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テーブルの上にはほかほか湯気が立つクリームシチュー。焼きたてパンは真里がパリまでさっと行って買って来たものだ。サラダは寛人が作った。


寛人はいただきますと手を合わせると、クリームシチューを頬張った。

「美味しいです、とても。」

「…さっきも言ったけど、あなた、私が魔女だって分かってるのよね?」

「?はい。」

「薬とか混ぜられてるとか思わないの?そっその、惚れ薬とかっ」

「あれ?先ほども言いませんでしたっけ?僕に惚れ薬なんか飲ませなくても真里さんはお綺麗ですから。」

「!!!!!」


真里はワインの入ったグラスを持ち上げて一気飲みすると、がんっとグラスをテーブルに置いた。

「で!さっきの!どうするの!?私の下僕になるの!?」


下僕…?ああ、冗談だと思ってた。魔女様の下僕。…真里さんの、下僕か。


寛人の心臓がドクリと鳴った。先ほど見た圧倒的に美しい真里。目の前にいる表情がクルクルと変わる真里。急に迫り上がってきた衝動は、今まで感じたことがないものだ。

一瞬で消えてしまった衝動の後に残ったのは、胸の温かさだ。胸がほわほわする。


真里さんの側にいられる。下僕になれば。


でも…


「とても光栄なことです。とても嬉しいのですが…僕は今、大使としての任務をまっとうしたいのです。」


そうだ、中途半端な状態でお仕えするのは真里さんにも猫にも申し訳ない。僕は、今にゃん国の猫の下僕なんだ。


「今すぐなんて言ってないわよ!一年くらい待ってあげるわ!」

耳まで赤くなった真里がやけくそ気味に叫ぶ。

「待っていてくださるのですか。」


真里さんはなんて優しいんだ。こんな綺麗な人が僕なんかを待ってくれるなんて。…でも、一年は長い。その間に忘れられてしまうかもしれない。

それでもいい。今、この時に真里さんの意識に僕が存在するのなら。


少し考えた寛人は、

「じゃあ文通をしましょうか?」

と言った。


にゃん国は個人所有の通信機器は一切持ち込み禁止だ。個人宛の唯一の通信手段は、紙の手紙。しかもすべて検閲されている。


「文通!?」

「あ、図々しかったですかね。すみません。」

「…いいわよ、文通ね。暇なときに書いてあげるわよ。」

「本当ですか!?嬉しいな。あ、話題はほとんど猫のことになってしまうかもしれませんが。」

「いいわよ!好きに書きなさいよ!」

「ありがとうございます。」


真里さんはいい人だな。

寛人の口元はどんどん上がっていった。


「手紙はこの子に渡せばいいから。アリヴェデルチ!アリヴェデルチ!出てらっしゃい!」

「なんだよ、俺様は今新作スイーツタイムなんだぞ。」


ぽんっという音と共に小さなぬいぐるみのようなものが現れた。


な、なんだ?動いてる…喋ってる…?


「私の使い魔のアリヴェデルチよ。悪魔なの。」

「悪魔!本当にいるんですね!」

「ああ?てめえ俺様を悪魔呼ばわりか。ずいぶんと失礼な態度だなあ。ああ?」

ぽてっとしたお腹で吊り目の悪魔が、寛人の顔面すれすれまでパタパタと羽を動かしながらやってきて凄んだ。


「ごっごめんなさい。びっくりして。初対面の方に失礼いたしました。」

寛人は顔面すれすれに悪魔がいるため頭は下げられなかったので、代わりに目を伏せて謝罪した。


「こいつがが真里の新しい下僕か。」

「下僕候補よ。まだ決まったわけじゃないわ。」


…僕みたいなのが前にもいたんだ…そうだよな、真里さんは綺麗だから。やっぱりここを出たら僕のことも忘れてしまうだろう。


寛人は胸がつきんと痛んだが、気づかないふりをして話の成り行きを見守った。


「惚れ薬も盛ってないじゃねーか。前のには最初からガンガン入れてたのになあ。」

「うるさいわね!そういう気分じゃないのよ!」

「へーへー。なんだ、お前が惚れたのか。」

「私はママとは違う!恋なんてしないの!子供ができればそれでいいんだから!」

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