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プロローグ 爆発

 2026(令和8)年12月25日、午前1時すぎ。東京・大久保の小さな雑居ビル。


 先日この街にオープンしたばかりの「深夜営業専門喫茶店」には、4人の客がいた。


 ――北川連。24歳。空色のスウェットパーカーを着て、使い込んだギターケースを抱えている。レコード会社の一年目社員にして、ミュージシャン志望。新宿の路上でクリスマスライブを終え、紅茶を飲みながら一息ついているところだ。

 ――高杉拓哉。29歳。タートルネックの上に黒いロングコートを羽織り、煙草をふかしながら文庫本を読んでいる。元国語教師で、元・売れない芸人。恋人に振られ、ステージに立つ元気を無くしてからは、しばらく仕事をしていない。

 ――赤井みどり。26歳。名前と同じ緑色のニットのカーディガンを着て、深い赤色のスラックスを履いている。仕事は週刊誌の記者。コーヒー片手にマックブックを開き、取材先から来ていたメールを読み返している。

 ――隅田舞。21歳。ワイドデニムの上はベージュのダウンジャケット。料理人志望の大学生。居酒屋のキッチンからのバイト帰りで、イヤホンをしながらiPhoneでショート動画を眺めている。


 店の外では酔っ払いの騒ぎ声が響いていたが、4人には、それぞれの落ち着いた時間が流れていた。


 午前1時25分。

 連がふと、天井から漂うガス臭さに気付いたその時。


 バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッン!!!!!!!!!!!!!!!


 天井から建物全体が、この世のものとは思えないほど凄まじい爆発音と烈火と共に、襲い掛かった。


「――え?」

「――何?」

「――熱い」

「――暗い」


 痛みと耳鳴りの奥に、遠い静寂があった。


 連が目を覚ますと、裸電球一つだけが吊るされた、古めかしく寒い部屋の中だった。

 そこには、同じ深夜喫茶にいた何となく見覚えのある3人の人間がいた。

「外、雪が降ってる」――舞が言う。

「ここって夢なの?……それとも天国?……地獄?」――みどりが言う。

 拓哉は黙って煙草に火をつける。


 連は思い返す。多分大きな、ガス爆発があった。体ごと飛ばされ、潰された。確実に、死んだと思った。

 今は…今は、体に痛みが無い。緑のカーディガンの女性が言うように、ここは別世界なのか。


 だとしたら、家族や友達や好きだった人達にはもう会えないのか。


 自分の人生は、何者にもなれずに終わってしまったのか。


 ライブは、もうできないのか。

 それはひょっとしたら、出来るかもしれなかった。今も僕はギターケースを抱えている。


「ちょっと皆でゆっくり話すか?」


 拓哉が口火を切り、クリスマスイブの深夜にそれぞれ1人だった4人は、身の上を明かし合った。


 お互いのことは少しずつ分かっても、飛ばされてきたこの世界がどういう世界なのか、この部屋が何の部屋なのか、自分達は死んだのか、元の世界に戻る方法はないのか、情報を持っている人は誰もいなかった。


 初めての情報源は、部屋の隅に仰々しく鎮座した、音質の悪いラッパラジオだった。


「――皆様、お休みのところ、東京放送局より速報であります。かねてから病の重かった天皇陛下が、午前1時25分、心臓麻痺により崩御あらせられました。陛下が、崩御あらせられました。本日、大正の世が幕を閉じることとなりました。」

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