暗闇の中のぬくもり
春望が紅茶をもって柑奈のいる場所へと入ってくる。
「柑奈、フルーツティー作ってみ――」
目に入ってきた光景に持っていた紅茶を落としてしまった。
腹部から血を流し、壁にもたれ掛かっているように座っている柑奈の姿が見えた。
柑奈の目の前に男が立っていて、環奈はその男を睨み続けている。
春望はその男が柑奈を殺そうとしている事がすぐに分かった。
すぐに魔術で片手にナイフを生成し切りつけに行く。
「あら、まだほかの方がいたのですね。そうなるともう残りも無いので不利になってしまいますね……。勿体ないですが帰らせていただきますね、それにまだ遊べそうですので」
二対一は分が悪いと思ったのかの、春望のナイフを笑いなら避けて廃墟の喫茶店を出て行った。
男が消えたと同時に春望は柑奈に近寄る。
「柑奈!大丈夫?」
柑奈の隣に座る。
「もっちー?そこにいるの?あいつはどうなったの?」
今にも死にそうなか細い声で笑っていた。
「無理しないで。また魔術を使ったのね、ごめんなさい気づかなくて、すぐに治すからね」
気づかないことも無理は無かった。
柑奈は防音の魔術を使っていたのだから。――春望に気づかれないために。
「うん、分かった。もっちー……手を握って欲しいな」
柑奈の魔術を使うための代償は『己の視力』
男との戦闘で多くの魔術を使ってしまったが為に、視力をほとんど失った。
「分かったわ」
春望は環奈の左手を両手で握りしめた。
「もっちーの手……あったかいね」
出血の量もすごく喋ることも辛いはずなのに、それでも喋っている。
春望は、片手だけ柑奈から手を離し、先ほど落とした紅茶に手を伸ばす。
「応急処置にしかならないけどね」
春望の魔術の代償は『水』。
紅茶も元をとどれば水となる。
魔術を使い、腹部の傷を治し一時的に柑奈を眠らせる。
「少し待ってなさいね」
春望は立ち上がり、いつもの奥の部屋に向かう。
そこは、ごく普通の家庭にあるキッチンの様な場所だ。
中央には台があり、奥に流し台やコンロが備わっている。
流し台の水を勢いよく出し、ブリガンテを実体化させる。
「どうされた?」
そこには猫の姿をしたブリガンテがいた。
「今すぐ、冴月陸翔に環奈が死にそうだから車を出してとお願いしてきて頂戴」
「承知」
猫の姿をしたブリガンテはすぐに外に出て行った。
春望は水道の水を止める。
柑奈の所へ戻りまた手を握る。
「……。死なないでよ」
握っている手に力が入る。
陸翔が来るまでの間、柑奈を奥の部屋へと運び、傷を癒す魔術を使い続ける。
大きな音を立ててドアが開く。
「車に乗せろ、そっちで話を聞かせてもらう」
陸翔が入ってきた、
柑奈の姿を見るなりすぐに春望に指示を出す。
「分かったわ」
春望は柑奈を抱っこして、陸翔について外に出る。
路地裏を抜けると青色の車が止まっていて、陸翔は春持つが乗れるように薄ロのドアを開け運転席に乗り込む。
そこに続き春望も乗る。
「それで何があった」
エンジンをかけるや否や事情を聞かれる。
環奈を隣に座らせながら春望は答える。
「正直なところ分からないのよ。私が裏で社業している時に男が来て柑奈がご丁寧に防音と静止まで掛けていたみたいでね、私が見た時には柑奈はお腹から血を流して死にかけだったのよ。……相手は分が悪いと思ったのか引いてくれたけど、柑奈が負けていたなら私はすぐ殺されていたでしょうね。それ以外は分からないわ」
部屋が散らかっていなかったのは『静止』と言う魔術を使っていたからだ。
今ある状態を一時的に固める。『静止』が発動している間何一つ動かすことは出来ず汚す事も出来ない。
人を固めることは出来るが、物と同様に動かしたり殺したりもできない。
「新しい魔術師が出てきたって事か」
柑奈の『静止』を防ぐという事は、魔術d何かしらの事をしたとしか考えられない。
「魔術を使っていたようなところは見てないけど……私も同感ね」
味方になるか、敵になるか。どちらにも付かない第三者となるか……。
それは誰にもわからなかった。
敵にすれば、凶器になりかねない。だからと言い味方につければ信頼に値しない。
考えてみ無駄にしか思えなかった。
「あと五分で着く。どうにか生きながらえさせろ」
春望は環奈の手を握り、何度も繰り返し「死なないで」と心の中で願い続けた。




