第36話:割れ目の前で
五日後、月末まであと五日になった。
この五日のあいだに第三耕地の二回目の収穫が五本出た。採取ポイントと第一耕地の分を毎日積み上げて、棚の通常品が九十三本になっていた。混合品は八本。月百本はほぼ確実だった。
朝の採取を済ませ、今日の乾燥を終わらせた。それから松明を二本持って大空洞に戻った。今日は目的が別にあった。
*
大空洞の奥の壁際に向かった。松明を高く持ち上げながら歩いた。土の割合が減り、岩が増えてくる。薄い霧の中に岩の割れ目が見えてきた。
割れ目の前に立った。
中から風が来ていた。外の山の風とは違う。湿り気があって、少し温かい。大空洞の水場と似た温度だった。
松明を割れ目の中に向けた。入口から少し奥まで光が届いた。壁の内側にも苔が張り付いていた。床は岩で、黒っぽい土が薄く積もっていた。大空洞の床と同じ土の色だった。
一歩入った。
二歩入った。
通路は続いていた。幅は大人が一人通れる程度。真っすぐではなく、緩やかに曲がっている。松明の光が届かない先は暗かったが、完全な暗闇ではなかった。かすかに何か光があるような気がした。反射光なのか、別の何かなのか、判断はつかなかった。
もう少し進もうとした時、後ろで気配があった。
振り返ると、割れ目の入口にスケイルリザードがいた。いつもの一匹だった。赤い目が松明の光を反射して光っていた。割れ目の外に静かに立って、レインを見ていた。
攻撃する気配はなかった。ただ、動かなかった。
(今日はここまでだ)
レインは二歩引いた。スケイルリザードはそのまま動かなかった。割れ目の外に出ると、リザードはゆっくりと向きを変えて大空洞の奥へ消えた。
松明を持ち直してから、出口の方へ歩いた。
*
小屋に戻る前にシルバじいさんの元に寄った。
「大空洞の奥に、大人が一人通れる岩の割れ目があります。前に少しだけ話しました。今日、中に二歩入りました」
じいさんは黙って聞いた。
「通路が続いていました。壁の内側にも苔があって、土の色は大空洞と同じでした。松明の光が届かない先に、かすかな光があるような気がしました。確かなことはわかりません」
「風は来ているか」
「はい。大空洞の水場と同じくらいの温かさで、湿り気がありました」
じいさんはしばらく何も言わなかった。目を少し細めて、天井のどこかを見ていた。
「スケイルリザードが入口に来て止まっていました。今日はここまでだと思って引き返しました」
じいさんは顔を上げた。口を開きかけた。言葉が出る前に、一度閉じた。
「……なんでもない」じいさんは静かに言った。「急がなくていい。今は月末のことに集中しろ。奥のことはその後で考えても遅くない」
「はい」
「それから」じいさんは少し間を置いた。「その割れ目のことは、今は誰にも話さなくていい。お前だけが知っていればいい」
レインは少し考えてから答えた。「わかりました」
*
小屋に戻って経営の書を開いた。
「先を見ることと、今に集中することは矛盾しない。先が見えている者だけが、今の一歩の意味を知っている」
棚を見た。通常品が九十三本。混合品が八本。月末まであと五日。
明日も採りに行く。割れ目のことは頭の隅に置いておく。月末が終わったら、松明を十分に持って改めて入る。それまでは今やることに集中する。




