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お宝はんと

初の割り込み投稿となってしまいましたが。

いよいよ、優の能力が明かされる事となります。

 桃香が我が探偵社に入団してからというもの、皆桃香の能力に夢中になっていた。無理も無い。それだけ彼女の力は特別な物だ。この僕ですら、今まで見た事も無いぐらい珍しく、貴重な能力だという事は確かである。

 しかし、僕という存在を忘れてもらっては困る。僕の能力だって、相当に強く、そして彼女のそれをある一点では確実に凌駕するものだ。

 そう、僕こそは湖山優。我がクラスの学級委員にして、同時に学級委員長でもあり、眉目秀麗スポーツ万能、神が羨む程の能力に満ち溢れた将来有望の才能の塊。そして何より、翼探偵社の所長、なのだから。



 二学期に入り、最初の行事は全校遠足だった。あたし達三年生はその前に修学旅行があるのでこれが最初の行事という訳ではないのだが、一・二年生にとっては間違いなく、待ちに待った初めての行事である。したがって、何故か異常な盛り上がりを見せるのも、この遠足の特徴だった。まぁ、これを皮切りに怒涛の行事ラッシュが始まるので、盛り上がらざるを得ないといった所か。

 その為、あたし達の気合いのボルテージは最高潮。生憎の雨模様にも削がれる事は無く、むしろ雲を蹴散らさんばかりの勢いで、クラスごとに分かれて現地に赴いた。

 我がクラスはとある公園であったが、着いた途端に実行委員がお立ち台と拡声器をおもむろに取り出した段階で、我々は軍隊よろしく整列した。

「おい野郎共! これがおそらく、人生で最後の遠足だ! 用意は良いか!」

『おー』

「声が小さい!」

『おおー!』

「よし、大分声が出てきたな。では本日のミッションの説明をする。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ!」

 ……うん、どうしてうちのクラスの人は皆、こんなノリなのだろうか。そこは謎であるが、嘆いていても仕方がない。楽しいのは楽しいので、今日ぐらいはこのテンションに乗っかって行く事にする。

 ちなみに、ミッションとはレクリエーションの事。遠足とはいえ、そこは学校行事。何かしら、体を使って遊ぶ事を強要されているのである。だから自然と、行き先が公園や広場のある施設に限られてくるという理由でもあった。

「ルールは簡単だ。俺が事前にこのフィールドにいくつかのぬいぐるみを仕掛けておいた。その大きさによって、点数が変わる。サッカーボールサイズが五点、バレーボールサイズが十点、ピンポンボールサイズが百点だ!」

「ねぇ、それってボールを隠せば良かったんじゃない?」

「わざわざぬいぐるみにする必要性は皆無……。謎だな」

「っていうか、百点見つけた時点で勝ちだろこれ」

「それよかピンポンボールて。ピンポン玉って言えば良いのに」

 彼の説明に、様々なひそひそ声が飛び交う。ふむ、確かに普通に考えて、点差があり過ぎる。皆が察しているように、この勝負、勝利の鍵は百点であるように見える。ただ一つ、彼が類稀なる良い人である、という性格を考慮した可能性はなくもないのだが。

「文句言うなー。俺が一晩で必死こいて考えて準備までしたんだからなー」

『はーい』

 彼が努力家である事はよく知っている。それに文句を言うような生徒は、あたし達の中にはいなかった。

「制限時間はとりあえず午前中いっぱい。優勝者には多分きっと良い景品が当たるぞー」

「多分きっとって……」

「言ってしまえば、お菓子の詰め合わせだ」

『おっしゃー!』

 景品を聞いた途端、一気に士気が上がった。まぁ、お菓子というのは安くておいしくて、実は一番嬉しいご褒美かもしれない。

「勿論、獲得した点数が一番多い奴が勝ちだからな」

 彼が間際に放ったこの一言で、あたしは目的を変えた。やはり、彼はこうした企画物をやらせるには適任のようである。ますます、このゲームが楽しみになった。

「よーし、じゃあ特に質問が無ければ始めるぞー」

 そういう訳で、るんるん気分でスタート位置に着こうとしたのに。

「おい、集合」

ここで、湖山に呼び出された。


 皆の熱気で温度が数度上昇している所から少し離れた所に、愛莉も辰弥もいた。どうやら、事務所に関する事らしいが、なんだろう。緊急の依頼でも入ったのだろうか。いやしかし、そんなものは我が事務所には初めから無かったと思い直す。という訳で、

「何なのよ」

あたしとしては割と正直に、要件を問い質す。

「我々だけの特別ルールを設ける」

『なんで!?』

 今までもなかなか理不尽な難癖をつけてきた彼であるが、いやはや学校行事にまで首を突っ込んでくるとは。空いた口が塞がらないあたし達に、奴は予想もしなかったような条件を提示する。

「能力を使う事を一切禁ずる!」

「え……」

「ちょ……」

「いや……」

――最初から使う気無かったんですけど!? むしろそこまでして勝ちたいってどれだけ負けず嫌いなの!?

 奴の不敵な笑みが何となく嫌な感じを醸し出していたのだが、まさかそこまで餓鬼だとは。まぁ、奴が馬鹿だったおかげで、妙なルールにならずに済んだ事を喜ぶべきだろう。これで思う存分、ゲームに興じる事が出来る。

 そういえば、それが高じてあたしの知らないうちに勝負を挑まれていたらしいのだが、その話は知らない事にしておいた方が都合も良さそうなので、今は割愛する。

「ま、そういう訳で。お互い頑張ろうじゃないか」

 ポン、と肩に乗せられそうになった手を、勿論華麗にスル―してあたしは持ち場に戻った。

「……ちぇ」

 だから、湖山がそんなに悔しそうに、寂しそうに舌打ちをしていた事なんて、あたしは知らない。知る由も無いのだ。


「じゃ、用意」

 その声で皆、戦闘態勢に入る。陸上部の子なんかは、見事なまでの美しいフォームでクラウチングスタートを決めている。お菓子がかかると、この年代の子どもは真剣である。

「スタート!」

 実行委員の掛け声で脱兎のごとく、あたし達は一斉に飛び出していった。しかし目は獲物を追うハンターのように、鋭く研ぎ澄まされていたのを、周りにいた一般のお客様は見たそうな。



 という訳で、僕らは僕らの目的を持って、トレジャーハントに挑む事になった訳だが。

「あったー」

「こっちにも!」

「みーっけた♪」

 他の奴等はどんどんと、五点、十点のぬいぐるみを見つけているようで、あちこちから歓声が聞こえる。一方、僕はと言うと……。

「うーむ」

 適当にぶらぶらと公園内を歩きつつ、思考を巡らせていた。

――どこだ? どこに隠した?

 百点はピンポン玉サイズ。直径にして四センチメートル。したがって、どこにだって隠れられる大きさとなる。だが、他の大きな物――五点、十点のぬいぐるみは、隠せる場所は限られる。そして、わざわざぬいぐるみを泥で汚すような事はしないだろう。という事は自然と、高い所にあるか、茂みの中にあるかという事になる。

 ところが、先程からそこを中心に探しているのだが、百点はおろか、十点でさえ、一向に見つかる気配が無い。皆、どうやって見つけているのか不思議で仕方がなかった。

「うぐー」

 そしてここで、通りがかった桃香の(本人的には何気ない)一言が、僕のハートに火を点けた。

「え、湖山あんたまだ一つも見つけてないの?」

「ふっふっふ……」

「ちょ、え、どうし」

「僕を見くびらないでほしいな。もう、場所の見当はついてるんだから」

「そ、そう。じゃ、邪魔して悪かったわね」

 僕の勢いに押され、彼女は足早に、逃げるように去って行った。しかし、そうは言ったものの、お察しの通り、本当はまだ分かっていない。

――さぁて、どうするか……。

 その時だった。

「おーい、どうだ? 調子は」

 我々の様子を気にして、実行委員が見回りに来てくれた。

「ま、まぁこれからだよ」

「がんばれよー。大丈夫、お前なら見つけられるさ」

 すると、彼の頭の上に突然、ぬいぐるみの映像が重なった。それは、この公園のとある場所の風景と繋がっている。

――あれは……。

「見えた……」

 僕は迷わず、その場所へと駆けだした。


「やはり、ここだったか……」

 辿り着いたのは、この公園で最も大きな木の上だった。まぁ高さとしては五メートル程だったので、僕には楽々登れたけれども。けれども、これで先程の実行委員の言葉の意味が分かった。こんな場所に隠したからこそ、彼は“お前なら見つけられる”と言ったのだ。木登りが余裕で出来るのは、この湖山優を差し置いて他にはいない。

「気分が良いなぁ」

 高い所から走りまわっている皆を見下ろし、まるで帝王になったような気分を味わっていたのもつかの間――

「ふっ、見つけたわよ、湖山」

僕は現実に引き戻された。


「な、何故ここが」

 木から降りると、そこには桃香だけではなく、辰弥と愛莉の姿もあった。三人とも両手いっぱいのぬいぐるみを抱えている所を見ると、どうやら粗方捜索は終わっているらしい。

「優の様子がおかしいから、皆で見に来たんだよ」

「そしたら案の定なんだもん」

「な、何の事かな」

 内心は冷や汗を流しながら、平静を装って僕は答える。自分が思いも至らない所で、じわじわ追い詰められている気がした。

 そしてそれは勿論、的中する。

「あんたの負け、って事」

「優の負けだな」

「優君の負けだね」

「はい!?」

 三人から同じ事を言われ、流石に動揺を隠せなかったが、

『だって、能力使うなって言ったの、自分じゃん!』

これには納得せざるをえなかった。

「あ……」

――しまった……。僕とした事が、探す事に夢中になって、ついうっかりルールを忘れていた……。

 どうやら知らないうちに、僕は能力を発揮していたらしい。ちなみに、僕の力は僕が視た人の心の中が分かるというものである。それ自体は愛莉のものと似ているのだが、僕は心の中が全て画像化されて、その人の頭の上に見えるのだ。その為、必要な情報だけを正確に読み取ることが出来る。複雑に絡み合った人間関係も、これでばっちり解決。現代人なら喉から手が出るほど欲しいであろう、優れものなのであった。

 とまぁ、僕の素晴らしさについて語るのは、別の機会にとっておいて。

「ふふふ……」

 しかし全く、まさか僕の部下達がこんなに成長していたとは……。歯向かう事を知らなかった奴等が、あろう事かこの僕につっこみを入れてくるとは、数か月前は思いもしなかった。

「はーっはっはっは!」

 こんなに嬉しい事があるだろうか。僕は、思わずこみ上げてくる笑いを抑える事が出来ない。

「優が「湖山が「優君が」

『壊れた!?』

「いやいや、見事なチームワークだ……」

 うむ、彼らの息はぴったりと合ってきたようだ。よきかなよきかな。

『はい?』

 しかし、尚も訳が分からないというような表情を浮かべる、我が所員達。そこで、僕はきちんと説明を施す。

「僕は君達を試していたのだよ。果たして、僕のこのいかさまに気付けるかどうか、とね」

『・・・』

 負け惜しみにしか聞こえないだろうし、言い訳にしかとれないだろうが、この際気にしない。彼らの成長が見られただけでも、僕は満足だ。

 それに……。誰が何と言おうと、これで優勝は僕の手の中にあるのだから。


「それじゃ、一位の発表だー!」

「おー」

 それから数分後、制限時間となり、僕らは元の広場へと戻った。そして、待ちに待った結果発表となった訳である。

「栄えある第一位は……」

 ドラムロールまで用意しているのは芸が細かくてよろしい事だが、もうすでに勝利を確信している僕にとっては、その間はじれったいものでしかなかった。

 ところが。

「百二十点獲得、水嶌桃香ー!」

『おおー!』

 呼ばれたのは僕の名前ではなく、あろう事か彼女の名前だった。

「なん、で」

 それに百二十点だなんて、数え間違いではないかといちゃもんをつけようとしたら、

「あんた、やっぱり聞いてなかったのね」

後ろから当の本人に止められた。

「何が」

 この僕が彼の言葉を聞き逃すはずが無いと思い、失礼な暴言を撤回させるべく、彼女の方へと向き直る。

「実行委員はね、こう言ったのよ。獲得点数の多い人が優勝、ってね」

 確かに、彼は最後にそう言っていた。しかし。

「……それとこれとが、どう関係するんだ」

 それはただの念押しではないのか。僕には桃香が言わんとしている所が、何も見えてこなかった。

「いい? よーく考えなさい。うちのクラスは四十人学級よ? 全員が楽しめるようなルールを考えたというなら、少なく見積もっても、四十個、あの子の正確なら五十は隠したでしょうね」

「それが」

 なんなんだ、と続けようと思ったのだが、いい加減面倒になってきたのか、彼女はそのまま説明を続ける。

「仮に、五点が六割、いや七割でもいいかもしれないわね。で、百点はどう考えても一つでしょう? そうしたら、十点は」

「……十以上ある、か」

「その通り」

 実行委員の性格まで読み取るとは、手口が鮮やか過ぎて、ぐうの音も出なかった。

「ま、そこに気付けなかったあんたの負けね」

 その後、お立ち台に立って両手でサンタクロースのそれのようにめいいっぱい膨らんだ袋を受け取る桃香を、皆は拍手で祝福し、僕は腕を組んだまま仏頂面で見ていた。


――まぁいい。次がある、次が。

 水嶌桃香、覚えていろ。僕は絶対、お前を超えてみせる。


そういえば優の能力をいつ明かそうか、と考えた時に、三人の能力を明かすのは流れの方が良いな、と思いまして、その結果割り込み投稿で一番最初に持ってきた次第です。

他の話と流れが合うようには書いたつもりですが、違和感などありましたら教えていただけると幸いです。

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