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「友達なんだから」
ト・モ・ダ・チと、ことさ強調されたのは気のせいだろうか。
「だよな」
乾いた笑い声をたて、自嘲気味に口元をつりあげた。朝比奈を正視できなくなり、斜め下の雑草がたんぽぽであることに気付く。
たんぽぽってわかりやすいよな。葉っぱがギザギザ特徴的で、太陽みたいな花も目立つし、綿毛ふわふわ飛ばすし、知らない奴はほとんどいないんだよな。ドクダミほど匂いにインパクトがあるわけじゃないけど、これも雑草なんだな。
「芹」
朝比奈が名を口にするだけで、芹はうれしくなる。だが、朝比奈は違うらしい。
「朝比奈」
振り返れば、朝比奈は地面にしゃがみ何やらおえかきをしていた。たこ焼きはとっくに食べ終わったらしく、爪楊枝を使っている。
「少し待っててね」
自分で呼んでおきながら、芹が声をかければ口出しするなと背を向けた。
暇なので、芹は少し離れたベンチに置きっぱなしのたこ焼きを食べることにした。こちらは朝比奈の苦手とするマヨありだ。冷めきっていて満足度は激減するが、朝比奈の後ろ姿を見ている方がつらい。でも、やっぱり見てしまうから、口は空虚さをうめるため味わいつづける。
かきあがりが気にいらなかったしく朝比奈は手のひらでキャンバスにしてる砂を散らした。爪楊枝をゴミとなったパックに入れ、今度は左の人差し指でキャンバスに溝を描きはじめた。
朝比奈って右利きじゃなかったか?まっ、いっか。
「芹」
同じ轍は二度と踏まないと決め、芹はマヨまみれのたこ焼きで口を塞ぐ。
「芹はこの意味を知ってる?」
立ち上がった朝比奈は地面を示しながら、知らん顔の芹に微笑みかける。
「芹」
頼むから連呼するなよ。
心に爪楊枝がプスリ、ブスリと刺されるようで痛い。そのうち、トゲトゲのウニか、イガイガの栗になりそうだ。
「芹」
あー、もう…
おいでおいでと、手招きされ渋々食べかけを放り出す。
ラスト一個なんだけどな。
朝比奈に駆け寄り、足元に刻まれた漢字を一別した。
「春の雑草」
嫌がらせか。
なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ…せり。
「春の七草の一種、セリ科の多年草」
朝比奈も雑草と思っているのか、芹のちいさなひねくれにはふれなかった。
書き慣れた字、聞き慣れた響き。
芹は鏡を覗いているような気色悪さに襲われた。
名はよく耳にするが、実物をよく知らない植物と同じ名。一月に粥に入れる食用草。幼い頃から、うんざりするほど言われてきた。
「もう一つ、『ひとへのおくりものをへりくだっていうことば』という意味があるの。
辞書を丸暗記しているかのように、朝比奈は記憶からすらすらとひっぱりだす。
芹は驚いた。朝比奈に、芹という字のもつ別の意味に感嘆した。
「すごいな」
そんな意味があったのか。結構立派だったんだな。たんぽぽが選ばれなかった春の七草に選ばれてることも、実はすごいことなんだよな。
自分の名とセリ科の多年草を軽んじていたことを少し反省した。
でも、朝比奈はどうして意味を教えたのだろうか。芹がおごったたこ焼きがきっかけで思い出したからなのだろうか。全く見当がつかない。
「芹、覚えていてほしいの」
朝比奈は芹という字の横に新たな文字を書いた。
「あなたにやさしさという贈り物がいつも届けられていることを」
芹の知る名前だ。
グチるわけでもなく、ぎこちなくいつも通りを装っていた友人を思い出す。
優。
「だから、気やすく好きなんていっちゃダメだよ」
朝比奈は笑った。
そいうことか…
「俺は史佳が好きだ」
誰が俺にやさしくても…
誰が俺を好きでも…
「それはかわらない」
「私だってかわらない。芹が友達として好きだよ」
その言葉は芹の気持ち同様ゆるがないものだった。
朝比奈は立ち上がった。
「ねぇ、たこ焼きもうひとつ買いに行かない」
「あぁ」
芹はさみしくうなずいた。
そうだ、おばちゃんに失恋の報告しないとな。
拙い文をお読み頂きありがとうございました。




