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第25話:行商の知らせ

 その日、ドゥルガが来た。


 朝のうちに霧穴へ行き、採取ポイントのミストハーブを採って戻ったばかりだった。乾燥台に材料を並べて炭の火を整えていると、山道の下の方から荷車の音が聞こえてきた。


 馬の蹄の音。荷が揺れる音。


 見慣れた荷車が山道を上がってきた。日焼けした顔に白い髭。ドゥルガだった。


「レイン。ちょうどいい時に来たか」


「どうぞ中へ」


 荷車を岩壁の横につけて、ドゥルガが小屋に入った。棚を見渡した。


「本数が増えている」


「耕地が少しずつ育ってきました。採取と合わせると、毎日の生産が増えています」


「耕地というのは——前にも聞いたが、ダンジョンの中で育てているのか」


「大空洞という場所があります。自然光が入って、土の質も良い。ミストハーブが育ちました。今は三か所で試しています」


 ドゥルガはしばらく考えた。「それはいい話だ。量が安定すれば、商売の話が変わる」


「月に何本出るか、見えてきました。採取ポイントと耕地を合わせると、今月は百本近くになるかもしれません」


 ドゥルガが少し目を丸くした。「百本か」


「まだ確かではないですが、来月は安定してそのくらい出る見込みです」



「それで——今日は何本ある」とドゥルガが聞いた。


「通常品が十本ほど用意できます」


「十本もらう。銀貨二十枚だ」


 棚から通常品を十本出した。薄緑の小瓶が並んだ。ドゥルガが革袋から銀貨を出して、作業台に置いた。


「もう一つ話がある」ドゥルガは椅子に座った。「セイロスのことだ」


「話を通してくださったんですか」


「先月、エクラへ行った時にセイロスに会った。お前のポーションの話をした。最初は半信半疑だったが——旅人の評判が先に届いていた」


「旅人というのは、カルトのことですか」


「そうだ。あの若者がエクラで話を広めた。特に混合品の方の話だ。痛みが早く引いて夕暮れまで持続した、という話を宿屋で何人かに話したらしい」


 レインは少し驚いた。カルトがエクラで話をしていたとは知らなかった。


「それでセイロスの耳に入ったんですか」


「入っていた。だからわしの話に乗ってきた。一度直接会いたいと言っている」


「会うとは——」


「ポーションを見たい。できれば作り手にも話を聞きたい、と。向こうから来てもいいとも言っていた」



 棚から混合品を一本取り出した。深緑の小瓶をドゥルガの手に渡した。


 ドゥルガは光にかざした。


「色が違う」


「素材が違います。霧花草という薬草を混ぜています。大空洞の岩の隙間に生えていた植物です。今は第二耕地で栽培しています」


「匂いも違う。甘い」


「はい。持続時間が伸びます。旅人が使ったのはこれです。腕の引っかき傷に塗ったところ、十分ほどで痛みが引いて夕暮れまで持続した」


「それが本当なら、通常品より値が上がる」


「まだ安定して量が出せないので、今日は売りません。ただ——見てもらいたかった」


 ドゥルガは小瓶を返した。しばらく黙った後、「ゴルドが来たと聞いた」と言った。


「はい。ミアに頼まれて来てくれました。混合品を古傷に試してくれました」


「ゴルドが自分で試した、か」ドゥルガはそこで少し考えた。「エクラでもゴルドの名は知られている。腕のある職人として、人の信用がある。そのゴルドが試した品、という話はセイロスに伝えるべきだ」


「ゴルドさんの評価が信用になる、ということですか」


「そういうことだ。セイロスは言葉より事実を重んじる人間だ。誰が試したか、どんな結果が出たか——それが大事になる」


 ゴルドの膝が湿気の日に重くならなかった。一度だけではなく、続けて確かめている。その結果が出た時——その話をセイロスに伝えることができる。


「もう少し経過を見てから、結果をドゥルガさんに伝えます。セイロスさんが来るとしても、その後で構いませんか」


「問題ない。急ぐ話ではない。ただ——あまり待たせすぎると向こうの気が変わることがある。次にわしが来る時、どれくらい経過を確かめられているか、教えてくれ」


「はい。次に来てもらう頃には何か言えると思います」


 ドゥルガは立ち上がった。「もう一つだけ」


「何でしょう」


「量が百本になった時、ドゥルガ一人では捌けなくなる。その時にセイロスのところへ半分を回すようになる、という形を考えておいてくれ。ドゥルガが仲立ちをする形で」


「仲立ち料はどのくらいになりますか」


「本ごとに銅貨十枚もらえれば十分だ。取り分を主張しない代わりに、信用の橋渡しをする。そういう商売のやり方だ」


 経営の書の言葉が頭に浮かんだ。「信用の積み重ね」。ドゥルガがこの話に乗ってくれているのは、信用があるからだ。


「わかりました。そういう形で考えておきます」


「それでいい」ドゥルガは荷車に乗り込んだ。「次は半月後だ。その時に結果を聞かせてくれ」


 荷車が山道を下りていった。車輪の音が遠ざかる。



 小屋に戻って棚を見た。


 通常品が十本売れた。銀貨二十枚が手の中にある。混合品二本が残っている。今日残った通常品が一本ある。


 今まで一度に売った最高額だ。でも今日気になったのは銀貨より、セイロスの話だった。


(エクラの商人が来る)


 通常品だけでなく、混合品を見せる機会が来る。ゴルドが試した、という事実もある。ミアが土を見てくれた第三耕地が育てば、霧花草の量も増える。


 混合品の在庫を増やす。量が安定する。結果が積み重なる。その順番だ。


 経営の書を開いた。


「機会は窓のようなものだ。開いている間に通り抜けよ。次に同じ窓が開くとは限らない」


 レインはそのページをしばらく見ていた。


 セイロスが来る。その前に、混合品を整えておく。ゴルドの膝の経過を確かめる。第三耕地が育てば霧花草の葉が増える。それだけだ。


 夕暮れの光が小屋の窓から差し込んでいた。今日も山の上の方に霧穴がある。明日も採りに行く。

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