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「あの日の昼頃にな、お袋に電話があったんだ。
親父の電話から」
『神崎達也様のご家族の方ですか!?
神崎様が急病で倒れてしまわれて…、危険な状態なので、すぐに来ていただきたいのですが…!』
「出たのは看護婦だった。
お袋は泣き崩れたらしい」
「………」
あたしは、何も言えなかった。
かける言葉が、見つからなかった。
「それで俺は早退して、親父のとこに行くことになった」
「その時から…もう向こうで住むって決めてたの…?」
「いや、最初は帰る予定だったんだ」
え…?
でもお母さんは…。
「お母さんが、『隼人くんとはバイバイなのよ』って言ってた…」
「……それはたぶん、お袋の様子を見た波瑠のお母さんが気をつかって言ったんだと思う。
まぁ、結局帰らなかったからよかったんだけどな」
あれは…お母さんの気遣いだったんだ…。
「俺たちが病院に着いたころには、親父は死んでた。
そしたらお袋が『ここに住む!』って言い出して、帰ってこれなくなったんだ」
なるほど、だから…。
…あれ?
疑問は解決したはずなのに、何か心に引っかかるものがあった。
……あ。




