57/84
7-4
「はやと…おにいちゃん…?」
静かに、波の音だけが、あたしの耳を掠めていく。
まさか……。
諦めかけたその時、
「…っぷは!」
隼人さんが海から出てきた。
見えているのは顔だけだけど、無事であることはわかる。
「おにいっ…ちゃ…」
すっかりへたり込んでしまったあたしは、ボロボロと涙を流す。
隼人さんはようやく足が着いたようで、少しずつ近づいてくる。
「はぁ…はぁ…っ。
…ゲホッ、ゴホッ……はぁ…はぁ…。
はる…、…ほら…」
隼人さんは息を切らしながら、麦わら帽子を差し出す。
「ぅ……うぅ…。
うわぁぁぁん」
あたしはその麦わら帽子を無視して、隼人さんに抱きついた。
麦わら帽子なんて、どうでもよかった。
本当に…本当に隼人さんが死んだんじゃないかって、すごく怖かった。
そんなあたしの気持ちを察したのだろう。
隼人さんは、あたしの頭を撫でながら、ただひたすらに「ごめん」と謝った。
でも…、と、隼人さんは続ける。
「オレは、はるのためなら何でもするよ」
そう言った隼人さんの顔は、夕日に重なって眩しかった。




