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「・・・258・・・261・・・262・・・264・・・268っ! よしっ!」
受験番号は268番。 人間やればできるんだなって真剣に思った。
受かったとわかったら、次にやること。
「おーぃ、雀人ー。 番号あったー? ・・・ん?」
笑顔で左手を振りながら近寄ってきた涼の右手をつかんだ。
この様子なら間違いなく受かってるんだろう。
俺は涼を引っ張って走り出した。
「うえええっ! ちょ、雀人っ! なにーっ!?」
「ちょっと付き合えっ!」
「はぁ!? ちょ、どこに!?」
「弓道場っ!!」
「あ、なるほど。」 と、涼が理解したところでスピードを上げる。
合格掲示板のあった昇降口からグラウンドの前を駆けていき、そして弓道場へ。
左手に受験票を握り締めて。
道場の玄関に、道着姿でもたれかかっている人が目に入った。
腕を組んでいたのを解いて、こっちに手を振ってくる。
誰だったっけか。
「よぉ、藤堂だっけか。 受かった?」
「はいっ! えっと・・・」
「お前が入る頃には3年生になる進藤だ。 よろしくな。
後、俺のことを進藤先輩とは呼ぶな。 進藤さんって呼んでくれ。 なんなら呼び捨てでも構わない。」
「え、あ、はい。 進藤さん。」
そうだ。 あの時声を掛けてくれた人だ。
あれからは春原先輩のことしか頭に無かったから、すっかり忘れていた。
「あのっ・・・ 春原先輩は?」
中にいるよと、進藤さんが小さく笑いながら玄関を指差した。
それを合図に、俺は格子戸に飛びついた。
だが格子戸は、いくら押しても開かない。
「え・・・ あれ?」
「・・・雀人。 こういうのは普通引き戸だって・・・」
「・・・あ!」
「サンキューっ」 と一声残して、格子戸を勢い良く開けた雀人は道場の中へ駆け込んだ。
後ろで二人の笑い声がしたような気がする。
道場内にいたのは、行射中の春原先輩だけだった。
なぜか少し背が低くなったような気がしたけど、それ以外は半年前とまったく同じだった。
行射が終わって、弓倒しをした先輩が俺に気付いて、こっちを向く。
俺は心臓がだんだんと脈打つのを感じながら、ゆっくりと春原先輩に近づいた。
「お、お久しぶりです! 藤堂ですっ!」
「・・・え、ああ、うん。」
「先輩っ!」
左手に握っていた受験票をずいっと突き出す。
「俺! ちゃんと合格しましたっ!」
「・・・いや、数字だけじゃわからな・・・」
「入学したらすぐに入部しますからっ!」
そして春原先輩の右手を引っつかんで。
「ちゃんと待っててくださいねっ!」
「・・・」
先輩が少し驚いた様子で、こっちを見てきた。
俺は心臓の高鳴りを抑えることが出来ず、思わず質問した。
「せ、先輩っ! お、俺のこと、覚えてましたか!?」
「・・・え、あー、うん。」
・・・先輩が驚いて黙ってしまった理由が、わかった気がする。
でも、この会話ができたことで、今までがんばってよかったと思った。
入学式後、涼はサッカー部へ、俺はもちろん弓道部に入部した。