十話 トオル対フブキ
「リツばっかりずるいわ。私もトオルと戦いたいのに」
不意にフブキが言う。
「昨日はそんなこと言っていなかっただろう」
「昨日は言ってなくても今日はそうなの。じゃあ、トオルに決めてもらいましょ。どっちと先に戦いたい?」
フブキが俺を見る。連日同じ人と戦うのは少し気が引けるな。
「……フブキかな」
「でしょう。ありがとね。というわけでリツ、私が先に戦うから。審判よろしくね」
「仕方ない。トオル、魔力を使い切るんじゃないぞ」
リツは不満気だ。
「その心配はいらないよ。どうせリツが俺に魔力をくれるんだから」
「そうか、お前は魔法を受けるとその魔力を体に貯め込めるんだったな」
「そういうこと。フブキやリツが本気を出せば出すほど俺は強くなるよ」
「それ、最高ね。楽しそうだわ」
フブキが不敵に笑う。
「それじゃあ、ここだと狭いし、いつもの広場へ行きましょ」
アカリが仕切った。そうして俺たちは広場へ向かった。
広場に着いた俺たちは、リツを審判として模擬戦を始めようとしていた。
「えー……これよりトオル対フブキの模擬戦を始める。用意、始め」
リツの声と共にフブキが俺に駆け寄る。
「いくわ。雪月花!」
詠唱と同時に、雪が舞い、鋭い斬撃が繰出される。
「こっちも! 雪月花!」
俺はフブキの攻撃に合わせて、同じ技でを相殺する。
「なら……晴嵐!」
フブキが詠唱すると、辺りに霧が広がり、目の前が真っ白になった。
「なんだ? 周りに霧が……」
「晴嵐は晴れた日の霞のこと……今のあなたには白い霞しか見えていないはずよ」
このままじゃフブキの位置を確認できない。神経を研ぎ澄まして、敵の気配を感じるしかない。
後ろから不気味な気配を感じた。いや、こっちのフブキは偽物だ。感じる魔力があまりにも小さすぎる。本物は……前か!
「雪嵐!」
「紙吹雪!」
俺はとっさに技を相殺して打ち消す。魔力はヒジリさんの刀から得たものが残っていた。
「やるわね。これはどうかしら? 雪景色!」
大量の雪が俺の周囲に降り始めた。このままでは雪が積もって身動きが取れなくなってしまう。
「今度は雪か……」
俺は雪雲から逃れようとするが、雪雲も俺を追いかけてくる。
「雪礫!」
フブキがそう詠唱すると、今度は大量の雪玉が俺に飛んできた。だが、その程度の攻撃ならば対策はできる。俺は自分の体を軽くして雪の上を駆けながら、雪玉を避けていく。
「今度は俺の番だ!」
「雪の上をそんな速さで……?」
俺は素早くフブキの後ろへ回り込む。フブキは気づいていないようだ。
「嘘?」
「光明!」
俺はヒジリさんの記憶の中にあった新しい技を使った。光を纏わせた刀を縦に大きく振り下ろす、一閃を縦にした技だ。フブキは対策できずに一撃を食らった。
「トオルの勝ちだ」
「やっぱり強いわね。霧で作った分身を見切られるとは思わなかったわ」
フブキが立ち上がりながら言った。確かにあれは俺が無色ゆえに魔力に敏感だったからこそ見切れたのかもしれないな。
「次は俺だ。始めるぞ」
リツが木刀を持って俺の前に出る。本当に我の強い人だな。
「少しは休ませてよ」
俺は座り込んだ。
――その時、遠くからどすんと低く鈍い音が響いた。
「何の音?」
アカリが辺りを見渡す。
「足音か?」
その瞬間、俺たちの目の前に、前回と同じような大きな熊の魔獣が現れた。
「魔獣だ……それもこんなにたくさん……どうして」
魔獣は熊以外にも、虎や、龍、鵺、九尾、大蛇など、俺たちに見えていなかったものも含めると十体は超えていた。妖怪大合戦でも始まりそうな勢いだ。
「これはまずいな。すぐに村の人たちを避難させよう」
「そうね。トオルも行きましょ」
「そうだな。とにかく避難が先決だ」
俺たちは村に向かって走り出す。途中、俺はふと後ろを向いた。
そこには、見覚えのある男が魔獣たちを連れて立っていた。
「あれは……コタロウ?」
不穏な予感が俺の頭をよぎった。




