第93章:もう一人の黒幕
「今日は静かだな」
学院の休みを利用して、レイとセラはギルドの掲示板の前に立っていた。
ザイロスの事件から数ヶ月。街には再び穏やかな日常が戻り、魔王軍の影も見えない。
けれど、レイの胸の奥には、何か言葉にできないざわめきが残っていた。
「これ、どうかな?」
セラが指さしたのは、小さな村で起きた“魔物の連続失踪事件”。
魔物が消える──普通なら喜ばしいことだが、その異常さにレイは眉をひそめる。
「……気になるな。行こう」
二人はそのまま現地へ向かった。
◇ ◇ ◇
村の森の中は静まり返っていた。
だが、血の臭いがかすかに漂い、地面には焦げたような跡が点々と続いている。
「……これは、魔法の焼け跡?」
「いや、違う。魔力の残滓が不自然に薄い」
レイは地面に手を当て、感知魔法を使う。
だが、魔力の流れが途中で途切れていた。まるで“誰かが意図的に消した”かのように。
セラが不安そうに辺りを見回したそのとき──。
「──ッ!」
耳をつんざくような悲鳴が森の奥から響いた。
二人は駆け出す。木々を抜けると、そこにはボロボロの服を着た少女が倒れていた。
長い銀髪に、傷だらけの体。息も絶え絶えに、彼女はレイを見上げて呟いた。
「……助けて……“黒い鎖”が……私の仲間を……」
「黒い鎖?」
レイが問い返す間もなく、少女の体に黒い紋様が浮かび上がり、苦痛に叫ぶ。
「セラ、抑えて!」
「わ、わかった!」
二人が急いで治癒魔法をかけるも、紋様はゆっくりと体内に沈んでいく。
その痕跡からただよう魔力は、明らかにザイロスのものではなかった。
──まるで別の存在が、裏で糸を引いているような。
◇ ◇ ◇
少女をギルドに運び、治療班に引き渡したあと。
レイとセラはギルド長・グランの部屋に呼ばれた。
「……黒い鎖、か」
グランの顔が険しくなる。
「最近、他の街でも似た事件が報告されている。痕跡も、魔力反応も、まるで“誰かが意図的に統制している”ようだ」
「統制……つまり、組織的な動き?」
レイの言葉に、グランは重々しく頷いた。
「そして──」
机の上に置かれた書類には、一つの名が記されていた。
【黒鎖教団】
「……まさか、まだ裏に……」
セラが息を呑む。
「この教団は、ザイロスが消えた直後に活動を始めたらしい。
ただの残党ではない。むしろ、“ザイロスすら操っていた存在”かもしれん」
その言葉に、空気が凍る。
レイは拳を握りしめ、静かに呟いた。
「……黒幕は、まだ生きている」
その目には、再び闇を断つ決意の炎が宿っていた。




