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第5話:最初のお客さん

 翌朝、レインは作業台の前に座って三本の瓶を並べた。


 緑色の液体がわずかに光を帯びている。昨日完成したポーション三本。自分で作ったものとはまだ少し信じられない気がしたが、シルバじいさんが「十分だ」と言った。それなら十分なのだろう。


 問題は、これをどう売るかだ。


 経営の書を開いた。今日、目が止まったのは「仕入れと売値」の少し先のページだった。


「品を持つ者は、まず問うべきだ。誰がそれを必要としているかを」


 当たり前のことに見えて、実は核心なのだと、読んでいると感じる。ポーションが必要なのは、怪我をした人間か、これから危険な場所へ行く人間だ。タルン村の住人は顔見知りばかりで、今すぐ怪我をしているわけでもない。とすると——外から来る人間を待つか、外へ持っていくかだ。


 外へ。エクラ市。


 冒険者ギルドというものがあると聞いたことがある。行商人から聞いた話だ。エクラ市には冒険者が集まっていて、危険な仕事の前に必ずポーションを買う。需要は確かにある。だが、タルン村からエクラ市まで歩けば十日以上かかる。それだけ時間をかける価値があるかどうか、今の手持ちでは判断できない。


 ——まず、ここで売ることを考えよう。


 本を閉じて立ち上がった。



 昼前、行商人の荷車がタルン村に入ってきた。


 月に一、二度来るうちの一人で、名をドゥルガといった。五十がらみの、日焼けした顔に白い髭を生やした男だ。村の商家に馬車を停めて荷を下ろし始めたところを、レインが声をかけた。


「ドゥルガさん、少し時間ありますか」


「なんだ、レインか。大きくなったな」と男は笑った。ガルドのことを知っている。三年に一度くらいはこの村に立ち寄っていた。


「ポーションを買い取ってもらえないかと思って」


「ポーション?」


 革袋から一本取り出した。ドゥルガは受け取り、瓶を持ち上げて日光に透かした。色を確かめるように傾ける。小さな笑みが浮かんだ。


「ちゃんとしたものだな。どこで作った」


「シルバじいさんに習いました。材料は霧穴の薬草です」


「霧穴か」とドゥルガは言い、少し間を置いた。「エクラ市に持っていけば、一本で銀貨三枚は取れる。道中品質が落ちなければだが」


「買い取り値は」


「わしが仲介するなら一本銀貨二枚だな。どうだ」


 レインは少し考えた。経営の書に書いてあったことを思い出す。「仕入れと売値の差が薄ければ薄いほど、信用は長続きする」という一節があった。ドゥルガが誠実に扱ってくれるならそれでいい。


「二本お願いします。一本はとっておきます」


「了解した」


 銀貨四枚がレインの手に渡った。


 初めて自分の手で稼いだ金だった。



「エクラ市って、今でも冒険者が多いんですか」とレインは尋ねた。


「多いよ」とドゥルガは荷を整えながら答えた。「ギルドがあるからな。あそこに登録すれば仕事が来る。討伐依頼とか、遺跡探索とか、護衛とか。最近は南の方で魔物が増えてるらしくてな、ギルドも忙しそうだった」


「ここへ来る冒険者はいないんですか。霧穴を調べたい人とか」


「昔はいたぞ」とドゥルガは言い、作業の手を少しだけ止めた。「霧穴のうわさが立っていた頃はな。何年前だろう、もうずいぶん前のことだが——いつの間にか来なくなった。道が悪いし、噂も良くない。ここまで足を運ぶ理由がなくなったんだろうな」


「どんな噂が立ったんですか」


「さあ。わしも詳しくは知らん」と男はまた荷を動かした。「ただ、タルン村もかつては通り道だったのに、今は立ち寄る用がないと言って素通りする商人も多い。いい村なんだがな」


 レインはそれを聞きながら、シルバじいさんが「いろいろな事情がある」と濁した言い方を思い出した。



 夜、ガルドの家の炉の前で、レインは銀貨四枚を手のひらに乗せてしばらく眺めた。


 最初の売上だ。大きい金額ではない。でも、ゼロではない。


 経営の書をもう一度開いた。今夜のページには、こんな一文があった。


「始まりは小さい。だからこそ、小さい始まりを馬鹿にしてはならない」


 どこかで聞いたような言葉だったが、今は妙に刺さった。ポーション二本で銀貨四枚。ミストハーブ六本でポーション三本。霧穴に行くたびに六本は採れるとすれば、三本のポーションができる。三本で銀貨六枚——ドゥルガが来るたびに。


 ただ、ドゥルガはいつも来るわけじゃない。月に一、二度だ。間に合わせには、別のやり方が要る。


「……まあ、続けてみるか」


 声に出すと、なんとなく少し気が楽になった。炉の火が揺れた。

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