第86章:依頼デート
文化祭の喧騒が過ぎ、週末。学院は休みに入っていた。
レイは朝から冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。色とりどりの依頼書が貼られており、討伐や護衛、薬草採取など内容は多岐にわたる。
「どう? 何かいいの見つかった?」
隣でセラが声をかけてくる。制服ではなく動きやすい冒険者装備に身を包んだ彼女は、すっかり学園生とは違う雰囲気を纏っていた。
「そうだな……あんまり重い仕事は休みにやるもんじゃない。薬草採取の依頼なんてどうだ?」
「えー、採取だけ? たまには派手なのがいいな」
「派手なのは、どうせすぐ舞い込んでくるだろ。今くらいは平穏でいい」
「……ふふっ、そうね」
二人は薬草採取の依頼書を受け取り、街を出て森へ向かう。
木漏れ日の下で風に揺れる草花をかき分け、目当ての薬草を探す。戦いの緊張感はなく、ただ穏やかな時間が流れていた。
「ねえレイ、こういうのってデートっぽくない?」
「デートで草むしりは聞いたことないな」
「でも二人きりだし、なんだか特別な気がする」
頬を赤らめて微笑むセラを見て、レイは言葉に詰まる。戦場では決して味わえない照れくささが、胸を満たしていた。
――とはいえ、平穏がずっと続くわけではない。
茂みから突如、低い唸り声が響いた。小型の魔獣が三匹、牙を剥いて飛び出してくる。
「ほら、やっぱり派手なのが来た!」
「……だから言ったんだよ」
剣を抜き放ち、レイは迫る魔獣を軽やかにいなす。セラも魔法で援護し、数分もしないうちに森は再び静けさを取り戻した。
二人は互いに目を見合わせ、そして笑う。
「ちょっとしたスパイスがあった方が楽しいでしょ?」
「まあな。けど、あんまり刺激が強すぎるのは遠慮したい」
集めた薬草を袋に詰め、二人は街へ戻る。
ギルドで報告を終え、報酬を受け取ったあと――外のベンチに腰掛けて、ゆったりと風を感じた。
「こういう時間も、悪くないな」
「でしょ? 私、ずっとこんな日が続けばいいなって思ってる」
セラの言葉に、レイは小さくうなずいた。
戦いのない日常。それは短く儚いものかもしれない。
だが確かに、今ここにある。




