試練の中の姫
起源の間。
エリスはアルカナ・リンクのコックピット内で、
巨大な紫の結晶の柱に両手を触れたまま、
意識を深く沈めていた。
周囲の粒子が激しく渦を巻き、
エリスの視界は白い光に包まれた。
「……ここは……?」
声が響いた瞬間、
エリスは自分が「幼い自分」として立っていることに気づいた。
白い大理石の宮殿。
紫の粒子が優しく舞う玉座の間。
目の前には、
幼い頃の自分——エリス・ヴァルハラが立っていた。
銀色の髪に青みがかった瞳。
まだ幼く、無邪気な笑顔。
幼いエリスが、
少し寂しそうに言った。
「……ねえ、私。
あなたは、私なの?」
エリス(現在)は、
自分の声で答えた。
「……うん。
私は……あなたが大きくなった姿。
エリス……」
幼いエリスは首を傾げ、
少し悲しそうに微笑んだ。
「そうなんだ……
お姉ちゃんは?
お父様とお母様は?
みんな……どこに行っちゃったの?」
エリスは胸が締め付けられるのを感じた。
大共鳴の記憶が、再び蘇る。
紫の光が爆発し、
街が崩壊していく中、
ルルが必死に自分を抱きかかえて走る姿。
王と王妃が、最後の瞬間まで微笑みながら粒子を捧げる姿。
エリスは幼い自分に向かって、
静かに語りかけた。
「お父様とお母様は……
みんなを守るために、
自分をエーテルに還したの。
お姉ちゃんは……
私を未来に逃がすために、
自分を犠牲にした……
私たちは、置いていかれたんじゃない。
守ってもらったんだよ……」
幼いエリスは目を伏せ、
小さな声で言った。
「……私、怖かったよ。
お姉ちゃんが置いていっちゃうって思って……
ひとりぼっちになるって思って……
失敗作だって言われて……
ずっと、怖かった……」
エリスはゆっくりと近づき、
幼い自分の頭を優しく撫でた。
「うん……怖かったよね。
私も、ずっと怖かった。
でもね……
もう大丈夫。
私は一人じゃない。
エコー、ガイル、リナ、セラ……
みんながいる。
お姉ちゃんも、きっと今も私を守ってくれている。
だから……
もう、怖がらなくていいよ」
幼いエリスが、
少しだけ笑顔を見せた。
「……本当?
私……強くなれる?
みんなを守れる?」
エリスは頷き、
自分の手を取るように、
幼い自分の手を握った。
「なれるよ。
私は、あなたが頑張って生きてきた証拠だもん。
これからは……
一緒に強くなろう。
アルカナ・リンクと一緒に……
みんなと一緒に……」
二つのエリスが重なり合い、
紫の粒子が優しく輝いた。
幼いエリスが、最後に小さく言った。
「……ありがとう。
私……もう、ひとりじゃないね」
光が収束し、
エリスの意識が現実に戻ってきた。
アルカナ・リンクのコックピット内で、
エリスは静かに涙を流していた。
「……私……
やっと、向き合えた……
過去の自分と……」
結晶の柱が、
穏やかな紫の光を放ちながら、
ゆっくりと輝きを弱めていった。
エコーの声が、通信で響いた。
「エリス……!
無事か?」
エリスは涙を拭い、
少しだけ笑顔で答えた。
「……うん。
大丈夫。
私……
少しだけ、強くなれた気がする」
試練は、終わった




