三十八話 赤の始まり
赤の章です。
ホワイトに着いた俺たちはヒジリさんに迎えられ、一晩休んだ。
その翌日の朝。
「もう少しで私の母の命日なの」
アカリは重い口を開くように俺に告げた。
「そうだったのか。昨日はごめん」
「いいわ。トオルに言っていなかったのは私。巻き込みたくなかったのよ」
そう言った彼女の顔は少し清々しく見えた。俺にこのことを隠していたことに罪悪感を持っていたのだろうか。そうだとしたら、異世界から来たという事実を隠している俺の方こそ悪い気もする。
「悪かったな。トオル」
ヒジリさんもいつになく真面目に言った。
「いえ。事情を知れて安心しました」
さて。そろそろ俺の出自も話すべきだろうか。
「トオル、テツジのところに行くぞ。帝国から玉鋼が届いているんだ」
俺たちの会話の区切りを見て、リツが話しかける。
「私も行くわ」
フブキも立ち上がる。
「そうか。構わないが」
「どんな玉鋼なんだ?」
「それはテツジに聞けばいい」
そうして俺たちは三人でテツジの元に赴いた。
◇
テツジに要望を伝えると、彼は顔をしかめた。
「早くねぇか? しかも修理じゃなくて新品かよ」
「ごめん。俺もこんなに早く壊れるとは思ってなくて」
テツジの言い分に俺も小さくなる。
「まぁいい。お前はお得意様だからな。リツもゆっくりしてけ」
「心遣い感謝する」
テツジは座りなおすと、リツが渡した玉鋼を眺める。
「へぇ。こりゃ珍しい。二つの金属が同化してるのか。これを使えば二つの色の魔法を同時に使えるな」
「トオルはこれまで無理やり同時に色を使っていたからな。これで敵を倒すたび倒れる心配もなくなるだろう」
それは便利だ。これで病室の天井を見上げながら意識を取り戻すこともなくなるのか。
「リツは、白の魔法に相性のいいものだな。ヒジリさんも使っている上物だ」
「そんなものを?」
「こりゃあ打つ俺も気合が入るぜ」
テツジはニヤリと笑った。どうやら帝国はかなり太っ腹の様だ。
「楽しみにしている」
リツも心なしかテンションが高めだ。それを見ていたフブキも上機嫌だ。二人の距離も少しは縮まったのではないだろうか。
◇
黒の帝国の最前基地、デッドゴードンでは再びリーパーの情けない声が響く。
「リーパー。次は無いと言ったな?」
「はっはぃ……」
「ならこの様は何だ? ベルセルク。お前もだ」
リーパーの横にベルセルクも膝をついていた。
「申し訳ありません。私が不甲斐無いばかりに」
「まったく。どうしてお前たちは揃いも揃って使えぬのだ。無能共め! 失せろ!」
「ひぃ!」
ディザスは約束の通り、リーパーを破壊の魔法で消し去ろうと手を上げる。その時だった。
「待て。ディザス」
扉から黒髪の男が現れた。男は黒と赤を基調とした中華服を着こんでおり、槍を背負っていた。
「邪魔をするな! ブラッド!」
「うぬこそ勝手なことをするな。此奴にも使いようはある」
「何だと? 七戦帝の権力で直属部隊隊長の俺に盾つくのか!」
ディザスの怒りは収まることを知らない。七戦帝は実力は認められていながらも、黒の帝王への忠誠心には疑問の残る組織なのだった。
「少なくとも我の方が有効活用できる。此奴を我に預けて貰いたい」
「ありがたき幸せぇ……!」
リーパーはむせび泣く。
「勝手にしろ! そんな無能、いてもいなくても変わらんわ!」
ブラッドとリーパーは部屋を追い出された。
「私なんかをお助け下さり、ありがとうございますぅ……」
「そう畏まるな。まずはエリアホワイトに向かおう。陛下から無色の魔導士を連れてこいとのお達しがある」
「陛下も、無色の魔導士に興味がおありなのでしょうか」
「それは我にはどうでもよい。我が用があるのはサクラ髪の連れだ。もう少しで我の目的は完遂される。無色はそのついでのようなものだ」
ブラッドはほとんど無表情だった顔を少し歪ませた。




