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転生してもムショクでした ~無能と呼ばれた『無色』の魔導士は色に染まって無双する~  作者: 越水けい
黄の章

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三十七話 春の終わり


 バランを倒したトオルは気を失って倒れてしまっていた。アカリたちはすぐに彼に駆け寄る。


 そのとき。


「よくもジャックを酷い目に遭わせたな!」


 空間の狭間からベルセルクが出てきた。


「そういえばいたわね」

「――無色の魔導士は気絶してるのか。丁度いいな。このまま持って帰ろう」


 ガンナーが残した薬きょうを拾いながらトオルに近づくベルセルク。


「そうはさせねぇぜ? 軍人さんよ」


 ライガルがベルセルクを睨みつける。


「……仕方ない。今回のところはこれぐらいにしてやろう。いずれ決着をつけようじゃないか。では、さらば」


 ベルセルクは手負いとはいえマスター、エキスパート達を相手にするのを不利だと感じたのか、瞬間移動で去って行った。


「逃げたか」

「逃げたな」


 ライガルたちが目を合わせる。


「リツ! フブキの容態も安定したぞ」


 ティムールが言った。フブキの傷はほとんど塞がってるようだった。


「フブキ……無事でよかった」


 リツはフブキに駆け寄ると抱きかかえる。


「お前を失くしたら俺は……」

「氷が、溶けてる?」


 アカリの言う通り、フブキの傷口を覆っていた氷が解け始めていた。


「もしかして全部聞こえて……」

「何女々しいこと言ってんのよ」


 意識を取り戻したフブキが目を逸らしながら言った。


「勘違いするな! 他意はない!」

「他意が無い方が問題よ!」


 リツとフブキは戦いが終わって早々痴話喧嘩を始めたのだった。


「良かった。いつも通りみたいね」


 アカリはその様子を見て息をついた。





 戦いが終わってから数時間後、トオルやフブキは近くの病院に運ばれ、コロシアムにはライガルとラトゥールだけが残っていた。


「こんなところでボケっとしてどうしたよ。ライガル」

「ラトゥール、お前に言っても分からないと思うがな。師匠はどうして堕落の道に進んだのかと思ったんだ」


 ライガルはラトゥールの姿を認めると、バランが消滅した場所を見ながら呟く。


「てめ。俺が馬鹿だと決めつけやがって。俺だってバリっと……」

「あの人も、昔はこのエリアイエローを強くしようと一生懸命戦っていたはずだった。そうだろ」

「……その強さがあっても、敵わない奴がいた、とか?」


 ラトゥールは頭を搔きながら答える。


「黒の帝王……か。俺たちもいつまでも黙ったままじゃいられねえな」


 そう呟いたライガルは怒りに震えていた。


「そりゃあな。いつかは決着をつけないといけねぇよな。そういえば、約束って結局何だったんだ?」


 ラトゥールは気まずい話題を逸らすように言う。


「バランが堕落して帝国から去ったときに俺が言ったんだ。俺が必ずお前を倒すってな。結局守れなかったが」

「一人で倒すことがそんなに大事か?」

「そうだな。一人で倒さなくても良いんだよな。俺たちが力を合わせれば、黒の帝王も……」


 ライガルは拳を強く握りしめる。二人はサーナーたちに呼ばれ、病院に向かった。




 俺はまた病室の天井を見ながら目覚めた。戦いの度に気を失うのはいい加減卒業したいものだ。


「分かっているとは思うが、魔力過剰放出症だ。しばらく安静にしていろ」

「助かるよ。ティムール。それと、これは……?」


 俺はティムールの手渡した薬皿を見る。その中にはドロドロとした緑色の液体が入っている。


「俺が持ち歩いてる常備薬だ。体の調子も魔法の調子も整える万能薬だ」


 俺は恐る恐るそれを口に流し込む。口の中に期待通りの苦みと酸味のハーモニーが広がる。


「ぐふぅ!」


 余りの苦さに俺は咽込む。


「良薬口に苦しというやつだ」


 ティムールは笑う。


「トオル。ありがとな。あんたがいなかったら今頃どうなってたことか」


 今度はダミニが話しかけてきた。


「誰が欠けても勝てなかったよ。こっちこそありがとう」

「あのダミニのキックがなきゃ勝てなかったわよね」


 アカリが補足する。


「あれは、なんか夢中でやったから自分でもよく覚えてなくて……」

「ま、何にせよ勝てたんだ! よかったじゃねぇか! ライガルは対して働いてなかったけどな!」


 病室に入ってきたラトゥールが会話に乱入する。


「てめぇ。俺がいなかったら今頃どうなってたと……」

「同じこと言うなって! なんなら俺がマスター変わってやってもいいんだぜ?」

「上等だ。今からでも受けて立つぜ!」


 ここでもまたライガルとラトゥールのいがみ合いが始まってしまった。


「あんたら! 病人の前でしょうが!」


 次の瞬間、二人はダオーラによって吹っ飛ばされる。


「あはは! 騒がしくてなんか悪いな」


 ダミニが笑う。


「いや、たまにはこういうのもいいよ」



 俺にはこうして笑い合うのが凄く久しぶりのような感覚がした。





 数日後。

 

 俺の病気も治り、俺たちは帰路に着くため馬車に乗り込んでいた。この数日間、リツたちは武術の修業を積んでいたらしい。羨ましい。


「お前ら、もう行っちまうのか」


 五人衆たちが俺たちを見送る。


「うん。ヒジリさんを寂しがらせるし」

「今度会うときは勝ってやるから覚悟しとけよ!」


 サーナーが意気込む。


「楽しみにしてるよ」


 俺も笑みを返す。


「アカリも、ありがとな」

「ダミニ! また会いましょ」


 ダミニもアカリと抱擁を交わす。


「おう。次は学園の入学試験だな」

「残りはもう三か月ほどか」

「意外と時間無いわね……」


 リツとフブキも馬車の中から言う。


「それじゃあ。また!」


 俺たちがそう言うと、馬車がゆっくり動き出す。イエローのみんなは俺たちが見えなくなるまで手を振り続けてくれていた。


 そこから俺たちは馬車の中で一泊し、起きるころにはエリアホワイトの中に入っていた。


 馬車の外からは葉桜が見えていた。


「もう桜の季節も終わりか」

「……そうね」


 そう応えるアカリの顔は優れなかった。


「やっぱり、桜が散るのは嫌か?」

「トオル。アカリにこの時期にその話は……」


 フブキが止めに入る。何かあるのだろうか。でも、それは俺が立ち入る事ではないのかもしれない。俺も異世界から来たという事実を隠しているのだからお互い様だ。


「いいの。いつまでも引きずってられないから」


 その声は何かに怯えながらもそれを振り切ろうとしているようだった。


 そして俺はこの日から一週間も経たずに、このアカリの因縁を知ることになる。


 血の色で滲んだ因縁を。



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