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短いお話たち  作者: いとい・ひだまり


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9/9

月と夜のふとん

 いつも全力疾走だった。

 それでよかった。楽しかった。

 それでも急に走れなくなって、止まったわたしはこのまま夜に飲み込まれるのかと思った。


 カーテンに(くる)まって一人寂しく啜り泣いてやろう。

 そうして手を伸ばしたら、その後ろには夜があって、丸い月が浮かんでいた。

 なんて綺麗なんだろう。

 まるで初めて見たみたいに、わたしは駆られて外へ出た。


 ただそこに浮かぶ月は、街灯よりも優しい色で世界をほんの一段明るくしている。

 月は淡い強さで、わたしの手を握った気がした。


「おつきさま……」


 返事をすることはないのだけれど、その光は夢の中のように綺麗で、わたしはつい涙が滲んだ。


 もう少し、ここにいたい。

 今は強い光じゃなくて、やわい光に抱かれていたい。夜の中で休みたい。

 そしたら、元気になったら、またわたしは歩き出すから。

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