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記憶
随分と久しぶりにあなたの元へ来た。その昔がいつだったのかさえ思い出せない。
白いカーテンのその先には黄緑の芝生が広がっていて、丘の上にグランドピアノが一つ。空へ音を飛ばせるように壁のないその場所へ、裸足で踏み出して、柔らかい草の上を歩いていく。
白い小さなわたしの家を背に、風が迎えるように正面から柔らかに吹いた。
鍵盤蓋も、屋根も開いている。わたしは椅子に座らないまま、白い鍵盤に指を置いた。
――ド。
指先から空に舞い上がった音へ目をやる。そしてもう一度、鍵盤へ。
あぁ、こんな音だったのか。
記憶の中の音は薄れてくぐもって、消えてしまいそうだったのに。
――C。
親指、中指、小指……。綺麗なコードだ。
あぁ、そうだ。あなたの音はこんな音だったな。どこまでも透き通っていて、力強く、それでいて丸い。
忘れていたよ。
大地のように安定し、雲のように軽やかな、あなたの音を。
黄緑色の丘の上に、グランドピアノが一つと、奏者が一人。野に立つ真っ黒な煌めきはわたしと手を取り、軽やかに進む大地の音色を放っている。




