英雄の広告
ナイトメアの地下ハンガーは、ネクサス同盟成立から数日が経ち、
少しずつ活気づき始めていた。
新型粒子合成炉コアの追加供給で、整備ベイはフル稼働。
XRX-03のヴォイド・リーパー冷却回路はさらに強化され、
ファントム・クロノスも安定飛行テストを繰り返している。
だが、カイの席はまだ空いたままだった。
誰も触れず、誰も座らず、ただ静かにそこにある。
レオンはブリーフィングテーブルに肘をつき、
ネクサスから届いた最新の契約追加条項を睨んでいた。
「戦術報告の詳細提出」「機体データの定期共有」――
同盟のメリットは大きいが、
自由を少しずつ削られる現実が、胸に重くのしかかる。
リナがデータパッドを叩きながら言った。
「隊長……今日の依頼はこれよ。
ヴォート・コーポレーションから正式に打診があったわ」
一同が顔を上げる。
ガイルが缶ビールを飲みながら眉をひそめた。
「ヴォート? あの広告屋かよ。
『Voice Of The Era』ってやつだろ?
俺たちの戦いをCMにでもすんのか?」
リナがホログラムを展開した。
画面に映るのは、派手なネオンカラーのロゴと、
爽やかな笑顔の女性担当者。
「ヴォート広報部ミリア・ヴェインです。
ナイトメアの皆さん、初めまして。
貴方たちの活躍を、世界に届けるPRキャンペーンを提案させて頂きます」
映像が切り替わり、ナイトメアの過去の戦闘映像が美化されて流れる。
爆発の炎が英雄的な光に変わり、
レオンのXRX-03が「悪夢の象徴」としてドラマチックに描かれる。
「報酬は破格です。
新型広告用ホログラム装置+高額契約金。
さらに、貴方たちの『英雄譚』を旧大陸全域に配信し、
支持率を上げて次の依頼を呼び込みます」
セラが静かに言った。
「……広告。
私たちの戦いを、商品にする気か」
エコーが冷静に分析する。
「メリットは大きい。
知名度が上がれば、依頼が増える。
だが……ヴォートはただの広告会社じゃない。
人体実験の噂がある。
神経接続被験者を『モデル』として集めてる可能性が高い」
レオンはホログラムを消した。
「依頼は受ける。
だが、俺たちは悪夢だ。
広告のためじゃない。
生き残るためだ。
ヴォートが何を企んでても……俺たちのやり方で戦う」
ミリアの映像が再び再生され、
笑顔のまま言葉を続ける。
「では、最初のテスト撮影をお願いします。
アークライトの小規模エネルギー施設。
偵察と破壊の任務です。
もちろん、全過程をヴォートのカメラで記録させて頂きます」
通信が切れると、ハンガーに重い沈黙が落ちた。
ガイルが舌打ちした。
「カメラ付きで戦えってか。
俺たちの痛みまで売る気かよ」
エコーが静かに言った。
「ヴォートは俺たちを『商品』にしたい。
だが、俺たちは悪夢だ。
商品にはならない」
レオンは立ち上がり、XRX-03に向かった。
機体の目が、静かに青く瞬く。
「出撃準備だ。
アークライトの施設を壊す。
そして……ヴォートに、俺たちの本当の姿を見せてやる」
輸送機が離陸する。
灰色の空の下、
新たな物語が、静かに始まった
これからはヴォート編に入ります。長編になる予定です。よろしくお願いします




