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六年前の回想14


 十分ほどすると、後ろで騒いでいたエリカとリーベルトが野営地の水辺へと戻ってきた。

 それからしばらくエリカと釣りをした後、リーベルトは焼き干しに四苦八苦しているジロの所へとやって来た。


 五m程先で、こちらを窺いながらエリカが釣りを続けている。

「まぁ、よく来たな」

「久しぶりですね」

 ジロは火加減を調整するため、たき火の中にある枝を数本抜く。

「あまり驚かないんですね」

「まぁな。学院で別れた時は、従者が来る確率は五分五分だなって思ってたからな」

「……随分と低い評価ですね」

「そうか?ワンワン泣いてた時は、全く見込みがないなって思ったもんだ」

「え!? リーブ泣いたの? ジロにいじめられたの?」

 エリカは魚を探して泉を見張っていたが、二人の会話を聞いて興味が移り、振り返った。

「エリカ、なんでもないよ? ガルニエ先輩は虚言癖……知らない? えっとね、嘘つきだから」

「それは分かる! ジロはいつも嘘ばっかりなんだから! めっ!」

 笑顔でそう言うと、エリカは竿を放り出して、たき火の前へとやってきた。

「リーブ、い~い? 今はね~~こうやってお魚を作ってるの! 必要なんだからね! 遊んでるんじゃないんだよ!?」

 っと、自分の両腰に、手を当てお姉さんぶって状況の説明をリーベルトにする。

「だから、リーブも遊んでちゃダメ! ね? いい子だからリーブもがんばろ?」

「そうそう、エリカの言うとおりだ。お前は十二の割りには体格がいい。細身って点をが頼りないが、新米騎士と名乗っても通用しそうだし、何より今は魔法戦力として大歓迎だ。エリカから幽界のルールを聞いておけよ」

「二人が幽界に入っている間に僕は十三になりましたよ。それに僕が一番新参者ですから、喜んでエリカ将軍の麾下に入りますとも」

「ショーグンだって! リーブはバカね! ショーグンはお父様! アタシは……、……アタシは、私は――」

「――エリカは普通の女の子だ」

 ジロが火加減を見ながら、そう口を挟んだ。

「そうだよ! ジロは子供っぽくて、リーブは大人っぽくて、わた……、エリカは……普通!」

「普通か、まぁそうだな」

「うん! そうだよ!」

「じゃぁ、エリカは普通ショーグンだ。それで普通軍団長がガルニエ先輩で、僕は参謀長にしてもらおうかな」

「馬鹿野郎。お前みたいな学院生従者は、俺の指揮下の平隊員に決まってるだろうが」

「ジロったら、オーボーだよ! メッ!」

「横暴でいいんだよ。ホレ、エリカ。ここから離れない位の所で、平隊員の従者に――」

「ジロ! 前に言ったでしょ! リーブはちゃんとガルニエ先輩って言ってるのに!」


 なんの話だと、ジロは火から目を離して怒り出したエリカを見て、その後リーベルトを見て目で問いかける。

「アレですよ、ガルニエ先輩。僕が小ガルニエって言うなって神殿で……」

 あぁ……っとジロは神殿騎士団本部の一室での出来事を思い出した。


「なんて呼ぶんだっけか?」

「従者じゃなくて、リーベルトでしょ! リーブって呼んでってエリカが言ってるのに! まったく! 

もう!!」

「そうだ、そうだ。リーベルトだ。もう忘れない」

「本当!?」

「本当。だから将軍エリカ。平隊員のリーベルトに、将軍自ら大物を釣ってあげたらどうだろう?」

「それ! それいい! ジロったら、たまには良い事言うね!」

 そう言ってエリカは水辺へと駆け戻った。


「まぁ、本当に良く来た。これは俺の本心だ。助かった」

 声を潜めてジロはリーベルトにそう言った。

「護衛はどうしました?」

 ジロは逃げていった護衛達の事と、今現在直面している事態を余さずリーベルトに伝える。


「ふ~~~ん。やっぱりね。僕は護衛達は無駄だと最初から思ってました。でも激情家のガルニエ先輩がよくもまぁ、追いかけて斬り殺さなかったものですね」

「しようとしたさ、でも、幽界に入りたてで状況も分からなかったし、何よりもエリカの側を片時も離れたくなかった。それに皆がいなくなった後、『エリカはあれでよかったと思うの。みんな嫌がってたんだもん』ってな。だったら俺はあいつらを当面の間は忘れてやるさ」

「従者の頃から思っていましたけど、ガルニエ先輩って理想家ですよね。王国騎士に結構な理想や期待を抱いていらっしゃる」

「うるせぇな。俺の兄上みたいな事ぬかすな、生意気な。……そう言うお前はガキの癖に、現実主義者的すぎだろう」

 リーベルトは肩をすくめた。

 大人びた仕草がリーベルトの無意識の癖だとジロは従者をさせている時に気づき、以来気にすることはなくなったのだが、今のは芝居臭いと感じた。


「それで、エリカはどうなんです? 気落ちしてたりしてませんか?」

「さぁな、あまり踏み込んで話してはいない」

 そう言うとリーベルトはジロに見せたことのない視線でジロを見てきた。

(なんというか、あきれている?)

 「エリカ。護衛がいなくなった話は残念だったね。君はしっかり聖女だ。みんな無事だろうさ」

 馬鹿! っとジロはリーベルトの事を叱りたかった。ただでさえ重責を背負っているのにっと。

 そんなジロの葛藤を余所に、リーベルトはエリカの側に歩いていった。

エリカは釣りをしながらリーベルトを見上げる。


「うん! 誰だってみんな生きたいもん! 偉い人に言われて死んじゃうのなんて嫌だもん! アタシも怖いけど、エリカは大丈夫だもん!」

「エリカは偉いな。僕は、ちょっと感動しそうだ」

「当たり前じゃない! だって、エリカは『普通』の聖女だもん!!」

 その宣言を聞き、ジロの気遣いはすべて杞憂だった事に気づいた。


 エリカが聖女という言葉を嫌がったので『普通』と言ったが、エリカはジロが思っているよりも、しっかりと現実を見ていた。

 そう言うエリカに、リーベルトは微笑みながら、目を細めて頭を撫でた。

「エリカ。君はその心根だけで聖女って呼ばれるに値するよ」

そうでしょ?っとエリカは笑って頭を撫でさせている。


 ジロがエリカの幼なじみであるのと同じように、リーベルトはしっかりとエリカの幼なじみだという事に、ジロは改めて気がつき、人知れず微笑みを浮かべた。


 リーベルトが再びたき火に戻ってきてから話を再開する。

「これ、役に立ちませんでした。こちらと違って僕は一回も死霊に襲われなかった」

 っと言って、ガルニエ家に届けておくと言っていた小指の爪程度の魔石付与されたレイピアと皮鎧を指し示した。


 リーベルトはレイピアを二本と皮鎧を二つ持ってきていた。

 最期の一セットは街道のどこか目立つ場所に置いておくつもりだと言った。

 真意をはかりかねたが、ジロはまぁいいと思って次々と幽界について得た情報をリーベルトに伝える。


「ああ、それとこれはお前が身につけろ」

 そう言ってジロはポーキスとブートガングをリーベルトに渡す。

「経験のあるガルニエ先輩の方がよいのでは? 僕はこっちをもらいます」

 と言って、対死霊用には適さないとジロが判断した、カートボルクを手に取った。


 木製であり軽いのだが、面積が大きすぎる為、空気抵抗がもの凄い。

 少し無理をする軌道を剣が描くと、途端にその空気抵抗が使用者に牙を剥く。

 実体のない死霊に対しても、実体あるゾンビに対しても不向きな武器をどうしてマニーは送ってきたのかと、ジロはいまだに首を傾げていた。


「いや、そっちは非常に使いづらい。お前にはブートガングの方が相性がいい」

「そうですか。あなたの言う事だ、従います。ではポーキスの方は、ガルニエ先輩が使ってください」

 リーベルトがそう言ったのを聞き、ジロはリーベルトに大物を食べさせようと再び釣りに熱中し始めたエリカをうかがい、声を落とす。

「祭壇に着いた時、ポーキスに守られて無傷であった方がいいのは、『聖女』を生きて帰らせる秘策のある俺か?それとも、それを持たないお前か?」

「……そうですね。では僕が着させてもらいます。先輩はこの皮鎧を。僕が着てみた感じですが、これも中々の一品ですよ」

 抵抗を示すことなく、リーベルトはジロに従った。


 見た目以上に軽い魔法の鎖帷子ポーキスを手渡し、ジロは魔石付与の皮鎧を着込む。

 非常に強力なポーキスと比べたからか、なんの変哲もない皮鎧だった。

 リーベルトの言うままに、適当な魔法を行使してみると皮鎧の真価が分かる。

 魔法使用時の補助的な役割があるため、魔力の行使が心もち楽である。

 それに皮鎧に刻まれた紋章を見る限り、魔石の力を使い精神抵抗の細工が施され《精神汚染耐性》が発動しているようだ。

 死霊の攻撃にもある程度の抵抗力はありそうだった。

 そしてレイピアの方は予備として、互いに一本ずつ持つことにした。


「実戦経験はないが、エリカでさえすぐ慣れた。お前もすぐ慣れる」

「そうですね。頑張ります」


 そう言ってリーベルトは手を差し出し、ジロはそれをためらう事もなく、強く握りしめた。


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