第344話 『 リミットブレイク 』
――33秒
(即行で終わらせる……!)
俺は影となり地面を這い、一挙に怪物へと接近する。
怪物が光線を次から次へと連射する。
しかし、影となった俺には当たらない。俺は光線を無視して怪物の躯まで這い上がる。
(喰らえ、これが〝蛇〟と〝刃〟の複合技――……)
――俺は影となり怪物の躯を這い回る。
……そして、俺は再び具現化して、怪物の前へと飛び出した。
『 あっ 死 ェ 』
――怪物の顎がこちらを向き、口腔から光が伸びる。
「 ウスノロ 」
……俺は一切の抵抗を見せない。
……怪物は構わず光線を放
――斬ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……!!! 怪物が細切れに斬り刻まれた。
「 流刃蛇斬……お前は何もかもが遅すぎるよ 」
俺は着地して怪物の方へと視線を向ける。
……そこには無数の肉片となった怪物がいた。
(……決まったかな。〝蛇〟で這い、這った先を〝刃〟で斬り裂く複合技だ、脳も心臓も細切れだね)
〝八咫烏〟の発動限界もまだ二十秒以上残っていた。
「お前はそこで一生沈んでいな」
俺は怪物に背を向け、再び〝おろち〟を追い掛けるべく歩き出し
『 オッ 』
……何てことはない。
「……へえ、生きてたんだ」
……怪物は生きていた。というよりバラバラになった肉片が一つとなり再生していた。
普通、脳味噌を刻まれたら人は死ぬ。
普通、心臓を刻まれたら人は死ぬ。
……だが、怪物は生きている。
人の常識に当てはまらない、人ならざる存在。
――故に、怪物。
「りょーかい」
……だけど、俺はビビったりはしない。
「じゃあ、斬り刻んだ上に冷凍保存してやるよ」
……話は単純。更なる殺し方を考えればいいのだ。
「俺は〝からす〟――元〝KOSMOS〟の一人」
――とぷんっ……。俺は再び〝蛇〟で地面に潜った。
「殺すのは得意だよ」
――ズッッッッッ……! 俺は地面を這い一気に接近した。
「もっかい、行こうかい」
『固、カタカタカタァーーァーーく、なァれェぇぇえ』
流 刃 蛇 斬
――俺は怪物の躯を駆け巡り、飛び出した。
が
『 今度はぁぁぁaaぁぁァァァァ 』
……斬れない。
(ーー肉体の硬度を強化したのか!)
意外にも知能はあるようであ
『 コッチのォ――BAN 』
――破壊の光線が俺目掛けて放たれる。
「あったらないよー♪」
朧
――スカッ……。俺は〝朧〟で身体を透過させ、光線を回避した。
「 & 」
闇
――周囲一帯が闇に染まる。
「 & 」
……が、俺はすぐに〝闇〟を解除した。
(――残り時間十九秒)
俺は〝朧〟を解除し、直ぐ様、怪物目掛けて駆け出した。
『 終 光
のォ ィ ィ 』
エん ィ
――閃ッッッッッッッッッッッッ……! 破壊の光線が降り注ぐ。
「 避けないよ 」
――ドッッッッッッッッッッッッッ……! 閃光が〝俺〟を貫いた。
「――陸の型」
『 しーしーしィー 』
――〝俺〟が砕け散る。
「 〝鏡〟 」
――疾ッッッ……! 俺は怪物の背後に回り込んでいた。
そう、俺は〝闇〟で暗闇をつくった隙に〝鏡〟で造った分身と入れ替わっていたのだ。
(初見なら騙せる筈!)
俺はそのまま〝刃〟を振り下ろ
『 知ッてたァ 』
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 俺が刃を振り下ろすよりも速く、怪物が爆ぜた。
「――なっ!」
俺は爆風に吹っ飛ばされ、後方へ弾かれる。
予想外。それでも俺は空中で身体を反転させ、一本の大木に着地した。
「……」
――読まれていた?
(……おかしいね。〝鏡〟はコイツに初めて見せた技の筈なのに怪物は完全に読み切っていた)
有り得ない。いや、それよりも何だろう。
……この胸の中を這う嫌な予感は?
(……怪物の強さは大体わかった。だけど、それ以外の何かがあるような気がする)
俺は再び怪物の方を見る。
(……どこかで見たことがあるような気がする)
……それは既視感。俺はどこかで怪物と会っていた。
わからない。わからないけどわかることもあった。
……怪物は俺を殺そうとしている。
ただそれだけは確信できた。
――影が差す。
「――」
……怪物が目の前まで迫っていた。
俺は身を翻して跳躍する。
怪物が巨大な腕を振り抜く。
「当たるかよっ」
――剛腕が俺の身体を掠める。
(よし、かわした
……と、思ったら。
――更なる拳が絶え間なく襲い掛かっていた。
「うわっとォッ!」
俺は全ての拳をギリギリのところでかわし切る。
ギ ル
ッ
ュ
――俺の足首に怪物の尾が絡み付く。
「――ッ!」
『 つ ま た
か エ ァ 』
怪物が拳を振り抜く。
俺は〝八咫烏〟を発動する。
朧
――スカッ……。俺は怪物の拳を回避し、ついでに足首の拘束から逃れる。
(――残り18秒ッッッッッ!)
俺はすぐに〝朧〟を解除し、高速回転しながら伸びきった怪物の腕を斬り刻む。
『あーッ、ァ 、アアアッ、イタィよォおおォ、イヤだァ、アアアアアアッ』
――怪物はすぐに腕を再生させて、更には硬度を更に高めた。
『 あ ? れ 』
怪物が戸惑う。何故?
『 あ ユウくん ゆうくん わァ どこドォコ 消えちゃったョお ユウクン 』
……そう、俺は怪物の前から姿を消していた。
「 〝八咫烏〟――解除 」
そう、俺はいたのだ。
……怪物の腹の中に。
――ピシッ……。怪物の巨大な体躯に亀裂が走る。
「いくら皮膚を固めようが、腹の中だけは鍛えようがないよね」
……残り時間、十三秒。勝負は決した。
「 〝流刃蛇斬〟 」
――散ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 怪物な肉体が飛び散った。
「〝蛇〟であんたの口から体内に入り込み、〝流刃蛇斬〟で体内から斬り裂く」
どうやら上手くいったようである。
とはいえ、怪物には再生能力がある。故にこれで気を抜く訳にはいかなかった。
「後始末はきっちりやるよ」
――〝幻影九麗〟、玖の型。
「〝氷〟で凍らせちゃったら流石のあんたも再生できないよね」
飛び散った怪物の肉片が徐々に集まりつつあった。
(……これを凍らせ
――コンッ……。俺は〝何か〟を蹴った。
「……ん?」
俺は不意に足下を見た。
「……アクアマリンのブレスレット?」
……そう、それは嘗て、ドロシー姉ちゃんが俺達に造ってくれたものであった。
(……俺のじゃない)
俺が貰ったブレスレットは今も俺の腕に身に付けられていた。
じ ゃ あ 、 誰 の ?
……最悪の予想が脳裏を過った。
「……嘘だろ?」
俺は知っていた――俺の仲間で怪物に姿を変えられる人を……。
「……違うよね? 人違いだよね?」
……認めたくない。だけど、確認せざるを得なかった。
「 カノン兄ちゃん、じゃないよね? 」
――ドッッッッッッッッッッッッッ……! 土手っ腹が鋭利な爪で貫かれた。
「……なん、で」
まだ完全に再生していなかった筈なのに!
俺は貫かれた方向であろう後ろを見た。
……一本の腕だけが再生されていた。
(……再生能力を腕一本に集中させたのか)
しくじった。怪物の能力を見誤ってしまった。
(まずい、〝さそり〟と〝おろち〟との戦いでかなり消耗していたのに、重い一撃を喰らっちゃったな)
出血のせいで意識が薄くなるのを感じた。
「――ッ!」
俺は貫いた爪を斬り裂き、後ろへ倒れ込む。
(……ヤバい、思ってたよりも深いや)
俺は〝氷〟で氷結して出血を止めるも、失った血液は再生できなかった。
いや、それよりも問題は――……。
『 オッ 』
……怪物は既に完全回復して俺の前に立っていた。
(……ここまでか)
肉体は既に満身創痍、〝八咫烏〟も残り十秒ちょっと、逃げるのも、倒すのも絶望的であった。
「……………………なんてね♪」
……否、俺はまだ諦めてはいなかった。
確かに戦況は最悪だが諦めるにはまだ早かった。
「手足は動くし、〝八咫烏〟もまだ十秒は使えるんだ」
俺は何が何でも生き残るって決めたんだ。 だから、今日も明日も生き続けるんだ。
「俺の邪魔をするんだったら、カノン兄ちゃんでも容赦はしないよ」
大好きで大切な仲間だけど、全部が全部を許すつもりはなかった。
「……」
そして、俺は独りではなかった。
「カノン兄ちゃん、忠告するよ」
『 ? 』
俺には仲間がいる……信頼できる仲間がいるのだ。
「 そこ、危険だよ 」
――轟ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 灼熱が怪物を呑み込んだ。
「遅くなりましたッ、ユウさんッ!」
「うん、待ってた」
――フレイが俺の下へと駆け寄ってきた。
「ユウさん、ご無事ですか」
「お陰さまで」
数時間振りの再会だが、偉く長い間会っていなかったような気がした。
『 あぁあァァaaあぁァァァァアアアーーーッウイィィィィィィィィッッッッ……! 』
「「 !? 」」
――炎の中から黒焦げになった怪物が飛び出し
――ゴッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ……! 飛び出した怪物を巨大な拳が殴り飛ばした。
「――なっ!」
殴られた怪物は地面をバウンドしながら吹っ飛ばされた。
「 油断大敵ですよ、お二人さん 」
……そこには怪物よりも巨大な魔物がいた。
(……話には聞いてたけど凄い威圧感だ)
その魔物は世界でも五本指に入るほどに有名な魔物であった。
「これが氷雪系最強の魔物――バハムート。凄いね、ドロシー姉ちゃん」
魔物も凄いが、それを操るドロシー姉ちゃんも凄かった。
「少し休まれてください、ユウくん」
「はい、後はわたし達に任せてください」
「……」
俺には仲間がいる。
信頼できる仲間がいる。
最早、恐れることなどなかった。
「……わかった、後は頼んだよ」
――緊張の糸が切れた俺は膝をついた。
「……俺はちょっと眠らせて……もらうから」
倒れそうになった俺をドロシー姉ちゃんが抱き抱えてくれた。
「……カノン兄ちゃんを……救って……くれよ」
……薄れ行く意識の中、最後に俺は呟いて、眠りについた。
「「 任せてください 」」
……ぼんやりとした意識の中、二人の力強い声が聴こえた。




