。申せ」
「東の門にブラッド出現との報あり! レンジャーたちの部隊が足止めを行っています!」
「もう来たのか。早いな」
ガイは驚きを隠せないでいる。
「それと、もう一つ! 都に黒い壁が……!」
「黒い壁? 何だいそれは?」
リンが聞く。
「外を見ていただければ分かるかと……」
「なんだこれは……」
ショウが外を見て絶句する。そこには、都の四方の壁の上に巨大な黒い壁が出来ているのが見えた。
「いつの間にこんな大規模な魔法陣が……」
「とにかく、すぐに向かいましょう!」
ヒジリが走る。
「いや、奴をここまでおびき寄せる。レンジャーたちにもそう伝えている」
ガイは冷静に外を眺める。
「そんな! この間にもレンジャーたちは犠牲になっているかもしれないのですよ!」
「そんなことを気にしていたら奴には勝てん!」
「そんな……」
「奴がここに来るまで待つんじゃ!」
他のレッカ家の男女も槍を構えて戦闘の準備を終えている。
「いや、もう来てます……」
トオルが呟く。その目の先には、レンジャーたちを薙ぎ払いながらこちらへ歩くブラッドの姿があった。
「遂に来たか。皆の者! これは戦じゃ! レッカの誇りにかけて、長年の因縁を終わらせるのじゃ! 敵など儂らが灰にしてやろうぞ!」
ガイが槍を掲げる。
「炎と共に!」
レッカ家の各々、そしてヒジリさんやアカリも槍や刀を掲げた。
「開戦じゃぁ!」




