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世界があなたの事を忘れても、私だけはあなたの事を忘れない  作者: 逆立ちハムスター


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拠る辺なき者達

どれほどの時間が経ったのだろうか。

探知魔術による精神的な摩耗と、これまでの逃避行で蓄積された肉体的な疲労は、私の限界をとうに超えていた。リーシャの無事を確認し、その小さな身体を冷たい地面に横たえた瞬間、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れてしまったようだった。


(少しだけ……一瞬だけ、目を瞑らせて……)


手のひらの上で頼りなく揺れる光球の明かりを見つめながら、私は壁に背を預けたまま、抗いようのない睡魔の泥へと沈み込んでいった。意識が微睡まどろみの境界線を越え、懐かしい王宮の夢を見ようとした、その刹那だった。


「──起きろ」


地獄の底から響くような、低く冷酷な男の声が鼓膜を震わせた。


「んっ……? うぐっ、ぅ、あ……っ!?」


悲鳴を上げる暇さえなかった。目を覚ました瞬間、私の視界は激しく揺れ、次の瞬間には凄まじい力で喉元を締め付けられていた。

呼吸が完全に停止する。硬く冷徹な、金属の籠手ガントレットが私の細い首を容赦なく握り潰し、そのまま強引に上方へと持ち上げたのだ。


「が、はっ、げ、ふ……っ!」


足が地面から離れ、宙にぶら下がる。肺が激しく酸素を求め、全身の血液が頭へと逆流していくのが分かった。あまりの苦しさに、私は両手で必死に相手の腕を掴み、爪を立て、もがき、抵抗した。だが、私を拘束しているその腕は、まるで大樹の根のようにびくともしない。


辛うじて見開いた視界の先にいたのは、一人の大男だった。

片手で人間を軽々と持ち上げるほどの巨躯。その全身は、私がこれまで見たこともないような、不気味な黒光りを出した未知の意匠のフルプレートアーマーで完全に覆われていた。兜の隙間から覗く瞳には、生きた人間に対する情など微塵も存在せず、ただ冷徹な殺意だけがぎらぎらと輝いている。


男は私を、自分を見上げる位置まで冷酷に持ち上げると、感情の籠もらない声で問いかけてきた。


「お前の他にもう一人いたな。──どこへ行った?」


リーシャのことだ。この男は、私たちの後を追ってきた追手、あるいはこの混乱に乗じて王族の生き残りを狩ろうとする暗殺者なのか。

「しゃ……、り……」

言葉を返そうにも、喉が完全に潰されていて声にならない。ただ苦痛に満ちた掠れた吐息が漏れるだけだ。目の前がチカチカと明滅し、視界の端から急速に光が失われていく。世界が真っ暗に染まり、意識が完全に途絶えようとした、その時だった。


「グゥアァァァァァ!!!!」


空間を切り裂くような、あの悍ましい咆哮が再び轟いた。


ドサッ!!!


「ゲホッ! ゴホッ、ゲホゲホッ……! はぁ、っ、はぁ……!」


突如として首への圧迫が消え去り、私は床へと無様に叩きつけられた。激しく床に這いつくばりながら、私は喉を押さえて猛烈にむせ返った。涙と涎が泥に混ざり、肺が焼けるように痛む。


怪訝そうに私から手を放した男は、冷たく私を見下ろしながら、フンと鼻で笑った。

「死に損ないが」


男は私に興味を失ったかのように、すぐさま背後へと振り返った。そして、その重厚な籠手を前方へと突き出し、冷徹な声で未知の呪文を紡いだ。


男が魔法を唱えた瞬間──世界が、文字通り紅蓮に染まった。


ドン!!!


言葉にできないほどの凄まじい熱波が、爆風と共に私を襲った。

「きゃあぁぁ!!」


あまりの熱さと眩しさに、私は本能的に叫び声を上げ、固く目を閉じて両腕で顔を覆った。皮膚がじりじりと灼かれるような錯覚を覚える。

恐る恐る目を開けると、さっきまで完全な暗黒だった地下空洞は、一面の火の海へと変貌していた。男が放ったのは、極大の火炎魔術だった。周囲に無数に存在していた枯れた蔓や木の根が格好の燃料となり、猛烈な勢いで炎が燃え広がっていく。パチパチと不気味な音を立てて崩れ落ちる天井の残骸。


目の前で繰り広げられた、恐ろしいほどの破壊の魔法を前にして、私の身体は恐怖で完全に強張ってしまった。指先一つ、自分の意志で動かすことができない。王宮で見た、高位の攻撃魔法を、この男は……強大な魔導師でもあるのだ。


そんな絶望的な破壊をもたらした張本人が、ゆっくりと、こちらの方へと再び振り返る。兜の奥の瞳が、炎の照り返しで血のように赤く輝いていた。


(に、逃げなきゃ……! ここにいたら、焼き殺されるか、今度こそ首を折られる……!)


頭では理解しているのに、恐怖のあまり足に力が入らない。私はおもむろに立ち上がろうとしたものの、膝がガクガクと震え、無様に腰が引けてしまい、再び冷たい泥の上に倒れ込んでしまった。

それでも、生きることを諦めるわけにはいかなかった。私は這いつくばり、爪を泥に立て、灰を掻きむしりながら、必死になって男から遠ざかろうと地面を這い続けた。


「グゥアァァァァァ!!!!」


その時、激しく燃え盛る火の海の中から、先ほど私が遭遇した、あの植物に侵食された化け物の群れが飛び出してきた。十体、あるいはそれ以上。彼らは自らの身体が激しく炎上していることなど意に介さず、ただ目の前の生者を屠るためだけに、謎の男の背中へと一斉に飛びかかったのだ。


燃え盛る肉塊と化した化け物たちが、次々と男に覆い被さるようにして圧殺しようと群がっていく。


(今だ……! 逃げなきゃ、逃げなきゃ……!)


私は背後での乱戦に目をくれることなく、涙を流しながら力を振り絞って必死に這い続けた。少しでも遠くへ、化け物たちが男の足止めをしてくれている間に。


だが、その儚い希望は一瞬にして打ち砕かれた。


バンッ!!!!


空間そのものが破裂したかのような、凄まじい衝撃音が轟いた。

「きゃーーっ!? はぁ、はぁ……っ!」


強烈な爆風が私の背中を叩き、私は地面を転がった。

男は、自分に覆い被さっていた十数体もの化け物たちを、ただの肉体の力、あるいは衝撃波の魔術だけで、木の葉のように軽々と一斉に吹き飛ばしたのだ。


ベチャッ、と嫌な音がして、化け物の残骸の一部が私のすぐ目の前の地面にまで飛んできて転がった。引き裂かれた化け物の肉体からは、悍ましい臭いを放つ、蛍光色に光る黄色い液体がドロリと流れ出し、地面の泥をジュクジュクと溶かしている。


そして──。

火の海を割って、ザッ、ザッ、という、重厚な金属鎧の足音が、再びこちらへと向かって歩いてくるのが聞こえた。


(も、もう……逃げられない……)


身体の自由は利かず、武器である短剣もどこかへ吹き飛んでしまった。炎に囲まれ、目の前には一騎当千の怪物が迫る。私はぎゅっと目を閉じ、己の運命を呪おうとした。


「──お姉ちゃん!!」


その時、絶望の炎を切り裂いて、聞き慣れた、けれど今は何よりも力強い声が響いた。


「リーシャ……!?」


目を大きく開けると、そこには、いつの間にか目を覚ましていたリーシャが立っていた。彼女は炎の熱風に髪をなびかせながら、必死の形相で私に手を伸ばしていた。


「こっち! 抜け道を見つけたよ、お姉ちゃん! こっちだよ!!」


────


驚くべきことに、リーシャは燃え盛る枯れ蔓のカーテンの奥、崩落した壁の隙間に隠されていた、細い石造りの隠し通路を見つけ出していたのだ。

私はまだ幼い妹の小さな力を借り、死に物狂いで立ち上がった。激痛を訴える足を引きずりながら、急いで妹と共に、蔓の裏に隠れていたその暗い通路へと飛び込んだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、っ……!」


私の手を小さな手で必死に引っ張るリーシャに導かれるまま、私たちは暗い一本道を全力で駆け抜けた。背後からは、男がこちらに気づいて追ってくる、不気味な金属の擦れ合う音が響いてくる。


通路の突き当たりには、古びた、しかし驚くほど頑丈で大きく分厚い鉄の扉がそびえ立っていた。


「お姉ちゃん、手伝って!」

「ええ! せーの、で引くわよ……っ! せーの」


二人の全体重をかけ、錆びついた取っ手を必死に引っ張る。ギギギ、と重い音を立てて扉が開き、私たちは滑り込むようにしてその先へと転がり込んだ。そして、間一髪のところで、男の手が届く前に分厚い扉をバタンと閉め、内側の巨大なかんぬきを落とした。


直後。

ドン!!! ドン!!! と、扉の向こう側から、狂暴な打撃音が数回響き渡り、鉄の扉が派手に振動した。私はリーシャを背中に庇いながら、息を殺してその場にうずくまった。

生きた心地がしなかった。もしあの扉が破られたら、今度こそ終わりだ。


しかし、数回の強烈な打撃の後、扉の向こうの衝撃音はピタリと止んだ。男はこれ以上の追跡は無駄だと判断したのか、あるいは別のルートを探しにいったのか、重い足音は徐々に遠ざかり、やがて完全な静寂が戻ってきた。


「はぁ……はぁ……、去って、くれたみたいね……」


私はひと安心した瞬間、身体から一気に力が抜け、扉に背中をもたれ掛けさせながら、へたり込むようにして床に座り込んだ。体中の筋肉が疲労で痙攣している。


「リーシャ……助けてくれて、本当にありがとう。貴女がいなかったら、お姉ちゃんは今頃……」

「当たり前でしょ。私の大事なお姉ちゃんだもん!」


リーシャは目に涙を浮かべながら、私にギュッと抱きついてきた。その小さな身体の温もりと、生きてここにいるという確かな感触に、私は胸が熱くなり、妹の背中を強く抱き返した。


「それにしても……」私は呼吸を整えながら、不思議に思ったことを口にした。「どうやって、暗闇の中でこんな場所に隠し通路があるって気づいたの? 霧もすごかったし、さっきまで真っ暗だったはずなのに」


「お姉ちゃんの、光球魔法のおかげだよ」

リーシャは私の胸から顔を離すと、誇らしげに胸を張った。

「ほら、お姉ちゃんが魔法を使ってくれた時、私のこのペンダントも一緒にピカッて光ったんだもん。それで、その光がこっちの壁を照らして、蔓の奥に隙間があるのが見えたの」


「待って……ペンダントが光ったの!?」


私は目を見開いた。

「そうだよ、ほら。──あ、お洋服の中で逆さになってた。ほらね!」


リーシャは首に掛かっている、亡き母親の形見である特殊なペンダントのトップを服の中から引っ張り出した。

私は思わず、そのペンダントの先を自分の手に取った。


「本当だ……。まだ、微かに熱を持って、光っている……」


中央に埋め込まれた王家伝来の不思議な結晶が、まるで生き物のように、淡く神秘的な青い光を内部から放っていた。


「お姉ちゃんが、私を探すために魔法で光らせてくれたんじゃないの?」

「うーん……違うわ。お姉ちゃんはただ、光の球を出す魔法を使っただけ。このペンダントに直接、魔力を流したわけじゃないもの……」


「じゃ、じゃあ……どうして光ったの?」

リーシャが不思議そうに首を傾げる。


「分からないわ……。でも、お母様が、私たちを護ってくれたのかもしれないわね」

理由は分からなかった。だが、私が探知魔術を使った際、このペンダントの魔力波形を強く意識したことと、何か関係があるのかもしれなかった。あるいは、王家の血筋にのみ反応する隠された機能なのか。

何にせよ、この母親の形見の奇跡が、私たちの命を救ってくれたのは紛れもない事実だった。


「おかげで助かったわね。ありがとう、お母様……」


私は胸元で光る結晶にそっと感謝を捧げた。


────


安堵の時間が過ぎるにつれて、新たな問題が私たちの前に立ちはだかった。

リーシャは壁にもたれて私の隣に座り直すと、力なく私の肩に頭を乗せてきた。その小さな身体が、先ほどよりも不自然に熱を帯びていることに気づく。


「お姉ちゃん……これから、どうするの? 私、頑張ったけど……なんだか、もう疲れちゃったよ……」

「そうね、本当に頑張ってくれたわ。少し、ここで横になって休んでいいわよ」


「そうじゃないの……なんだか、頭がすごく痛くて……身体が、重いの……」


リーシャの声はひどく弱々しく、息も荒くなっていた。私はハッとして、彼女の額にそっと手のひらを当てた。


「っ……冷たくない、すごく熱いわ!」


衣服が雨と泥で濡れたまま、冷気の立ち込める地下空洞に長時間いたのだ。まだ幼いリーシャの身体が、限界を迎えて風邪を引いてしまったのだろう。このまま高熱が続けば、命に関わる。それに、私たちは王都を追われてから、まともな食べ物も水分も口にしていない。食糧もない、薬もない、暖を取る火もない。


焦りが胸を突き上げるが、ここで私が取り乱せば、リーシャをさらに不安にさせるだけだ。

「大丈夫、心配いらないわ。ただの軽い疲れよ。沢山頑張ったんだから、当然よ。少し目を閉じて休んでいて。お姉ちゃんが、絶対に何とかするからね」


「ごめんね、お姉ちゃん……。リーシャ、足手まといになっちゃって……」

「何言っているの。さっきお姉ちゃんを救ってくれたのは、リーシャでしょ? いいのよ。ほら、目を閉じて、ゆっくり休んで」


「うん……」

リーシャは安心したように小さな息を漏らすと、すぐに睡魔に落ち、スヤスヤと眠り始めた。


(早く、早く暖かくて安全な場所を見つけないと……!)


私は自分の疲弊しきった身体に鞭を打ち、眠ってしまったリーシャを背中におんぶした。ずっしりと、しかし愛おしい命の重みが背中に伝わってくる。

正直に言えば、私だって今すぐにでもその場に横たわり、意識を失うまで眠りたかった。首の傷はズキズキと痛み、全身の擦り傷が衣服に擦れて悲鳴を上げている。

でも、そんな事はしていられない。私が倒れれば、妹は確実に死ぬのだ。


私は手のひらに再び小さな光球を灯し、暗い一本道の通路を、ふらつく足取りで前へと進み続けた。

この通路の先が、どこか安全な外へと通じていることを、神に願うのみだった。


どれほどの時間、暗闇を歩き続ただろうか。

一歩進むたびに意識が遠のきそうになるのを、舌を噛んで正気を保つ。そんな限界の行軍の果てに、突如として通路の先が劇的に開けた。


「……え?」


私はあまりの光景に、驚きのあまり足を止めた。

そこは、まるで外の世界のように、不思議な明るさに満ちた巨大な石造りの大部屋だった。天井や壁の至る所に、淡い光を放つ特殊な発光石が埋め込まれており、地下とは思えないほどに柔らかな光が空間を満たしている。精緻な幾何学模様が刻まれた強固な石柱、巨大な天蓋。


(地下に、こんなに大きくて立派な部屋があるなんて……。これって、古い文献で読んだことがある、ドワーフの遺跡かしら……?)


かつてこの大陸の地下を支配していたという、高度な技術を持つドワーフたちの遺構。しかし、驚くべきは歴史的な発見などではなかった。


大部屋の少し先から、パチパチ、と、乾いた木が爆ぜる心地よい音が響いていたのだ。

さらに、そこからは、今の私にとって世界で最も暴力的とも言える、えもいわれぬ芳醇で良い匂いが、温かい湯気と共に漂ってきた。


「焚き火……? それに、この匂いは……スープ?」


私は背中のリーシャを落とさないよう固く結び直し、警戒しながらも、本能的な飢えに突き動かされるようにして焚き火の方へとゆっくり歩を進めた。


そこには、確かに人工的なキャンプの跡があった。

美しく組まれた薪の上で、オレンジ色の温かい炎がパチパチと揺らめいている。その側には、大人が腰掛けるのにちょうど良い、毛皮の敷かれた木製の椅子がいくつか置かれていた。

しかし、辺りをどれだけ注意深く見渡しても、そこには人影一つ存在しなかった。誰かが今さっきまでここにいて、急に席を外したかのような、奇妙な空間。


「誰か……いますか?」


とりあえず、今はこれ以上、主の有無を気にしている場合ではなかった。何よりもまず、リーシャの身体を温めなくてはならない。

私はリーシャをそっと毛皮の椅子の上に寝かせ、彼女の泥と雨水で冷え切った衣服を、細心の注意を払って脱がせた。そして、椅子に無造作に置かれていた、濡れていない、仕立ての良い大きな厚手のコートを拝借し、彼女の小さな身体を包み込むようにして被せた。

炎の熱と、温かい毛皮に包まれ、リーシャの荒かった呼吸が、少しだけ落ち着いたものへと変わっていく。


ホッと胸を撫でおろした私の視線が、自然と焚き火の上に吊るされた、大きな黒い鉄鍋へと吸い寄せられた。


コトコト、コトコト、と。

鍋の隙間から、白い濃厚な湯気が溢れ出している。私はゴクリと、思わず喉を鳴らした。

蓋を少しだけ開けて中を覗き込むと、そこには、見たこともないほど肉厚で美味しそうなキノコや、じっくりと煮込まれた柔らかな肉、新鮮な根菜が、濃厚な琥珀色のスープの中でグツグツと美味そうに煮込まれていた。


「美味しそう……。でも、これって……」


私の理性が、警鐘を鳴らす。

こんな不気味な地下遺跡の、主のいない鍋だ。もしかしたら、これを食べた瞬間、身体が内側から植物に侵食されて、さっきの化け物たちのようになってしまうのではないかという恐怖が頭をよぎる。


(い、いや……やっぱりやめておこうかしら。万が一、毒でも入っていたら大変だし……)


私は鍋の蓋を閉め、未練がましくそこから一歩後退した。

はぁ……でも、本当に美味しそう。漂ってくる香ばしい匂いだけで、胃袋が引き裂かれそうなほどに激しい自己主張を始めている。


少し身体が温まったら、この部屋の周りを調べて、出口か、あるいはこの鍋の主の痕跡を探そう。そう決意して、私がリーシャの看病に戻ろうとした、まさにその時だった。


──ガラガラガラッ。


突如として、背後。ただの頑丈な石壁だと思っていた奥の隠しドアが、重い音を立てて横へとスライドした。


「あっ!?」


私は弾かれたように振り返り、落ちていた薪の棒を武器代わりに、咄嗟に構えた。

開かれた扉の向こうから、暗い影が、ゆっくりとこちらに向かって歩みを進めてくる。


炎の光に照らされて、その人物の輪郭が、徐々に明らかになっていく──。

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