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「いつかやるんじゃないかとは思ってたけど。
・・・まさか本当にやるほどばかだとは思ってなかった。」
「だから謝ってるじゃないですかー。 ごめんなさいってー。」
「しかもなんでチャイムが鳴る前に来れるんだよ?
授業がまだ終わってないってことだろ?」
「俺授業現代文だったんで、目が覚めたらお迎えにって思ってたら・・・って感じです。」
さっきの教室突入についてくどくどと言われながら、俺は先輩の後ろを付いていく。
「・・・現代文もちゃんと受けろというか授業中に寝るなってゆーか迎えに来なくていいから。」
「すいませーん、一個一個言ってくださいー。」
「現代文もちゃんと受けろ。」
「えー、だって現代文とかだるくないですか?」
「上条先生のだろ? うちの顧問なんだからしっかりやれよ。」
「先輩以外の人に興味無いですー。」
と言った途端、先輩の弦巻が飛んできた。
またなんの迷いもなく、俺の顔に命中する。
「痛っ! ・・・先輩よく物投げますねー。」
「お前のその言葉は聞き飽きた。」
「弓具投げちゃダメですよー。」
「授業中に寝るな。」
器用に教科書類を支えながら弦巻を返すと、次のお言葉が降ってきた。
自分に都合の悪いことはサラッと流す先輩。 もう慣れたけど。
「無理ですー。 というか寝てるほうがいろいろといいと思いますよ。」
「なんで?」
「だって夢の中は自分だけの世界なんですよ?
俺たぶん夢の中のほうが先輩とよく会ってる気がしますよ。」
また弦巻が飛んできた。
そしてまたなんの迷いもなく、俺の顔に命中する。
「痛っ! あの、先輩、俺一応両手塞がってるんですけど・・・」
「人を勝手に夢の中に出すな。」
「先輩が勝手に出てくるんですよー。」
「そして前にも言ったがいちいち迎えに来なくていい。」
また器用に教科書類を支えながら弦巻を返すと、次のお言葉が降ってきた。
それこそ何回も言われて聞き飽きた言葉。
「前にも言ったように、善処しまーす。」
「・・・お前、善処の意味知らないだろ。」
「え?もっといいことするんですよね?」
「・・・訊いた俺がばかだったよ。」
先輩が前を向いたまま、大きく溜め息をついた。
今気が付いたけど、合格発表の日に会ったときより先輩が小さく見える。
「春原先輩?」
「ん? なに?」
こっちを振り返って足を止めた先輩に一言。
「先輩、背、縮みました?」
2、3秒、静かな風が流れる。
先に動いたのは先輩だった。
さっきよりも大きな溜め息をついて。
肩にかけていた鞄を右手に提げて。
そして2、3回ぐるぐるっとまわして。
そして俺をキッと睨む。
状況的に「やべっ、地雷踏んだっ!」 と思ったけど、遅かった。
「んなわけないだろっ、ばかーっ!!」
なにやらごちゃごちゃ入っているであろう先輩の鞄が。
これまたなんも迷いもなく、俺の顔に命中した。
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